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怪物狩りの少女、異世界でも怪物を狩る!~何をすればいいのか分からないので一旦は怪物倒しておこうと思います~  作者: 村右衛門
第2章「予言者の国」

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57.事の顛末を、語る前に。


 ――斬れろ、斬れろ、斬れろッ!!


 フェナリがグラルド卿と共に放った一撃――『紫陽花』は、問答無用の最後の一撃である。『花刀』の制約の下、この一撃を外せば、フェナリの命はない。しかし、この一撃には同時に、自らの命を懸けるだけの価値があるのだと、フェナリは確信していた。

 グラルド卿の『騎士術』・共極、フェナリの持つ『花刀』、その二つの要素がかみ合ったことによって成立した、『花の一閃』最後の一つ。完全なシンクロ状態から放たれた二撃は、最早一閃となり、『厳籠』の首を捉えていた。


 上空から恐ろしい速度で降下しつつ、その勢いの中でフェナリとグラルド卿の斬撃が『厳籠』の魂を滅さんと当てられている。刀が、大剣が、そして自分たちの体が空気を斬り、圧し潰し、風切り音が轟音となって耳朶を叩く。全員が全員、何らかを叫んでいたが、その声すらも聞こえなくなるような環境で――、



 ふと、『花刀』が消滅した。



「ぁ――『花刀』が……」


『花刀』が、消失した。しかし、フェナリは生きている。それは、制約の通りに敵の魂を捧げることが出来た、という事の証左であった。

『固い空気』に何度も足をかけ、降下の勢いを殺して中空で静止する。その場でへたり込んでしまいたくなる衝動を如何にか抑えて、上手く『固い空気』の上を歩いた。


「グラルド卿……」


「あァ、よくやッたな――嬢ちゃん」


「っ……はい」


『厳籠』討滅作戦の成功が、確実なものとなった瞬間だった。

 やっと終わったのだという達成感や感慨。何もかもを抱えて、下を覗き込む。地面には罅割れの跡があり、その中心にあるのは『厳籠』の体だ。端から消滅が始まっている。中に入っていた魂が消えたことによって、その外殻も役割を失ったのだろうか。


「まァ、何だかんだあッたが、どうにかなッて良かッたな」


「様々、ご迷惑をおかけしました」


「嬢ちゃんのせいじゃねェよ。全部、あの『厳籠』とかいうヤツのせいッてことで、いいだろ」


 そう言ってフェナリを宥めてから、グラルド卿はそろそろ地上に戻るかと声を掛けた。フェナリが『騎士術』を継続できた時間は、グラルド卿の想像を大きく上回っていて、今も『騎士術』の効果が切れていない、というのは驚きの事実だ。とはいえ、『厳籠』との戦いも終わった今、大きすぎるリスクを抱えて中空に居座る理由は、もう無かった。

 上手く、『固い空気』を見つけつつ下に降りて行こうとして、グラルド卿は真っ先に異変に気付いた。


「嬢ちゃんッ、何か知らねェが――」


 下がおかしい、と叫ぼうとした瞬間、グラルド卿の目の前でフェナリが消えた。咄嗟に、残像を追ってグラルド卿の視界が下へと向く。先程から消滅しかけている『厳籠』の外殻、その腹の部分から、骨が一本だけ伸びていた。それが触手のようにフェナリを絡めとり、地面へと引き摺り下ろしているのだと、グラルド卿は把握する。

 理解すると同時に、彼は『固い空気』を下から蹴り、勢いよく降下を始めた。落下よりも速く、フェナリが地面に叩きつけられるより先に、彼女に追いつかんとして。


 ――しかし、遅い。ほんの少しだけ、遅い。

 

 先程フェナリがいた場所というのが、中空だった。それが、悪かった。高度が比較的低いせいで、グラルド卿の落下速度が最大限まで上昇するだけの距離を稼げない。その存在が消える前の最後の足搔きをする『厳籠』の膂力に、すんでのところで、届かない。

 

「ッ――クソがァ!!」


 歯噛みするまでもなく、叫ぶ。何もかも、不条理なのだ。だから、叫ぶ。

 珍しく、グラルド卿も無我夢中だった。周りが、見えていなかったと言える。感覚で、すべてを把握できるはずの彼も、この時ばかりは感覚を全て脳内で処理できなかった。脳内を感情が占めた結果だ。

 だから、見えていて当然の者が、見えなかったのだろう。



「――震えろ(quake)風吹け(blow)



 その瞬間、フェナリを絡めとっていた触手のような骨は根元から砕け散り、突然宙に投げ出されたフェナリの体は下から吹いた風によって浮かされる。そして、緩やかにその身体が高度を下げて行って、ある男の腕の中へと収まった。

 フェナリは状況が理解できずに困惑の瞳で、目の前の男の瞳を見返す。片方は緑のローブに隠れていて、目が合ったのはもう片方だけだった。


「いやぁ、空から女の子っていうのも珍しいものですね。ええ、ええ――まあ、経験したことの無いことか、というと否の返事を返さないといけない私の潤沢の経験は面白みに欠けるところありますが!」


「え、ぇっと……あの――っごほ、っう」


 空を歩きながら、グラルド卿がようやくか、と思う。『騎士術』・共極による実力の前借。その代償を、今フェナリが払っているのだ。

 シェイドも、二秒だけの極点見学で数秒咳き込み続けた。フェナリが前借りした一分あまりの実力の代償と考えれば、中々のものになることは容易に想像できた。

 必要なことだったとはいえ、半ば強引に『騎士術』を共有したことは申し訳なく思いながら、グラルド卿はもう少しの高度をゆっくり降りていった。



 ――そしてフェナリの咳が落ち着いて。


「おやおや、よくよく見ればあの時の奥さんじゃないですか! いやぁ、次に会ったときは是非色々とお話しさせていただこうと思っていたところでしたけれど、こんなに早くその時が来るとは、私思ってませんでしたよ。いやそれこそ、ええ、ええ、それこそ百年くらいは後かとすら思ってましたからね。あ、と言っても、しっかり奥さんの存在は聞いていたんですけどね? それこそ、お偉いさん方が何やら面倒そうなことやってましたですから」


「え、あの……まず、は、助けていただいてありがとうございます……?」


「御礼なんて要りませんですよ。なんたって、檻が消えたなぁと思ってちょっと散歩していたら上から奥さんが降ってくるという無くはないけれど絶妙に珍しいことになっていた、というだけの話ですからね。というかあれですか。なんだかんだ、奥さん相手には私が魔法使いであるっていうのも初出の情報になるわけですか」


 恐ろしい速度で回る彼の舌。フェナリもお姫様抱っこの格好で彼の――ムアの腕に抱かれている状況に困惑したり恥ずかしがったりとしている暇もなく、そのマシンガントークに気圧されるばかりだ。

 そこに、着地を果たしたらしいグラルド卿が助け舟を出してきた。


「ムア、来てたのかよ。『厳籠』のヤツは丁度倒したばッかだぞ。遅い――と言ッてやりてェが……お前がいなければ、嬢ちゃんはどうなッてたか分からねェからな。感謝する」


「これはこれは、紫隊長さんじゃありませんですか。何か色々あって私としては状況あまり分かってなかったんですけど、怪物倒せて、全員帰還! ええ、ええ、いつの間にか祝福の幕引きで大団円、ということですか」


「おうよッ、嬢ちゃんの――」


 ――おかげもあッてな。そう続けようとして、はっとグラルド卿は口籠る。そして、静かにフェナリの方へと視線を飛ばして、フェナリはその視線に小さく頷いて返した。


「えっと……店主、さん?」


「あ、私ムア・ミドリスと言いましてね。そういえば初めての自己紹介でしたけど、一応ホカリナの筆頭魔術師という立場でやらせてもらってるわけです」


「筆頭、魔術師……えっと、ではムアさん。今回のこと、出来れば黙っていていただきたいんです。私が戦場にいたことも、空から……落ちてきたことも」


 ムアがフェナリを助けたことは事実であり、この場にムアがいなければフェナリは死んでいたかも知れない。しかし、同時にムアがいたからこそ、フェナリはその実力を知られる可能性ができたとも言える。

 最終的に、関係者全員にすべてを隠しきれるなどとは、フェナリも思っていない。しかし、その段階は適切に踏むべきだと、思っている。不用意に実力を不特定多数の人間に知られるようなことは、避けたいのだ。


「ふぅむ。何があった、何がどうした、あんまり分かりませんけれど、ええ、ええ――その申し出受けておきましょう。面倒そうなことは正直避けたいお年頃でしてね」


 あまり、周りに実力が知れ渡るのは避けたい。そう思っていたフェナリ。だから、ムアの言葉を聞いて彼女も安堵した。

 

 それから、フェナリはムアの腕の中から下ろされ、三人それぞれ立って向き合い、ひとまずは『厳籠』の討滅を果たしたことを喜び、称え合った。


「――他の奴らも来たみてェだな」


「では、私は一度離れておきますので。――出来ればアロン殿下に私の無事をお伝えいただけると」


「あァ、伝えとくぜ。ッてか、アイツの場合、ソレを知るまでは本題に入らねェだろ」


 そんな会話を経て、フェナリは近くの建物の陰まで走る。それから少しして、騎士たちがやってきた。その先頭を率いるのは指揮官であった二人だ。


「グラルド卿――報告を」


「はい、王子殿下。――主敵『厳籠』を討滅致しました。また、()()()()()()()()を果たしてございます」


「――そうか。『厳籠』の討滅、ご苦労であった」


 グラルド卿の意図を汲み取り、アロンの表情も軟化する。恐らく、ずっとフェナリの安否を気にかけていたのだろう。結果として何事もなく帰還できたことを知り、安堵の念も一入というものであろう――から、フェナリが死にかけていた事実は、グラルド卿からは伝えないと決めた。

  

 その後はディアムの案内により、王城へと戻ることとなっていった。一部ホカリナの騎士たちは現場の状況を確認するために残った。



  ◇



 戻ってきたのだと。アロンは思った。途中で合流し、今はアロンの隣りに陣取っているフェナリもまた、同じことを思っただろう。ただ、その感慨は少し異なるものなのかもしれないが。

 場所は移って、ホカリナ王城の会議室。最初、フェナリが乱入してアロンに――厳密に言えばシェイドに、斬り掛かった部屋だ。この部屋から、今回の騒動は始まった。


「さて――何にも先んじて、だ」


 全員が、シェイドやグラルド卿といった騎士たちも含めての全員が揃っていることを確認し、ディアムが口を開いた。同時に、ホカリナの要人たちが立ち上がる。

 これからのことをあまり理解していないフェナリは少し困惑の表情を見せるが、これから何があるのか理解しているアロンは、静かに眼光を鋭くした。


「此度の『厳籠』討滅作戦――ホカリナの要事に際して、貴国の協力は欠かせないものであった。ホカリナ国王として、その尽力に謝意を示したい」


 ディアムの言葉に続いて、要人たちがその腰を折る。臣下が王にすると同様の最敬礼。まさか国王がするとは本来想定されていないそれを、ホカリナの要人たち――つまりは国家の上層部がしていた。

 アロンも、目の前の状況に一切の動揺が無いわけではない。しかし、これは止めるべきものではなく、受け止めるべきものだとして、短い無言で応じた。


「頭を、上げて下さい。――今回の騒動に於いて、建築物の一部損壊、数名の負傷などの犠牲はありましたが、しかし、ギルストとホカリナ――その近くも遠い関係を続けてきた二国間の繋がりは確実に強まった。それは、未来のためにもなりましょう」


 ギルストの第二王子としてではなく、国王名代として。アロンは、ただ厳かにその言葉を紡いで、今回の騒動――『三大華邪』の討滅戦一つ目ともいえる、その諸々の収束を、言祝いだのであった。


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