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怪物狩りの少女、異世界でも怪物を狩る!~何をすればいいのか分からないので一旦は怪物倒しておこうと思います~  作者: 村右衛門
第2章「予言者の国」

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37.例外的事態


「――燃えろ(burn)


 飛び迫る炎球を、グラルド卿の騎士剣が一閃にて両断する。簡単に切断されながらも、弾けた火の粉が確実にグラルド卿の手を、腕を焦がしていくのを確認して、その厄介さを改めて認識させられる。

 騎士と魔術師と言うのはギルストにおいて対立関係に置かれながら、それぞれの発展を遂げてきた。と言っても、完全に二分されているわけでもなく、騎士の中にも簡易的な一般魔術をもしもの場合のためにと修練しているものがいる。

 しかし、そんなものとは別格だ。


「一般魔術だッてのに、この威力かよ」


「魔術は得意だという自信ありますですからね」


 得意、だなんて簡単な一言で済ませていいような実力ではない、とグラルド卿は渋い表情を浮かべる。

 魔術の中で比較的修練が簡単だとされる一般魔術の中で、更に最も簡単だとされる単節詠唱。それは、奇しくもホカリナ王城で騎士団がフェナリに対して放っているものの一部と同じだ。

 しかし、その練度は、威力は、脅威は――比べ物にならない。


 奇抜な見た目の店主だが、恐らくは魔術師としてかなりの高みにいるのだろう、とグラルド卿は推測する。先程、彼が戦い慣れした人間であろう、ということは直感したばかりだ。そのことも併せて、十分に脅威足りうる。

 とはいえ、騎士の在り方とは常に、魔術師に対するカウンターだ。それは、『紫隊長』であるグラルド卿ほどにもなれば、明確な事実となる。


燃えろ(burn)、あと護れ(guard)


 戦場を俯瞰し、グラルド卿の勢いづいた剣戟を魔術にて迎撃する店主は、しかし押されていた。

 魔術と言うものは、自然の現象を再現したものである。自然の現象は、人間にとって避けることの出来ないもの。であるから、魔術は常に、相手がその術技を防げない、という前提の下で成り立つ。

 その前提の前で、騎士剣を以て魔術を両断するグラルド卿の存在は例外だった。


燃えろ(burn)凍れ(ice)震えろ(quake)――」


 炎球が、氷球が、およそその直径を人の身長と同じくするほどに膨れ上がり、地を舐めた。

 文字通り、相反するそれらの球が、震えながらグラルド卿に迫る。破壊の震撃は、燃焼と氷撃を以て木々を押し崩し、そのままグラルド卿の命すらも舐めとろうとして――


「騎士剣ッてのはな、希望だ――なんて、言わねェがよ。少なくとも、お前にとッての絶望には、なるだろォぜ」


「――ええ、ええ。本当に」


 店主は改めて、グラルド卿の脅威を上方修正する。『紫隊長』であり、ギルストとホカリナの関係構築の上で重要な要素となるから、と言う理由でわざわざホカリナの要人の前に顔合わせのために現れたという時点で、グラルド卿の存在が戦場において決して無視できないという事は予想していた。

 今でこそ関係を良好に構築してきているギルストとホカリナだが、もしも今後何らかの亀裂が入り、戦争になった場合――グラルド卿を含め『紫隊長』の立場にある者たちは、その時にホカリナにとっての最大級の脅威となる。

 だから、戦場における重要な駒の一つであると自己を評価する店主もまた、それらの脅威に対抗する方策は幾つも思索していた。


 ――そのどれもが、打ち砕かれる


「粗野な言動、性格――それでも繊細で流麗な剣戟、ですかぁ。これは、これは……」


「戦ッてんだから、口調は気にすんな。社交界で会ッた時は、丁寧に話してやる」


 戦いと言うのは、常日頃素の口調を隠しているグラルド卿にとって、ある意味都合がいい。その時ばかりは、粗暴な言動も戦闘時の副次的な影響なのだと言い訳できるから。

 だから、騎士団以外で見せるのはアロンやフェナリだけであろう粗い言動も、この時ばかりは隠さない。戦闘時の、礼儀と言うものだ。事実、ギルストにそう言った礼儀作法があるわけではない。グラルド卿が、礼儀作法は付け焼刃である彼が、唯一初めから持っている、礼儀作法。


 ――戦うなら、素を曝け出す


 礼儀作法、という相手を慮るための概念に対して、戦いを前提に置いているそれは、最早礼儀作法として成り立っていないのかもしれない。しかし、グラルド卿はそれを自らの持つ礼儀作法として確立した。

 誰から何といわれようとも、グラルド卿がそれを自らの指針として、そして貫けば、それは一つの確立された作法となる。


「だから――曝け出そうじゃねェか、本気を」


 目の前の店主は、本気を出さねばならない相手だ。

 ずっと、絶対的頂点たる『紫隊長』としてやってきたグラルド卿にとっては珍しいことに、本気を出さねばならない相手が、連続した。一人目はフェナリ、そして二人目がこの店主だ。戦い方、そのタイプ自体が全く違う二人だが、恐らくその力量はほぼ同じか、店主が少し上回る程度。あとは、相性の問題だ。

 しかし、重要なのは店主とフェナリのどちらが力量的に、また実際に戦闘した時に相手より優れ、相手より劣るかではない。


 重要なのは、グラルド卿がその二人より、上であらねばならない、と言う事実。

 だから、グラルド卿は打倒せんとする。フェナリは下した。そして、今日はまた、本気を以て目の前の男を、打倒し下す。


「さァ、構えろや――騎士の本懐たるや、そんじょそこらの防御魔術で防げねェぜ?」


「あ、ちょっとお待ちを」


「――あァ?」


 戦意を高め、いざ本気を出して目の前の男を制圧せんとしていたグラルド卿が、店主が告げた突然の待ったに動揺してしまう。これが相手の策略だったら罠に嵌ったことを悔やまねばならないが、その声音に嘘の色はない。

 であれば、本当に待ったをかけたというのか。戦場で、そんなものが成立するとは、恐らく店主も知っているだろうに。


「なんだァ、急に――?」


「丁度今、『連絡』がありましたです」


「『連絡』――ッて、周りに伝令はいねェだろ」


「いえ、『魔械』による魔力を通しての『連絡』です。まあ、私は『魔械』を介入させずとも、直で魔力の意味を読めるですが――」


 ふと告げられた、『連絡を行う魔械』という恐らくはホカリナの機密にでも当たるであろう言葉に頬を固くし、続けられた『魔力を読める』という不可解な言葉に内心首を傾げたグラルド卿。しかし、反応すべきはその二つのどちらでもなかった。

 さらに続けられた店主の言葉。それに、グラルド卿は驚きつつも、納得していた。やっと、違和感が解けた、と。


「国王陛下からです。――『アロン国王名代の進言に基づき、例外的事態を認める』と」


「――『例外的事態』」


「ええ、ええ。突然の非礼を先んじてお詫びして――お詫びも兼ねて、ホカリナ王城までお連れしますです」



  ◇



 ついに、明確な形での希望を得たアロンが、ディアムとの会議のために元の部屋へと戻った時、ディアムから告げられたのは、予想外の事実だった。


「――グラルド卿が、国境付近に?」


「うむ。ホカリナの筆頭魔術師から『連絡』があった。現在は国境内に立ち入らないようにしている、と」


 『紫隊長』と言う役職は、ギルストの国家最高戦力として大陸に知れ渡っている。

 だからこそ、彼らは他国の国境を安易に越えられない。国境を超える、というのは明確な戦力投入として認められるからだ。それを理解しているからこそ、グラルド卿も越境行為はせず、国境付近に立ち止まったのだろうが――


「ディアム国王、進言したいことが」


「うむ、恐らく考えていることは同じであろう」


「はい。『例外的事態』――『紫隊長』グラルド卿の、越境を許可していただきたい」


 それが、ホカリナにとっては苦渋の判断になるだろうことは、当然アロンにもわかっている。

 『紫隊長』を自国に招き入れる、というのはギルストからの援助を受けるということであり、その瞬間に、事は国家的な話に膨れ上がるのだ。


 しかし、アロンは同時に理解している。

 この状況の打破に、グラルド卿は大きく貢献すると。それは、希望や願望、ましてや期待ではない。確信だ。


「グラルド卿は、必ず――奪還戦で多大なる貢献をします。断言しましょう」


 その言葉に、ディアムは静かに瞑目する。答えは決まっている。しかし、その答えをそのまま出すつもりもないらしい。

 それは利敵行為たるか。断じて、それは否だ。


 アロンがホカリナの危機を救うための、その協力者として本当に相応しいのか――今更と言えば今更で、協力される側のディアムが決定権を持つというのは傲慢も傲慢な判断。

 しかし、それを確かめずにこれ以上のことを決定することは、ディアムに出来ない。


「――『紫隊長』に他国境を越えさせる。それは重大な決断であろう。両国間の、決断になる」


「ええ、分かっています」


「両国の国王が互いに了承し、盟約を事前に結ぶべきものだ」


「ええ、ですから――ギルスト国王名代として、進言します。『紫隊長』グラルド卿の、越境を許可願いたい」


 一切声を揺るがさず、アロンが言い切る。一切変わっていないその進言内容だが、ディアムにとっての捉え方は、全く違う。

 今の進言は正しく、国王の言葉を以て為された。

 ならばこそ、ディアムはその誠意に応えねばならない。傲慢と呼ばれても仕方がないような判断だが、しかしだからこそ、応える時には大きく、だ。


「アロン国王名代の進言を聞き入れよう。――伝令、筆頭魔術師に『連絡』を。『紫隊長』の越境を許可する、と告げよ」



  ◇



「――。何かが、おかしい」


 ホカリナ王城にて、孤独の時間を過ごすフェナリは、ふと呟く。

 先程から――そう、シェイドを逃がしてしまってから、フェナリの心中は違和感で塗りつぶされていた。何かが、いや何もかもが、おかしいのだ。


 そもそも、事の始まりを思い出せない時点で、何らかの違和感が生まれるのは仕方のないことだろう。

 ふと気づいたときには怪物だらけの部屋にいて、咄嗟に戦闘を強いられたが、それまでの記憶は曖昧だ。


 何だか、何もかもが分からない状況に置かれていたことだけはわかるが、それ以外に何もかもが分からない。何もかもが分からないから何もかもが分からなくて、何も分からないと、やはり何もかもが――


「――。意味が、分からない」


 考え始めれば、考えの深まるほどに頭痛がする。それが、まさか純粋な体調不良だなどとは、考えるということの苦手なフェナリであっても思わない。

 恐らくは、何かの術技に嵌められている。そして、このままでは、いけない。


 何がいけないのか。それは――何かが、いけないのだ。


「――『雅羅』」


 その時、フェナリの口から漏れたのは、唯一共存を果たした、相棒の名。

 しかし、その名の主がこういった時に正しく介入してきたことはない。それは『雅羅』の守る、一つの境界線だ。


 しかし、求めることは止まるまい。

 状況の打破は、フェナリの得意とするところだが、状況の把握は苦手だ。俯瞰的視点を持って現状を分析する。それは、『雅羅』の役割だった。


 しかし、今の状況で『雅羅』の介入は期待できない。であればこそ、フェナリは期待する。

 胸元で淡い二色の光を灯す『運命石』――それでフェナリと繋がるアロンが、状況を打破する、そのための切っ掛けを与えてくれることを。


 ただ、怪物だらけの世界で待つ――。


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