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怪物狩りの少女、異世界でも怪物を狩る!~何をすればいいのか分からないので一旦は怪物倒しておこうと思います~  作者: 村右衛門
第1章「逃亡した結界術師」

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17.剣にて舞う


 カイウス子爵とアロンが、歓談とは名ばかりの駆け引きをし終わったのち、アロンはフェナリを伴って他の貴族たちに挨拶をして回っていた。


 先程カイウス子爵に話した内容は様々な貴族たちを伝って今や一階層全体の貴族に知られているらしく、王族であるアロンとの繋がりを失いたくないと考える貴族たちはどこかアロンやフェナリに気を遣うような言動を心がけているように見えた。

 フェナリ反対派筆頭のカイウス子爵が最初の標的にされたことから、多くの貴族はカイウス子爵の件が、フェナリを貶めようとしたことに対する細やかな報復なのだと理解し、自分たちは彼の二の舞にならないように、と精神を研ぎ澄ませている。



「――では、またの機会にお会いしましょう。全ては王国がために」


「え、えぇ……王国がために」


 一先ず、目に入った貴族には挨拶をして回り、舞踏会上の中を歩き回った。カイウス子爵を前にして話したことを人伝に聞き、カイウス子爵かアロンか、そのどちらに着くかを決めあぐねていた貴族たちを、最後にアロン自ら声をかけることで念を押し、自分側に引き込んだのだ。

 アロンは自分が社交界において才能を発揮することが無い、と語る。実際に、第一王子である兄の方がその筋での才能があるから、アロンは自分を卑下している。しかし、全体を見ればアロンの社交性も高いもので、第一王子がそのカリスマで人を惹きつけるのに対し、アロンは打算と策謀を駆使しながらも人を集める。今や、フェナリ反対派多数だった貴族は殆どがフェナリ肯定派に寝返った様子だ。


「少し休もうか。二階層には料理も用意されている」


「はい。挨拶回り、お疲れさまでした」


 アロンとフェナリは、音楽の響く一階層を離れ、壁際の螺旋階段から二階層へと上がる。

 音楽が少し遠巻きな響きになって、貴族たちの歓談の声も遠くなった。静かな空間だった。


 一階層と二階層では、その場にいる貴族たちのタイプが違う。

 一階層にいるのはダンスの相手、つまりはこれから恋仲になれるかもしれない相手を探している若い貴族令息や令嬢――他にもカイウス子爵のような周りの貴族との繋がりを深めようとする社交性を重要視する貴族たちだ。

 対しての二階層では、どちらかと言えば活発性に欠ける雰囲気が漂っている。しかし、それはそこにいる貴族たちの社交性が欠けていることを意味しない。それどころか、逆だ。二階層にいる貴族たちは、自分たちから他の貴族との繋がりを深める必要もないほどの上級貴族であるのだ。他にも、既に次の世代にバトンを渡し終えてしまった老年貴族なども二階層で静かな時間を過ごしている。


 

「別塔に移動するまでにはまだ時間がある。少し食事をとっておこうか」


 用意された食事を少しプレートによそい、吹き抜けになっているところから一階層を見下ろす形で食事をとる。アロンは肉と野菜をバランスよく。フェナリはサラダで誤魔化しながらも肉と甘味を多くよそっていた。

 手すり近くに寄って、二人並んで食事を口に運ぶ。何故もなく、二人の間には沈黙が流れた。あまりに静かすぎる状況が、二人の口を閉ざしているようだった。


「――王子殿下、ありがとうございました。カイウス子爵のことも、剣舞を提案してくださったことも……」


 ふと、沈黙を破ったのはフェナリの方だった。

 そう言って、自分がアロンから受け取ったものを思い返してみれば、してもらったことは多いことに気づいた。同時に、自分はそれに何かを返せているのか、と疑問が生じる。


「私も、尽力します」


 怪物を屠らねばならない時がくる。

 それは、一つフェナリの中で確信している事であった。舞踏会場に足を踏み入れた瞬間に怪物の気配を感じたのだ。

 まだ遠い。というより、その輪郭がはっきりとしない。しかし、確かに怪物がこちらを見据えている気配を感じる。

 決戦の時は、早くも今日訪れた。今日はまず無いだろう、とアロンは予想していたのに、だ。フェナリも、アロンの予想に賛同していた。しかし、その予想は真っ向から裏切られることになる。


 だから、その時にこそ自分が動くべきなのだ。

 怪物を相手取るのであれば、自分こそが適任であるとの自負があった。明言はせずとも、フェナリは自分が怪物を屠る役割を担うと決意していた。

 アロンにも、まだ言わない。けれど、フェナリの決意、それを悉く詰め込んで、「尽力」すると言葉を紡いだ。

 それに対して、アロンは――



「フェナリ嬢……あぁ、是非、協力してくれ。しかし――」


 躊躇うように言葉を詰まらせて、それでもやはりフェナリに肯定を返して、その上で逆接の接続詞を続けた。

 その表情には葛藤があって、自分のあり方を悩んでいるように見えた。


「カイウス子爵の件はフェナリ嬢の婚約者としての当然の責務だ。それに、剣舞を提案したことも、私にとって――厳密には、作戦を進行するうえで利があると考えたからでもある。フェナリ嬢がこれらの事に対して責任を感じることも、何も無い」


 アロンは、どこかから絞り出すようにしてその言葉を連ねた。絞り出したものとはいえ、全て本心だった。

 カイウス子爵の件は、本当に自分の責務だと思っていた。これまでの自分が、周りからの醜聞にさらされたフェナリを守ることが出来なかった――その罪を償うために、果たすべき責任だ。

 だから、フェナリは何も責任を感じずとも良いし、それを理由に自分を削ってしまうようなことを、アロンはしてほしくなかった。


 言葉を絞り出し語るアロンを食事越しに眺めて、フェナリは違和感を抱いた。

 確かに本心で語っている。それは感覚で分かる。だというのに、どこかアロンの思考の焦点があっていないような気がした。しかし、その違和感の正体ははっきりとしない。

 歯痒い気分だった。アロンは自分の事を考え、様々に手を回してくれたというのに、自分は彼のことを理解することすら出来ていない。そんな状況が、自分とアロンでは釣り合っていないという事実が、フェナリに歯痒さを感じさせていた。



「――フェナリ嬢、少し」


 フェナリがふと感じた違和感について考えている中、アロンはフェナリに声をかける。


「――? どうかされましたか?」


「あちらの方々にも、挨拶をしておかねばならない。少しだけ付き合ってくれ」


 アロンの指し示した方向には、明らかに周りとは違う、異質な三人がいた。

 そもそも、服装から周りの貴族と違う。と言うより、ギルストの服装にしては違和感があった。フェナリがその違和感を抱いた直後、アロンから彼らがホカリナの王族であると伝えられる。

 壮年の男性――国王であろう彼と、ギルストとは違い、宝石で華美な装飾が施されたドレスを身に纏った女性――恐らく王妃だ――。そしてもう一人、シックな黒の燕尾服に身を包んだ男性もいた。服装に華美な装飾はない。もしかすれば、彼は執事なのかもしれない。


「――ホカリナ王家の皆様、少し私の婚約者を紹介させていただいても?」


 国王と目される男が、アロンの言葉にこちらを向いた。

 口を開くことはない。小さく頷いて、話を聞く構えを取るだけだ。王子とは言え他国の王族にする対応ではない。不遜ともとれる対応に、フェナリは苛立ちより先に疑問が生じた。


「こちら、婚約者のフェナリです」


「初めまして――フェナリ・メイフェアスです」


 アロンの紹介に預かり、フェナリが一歩前に出て頭を下げる。

 正直言って、他国の王族相手にそれ以上の言葉を口にすることが出来るとは思えなかった。そもそも、アロンとだって最近になってやっと普通に話せるかどうか、と言う程度なのだ。王族とはやはり、フェナリにとって縁のない、隔絶された存在である。

 最低限の礼儀だけ、最低限の挨拶だけ。それだけでどうにか乗り切らねば、と思っているフェナリは、ホカリナの王族がどんな対応をするかなど、予想していなかった。



「――フェナリ・メイフェアス……!!」



 国王の瞳が開かれ血走り、その口からは仇敵の名を述べるかのような声でフェナリの名が呟かれた。

 明らかに、他国の王子の婚約者の名前を口にするときの声音ではなかった。

 無口で寡黙を貫いていた彼らが初めて口にしたのがそれである。流石にこれは、と思ったのか国王も気まずそうに視線を泳がせ、不可解な状況をそのままに、その場を後にした。王妃と執事もそれに遅れてついていく。

 それに、アロンさえも反応が出来ずに彼らの逃亡を許してしまった。


「えっと……何だったのでしょう」


「ふむ……何か、普通の対応ではなかったな」


 残されたフェナリとアロンは、呆然とした様子でその場に立ち尽くすばかり。

 ホカリナ国王の対応は、明らかに異常だった。その理由は一切分からない――が、「まあ、何かあったのだろう」で済ませられるようなことではないことは確かだった。これは単なる三人の問題で収束しない。当事者に二国間の王族が含まれている時点で、十分に国際問題になりうる状況だった。

 これは、あとで父上に報告しておかねば、とアロンは思う。今すぐに何らかの問題提起をするつもりはないが、報告をしておかないと何か、良くないことが起こるような気もしていた。


「うぅむ……ホカリナ国王があの反応だったのは気になる、が――もう剣舞の時間だ」


 アロンは、明らかに見逃すべきではない違和感を、今だけは見逃し、剣舞のために準備を始めようとする。フェナリも、それに異論はなかった。ホカリナ国王の反応について違和感は持ちつつも、その違和感を解決する術を、彼女は持っていない。どちらかと言えば、アロンの方が解決に近いだろう。

 頭を使うことは、昔から苦手だ。怪物を屠るときにこそ戦闘的思考は働くが、日常的な思考は得意でなかった。だから、そういう類のことは雅羅に任せてきたのだ。今回は任せる相手がアロンになるだけだ。



  ◇



 舞踏会場を後にして、王城の廊下を進む。一度外に出て、舞踏会上から見えるところの別塔へと移動する。その別塔は百年ほど前の戦争期に見張り塔として用いられていた単純なつくりのものであり、今では改築が行われたうえで屋上で舞踏が出来るようになっている。

 基本的に、王城舞踏会以外でその塔が使われることは無い。だから、護衛も何も置かれておらず、王城の敷地内とはいえ、周りを森に囲まれていることもあって人の近づかない場所になっていた。少し前にアロンとグラルド卿が密会をしていたのもこの近くである。


「では、グラルド卿。万一の時は、頼んだ」


「あァ、任せとけ――万一、じゃねェだろォけどな」


「――? どういうことだ」


「何か、大きな存在感があんだよ。輪郭がぼやついてるが……こッちに敵意を向けてるのは間違いねェ」


 グラルド卿の述べた内容に、アロンの表情が緊張する。フェナリは、分かっていたことを言われただけなのでそこまで驚くことはなかったが、少しして「しまった」と思った。

 

「やッぱり、嬢ちゃんは気づいてたか」


「いえ……少し実感が湧かなかったもので……」


「まァ、そういうことにしとくか」


 どうせ、今日バレることだ。自分が普通の令嬢以上の力を持っているという事実は、この二人にはバレてしまう。しかし、最低限その時までは、隠しておこうと思っていた。

 それに、今日だって最低限の力で応戦するつもりだ。単なる怪物程度に全力を出す必要もない。


「――では、時間だ。フェナリ嬢、いけるか?」


「はい、全力で参ります」


「グラルド卿も、その時が来れば動いてくれ」


「言われるまでもねェよ」


 屋上の入り口付近で仁王立ちをして護衛に徹するグラルド卿、小さな舞踏会場の中央でお互いを見据え、剣を構えるフェナリとアロン。



 いざ、剣にて舞う時だ――――!!

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