裏切りの夜-16
リンが表通りに出るとアナが遠くに見える。
この時点で4個あったワイヤレスイヤホンは3個になっている。
リンとルビー、そしてアナから譲渡されたクインがそれを持っている。
アナもリンを見つけ駆け寄ってくるが、その表情が青ざめていることに気づく。
「どうなさったの?
まさかチップを取るのを失敗しましたの⁉」
不安そうにアナが尋ねると、
「違う!!そっちはうまくいった。
クインと通信が途切れているの!!」
必死にイヤホンでクインに呼びかけるリンの姿を見て、
「とりあえず場所を移しましょう!!
カスミさんとルビーさんが出てきます。
ここでまた鉢合わせになったら計画に支障が出ますわ。」
と冷静にリンを促す。
リンは苦々しい表情でアナの誘導に従い、西へと進路を戻す。
『ちょっと…!?クイン!!応答して!! 』
もう1個のイヤホンからルビーもクインに呼びかけている。
リンはスマホを確認してクインがまだ生きていることに安心しつつ、そのすぐ後にクローレと交戦中であることに一気に不安が襲ってくる。
『ちょっとリン!?クインはどうなってるの!?』
ルビーがリンに不安をぶつける。
「今、クローレと戦ってる。
返答をできないのはそのせいだと思う。」
この答えしかもっていないリン。
するとアナがリンにグッと近づいて、
「大丈夫です。あの人はプロの兵士です。
引き際は知っているはず。まだ生きているなら…必ずそのタイミングで離脱するはずです。
私たちは今すべきことを行動いたしましょう。」
とイヤホンごしにルビーにも聞こえるように言葉を放った。
そしてカスミとルビーから離れるために、リンを先導してC 地区の中央から南に下った用水路にまで距離をとった。
それは用水路と呼ぶには、あまりにも濁った汚水が流れる異臭の河。
突然、アナは立ち止まり振り返ったその手の銃はリンに向けられていた。
「なっ…!!」
驚いたリンが声を出しそうになった時、アナは口元に人差し指を立てて黙らせる。
そして手を伸ばしてイヤホンとスマホを渡すように目で指示をする。
その目は、慈愛に満ちたいつものアナのそれではなく厳しく冷淡なものであった。
リンは鼻をフンと鳴らしてそれに従う。
アナは渡されたスマホをポケットに入れ、イヤホンの電源をオフにした。
「よくもまあ、ここまでジェームズに取り入ったものだわ。
さすが美人は徳よね。あのアンドロメダのCEOすら夢中にさせちゃうんだから。最初からマイクロチップを入れられていないんだもん。羨ましいわねその美貌。
でも…クインの状況がわからないのに、今やること?」
イヤホンをオフにしたことでルビー達には会話が聞こえない。
リンの言葉に表情すら変えないアナが、
「カスミさんとルビーさんの処置が終わるタイミングを待っておりましたの。
あの二人には生き残っていただきたいから。
クインさんは恐らく離脱はしないでしょうね。
残り6時間を切りましたから。カスミさんとルビーさんのために最後まで戦い続けるでしょう。
あとはあなたが死んで私の計画が成されます。
この体を弄ばれてまでたどり着いたこの地です。
お先にあちらで待っててくださいね。」
と冷たく言う。
するとリンが笑顔で、
「あらあら、お優しいのか残酷なのかわからない女ね。
まあ、いいわ。最初からこうなる事はわかってたから。
逆にここまであんた以外に殺されなくてよかったわ。
世界一の美女に殺されるんだもの。嬉しい限りよ、アナスタシア。」
そう言うと両手をあげて目を閉じた。
現地監視員も遠くに集まってきて、この光景を見ている。
アナの目から一粒の涙がこぼれる。
そして静かに引き金を弾く。
鈍い音を出した弾丸がリンの腹部に命中。
そのまま沼のような用水路に落ちて行った。
アナは表情を一切変えず涙を拭いてさらに西へと歩き出した。




