裏切りの夜-15
カスミとルビーは細い路地を抜け、築年数が古い薄暗い集合住宅の階段を駆け上った。
「3階の奥から二番目!!」
ルビーが叫ぶ。
それに追随するカスミ。
目的の部屋の扉を勢いよく開けて二人が飛び込んだ先に思いもよらない女が立っていた。
「お母さん!?」
カスミが驚いた表情で声が裏返る。
「カスミ…無事でよかった!!」
雫が安堵の顔でカスミに近づき抱きしめた。
そして、
「ルビーも一緒だね。カスミを守ってくれて、ありがとう。」
と言ってルビーの頬を優しく触れた。
嬉しそうなルビーだが、
「でもママ、どうしてここに?」
と問う。
カスミも涙を滲ませながら大きく頷く。
雫が口を開こうとした瞬間、激しくドアを開けてリンが飛び込んできた。
「時間がない!!あんた達とっとと服脱いで!!」
息を切らせて呼吸が整っていない状態でタバコに火をつける。
そして雫に向かって、
「ミセス、時間がない故、ご挨拶は省かせていただきます。
手筈通り、これから私の作業をお手伝いください。」
とタバコを吸引しながら早口で話す。
「わかったわ。ここまで来たんだからあなたに縋るしかないもの。」
と言った雫はカスミとルビーの装備を剥がして脱衣を手伝い始めた。
リンは応急キットから、数本の医療用とは思えないメスのような形状のものに消毒液を雑にかけてライターでそれを炙り出した。
一方、上半身を下着姿にされたカスミとルビーの左上腕を、こちらは医療用だと見てわかるゴム製のチューブを雫が強く巻き付ける。
そして両手でそれぞれ二人の手首を握り脈拍を確認する。
「フェイ・リン!!ルビーの方は準備できたわ!!」
雫の合図で、さっと近づくリンに怯むルビー。
それにも構わずリンは、ルビーの胸元に消毒液をドボドボ垂らしながら、
「二人とも今から話すことをよく聞いて。
私があなた達の胸を切ってチップを取り出したら、それを素早く手首に押し付けて。時間にして0.3秒ぐらいがギリギリのタイムラグ。
しっかり脈打ちをチップに認識させて。
そこだけに集中して。あとはミセスと私で後処理をするから。」
リンはそう言うと迷わずルビーの胸元のチップがある場所を3cm切った。
片腕とはいえ血圧を制御しているため血が噴き出す。
顔を濁らせるルビーだが痛みはあまり感じない。
そのままリンは傷口をほじくり、
「行くわよ!!」
と合図をしてチップを取り出しルビーの左手首に押し付けた。
集中していたルビーは、リンが手を引くタイミングでチップを右手で固定した。
そしてもう一本の熱せられたメスでルビーの胸元の傷口を焼きふさぐ。
「いたーーーーーーーーーいッッッ!!!!!!!!!!!!」
これにはルビーも激痛で叫びをあげた。
すかさず雫が消毒液を傷口にかけ、手首に包帯を巻いてチップをさらに固定。
左上腕のチューブも素早く外して、そこにも包帯をきつく巻いた。
「次、カスミ!!」
そう叫ぶリンの姿に、一連の光景を見ていたカスミは一瞬身を引く。
「逃げるな!!」
とリンはグッと身を寄せ、同じようにチップを取り後処理まで一気に終わらせた。
「よし。いいわね。その上腕の包帯は絶対に取らない事。
その包帯が生命線よ。」
少し安堵感を見せるリン。
しかしすぐに立ち上がり、
「ミセス、あとはお願いします。
カスミ、ルビー。
あんた達のおかげで私たちの計画を行うための時間が稼げた。
うまく逃げんのよ。
ありがとう、またどこかで会いましょう。」
そう言うと躊躇いもせず出口に向かったが、
「そうそう、この近くにシザーハンズがいるから、そこで戦って死んだふりして逃げなさい。じゃあ。」
ともう一言残して扉を出た。
「リンさん…。」
カスミが悲しそうにつぶやく。
「シャロンと戦って死んだふり?最後まで適当な天才ね。」
と皮肉るルビーの目に涙が浮かぶ。
「さて、ここからが本番よ。
あなた達の周りには常に草場流剣術のみんなが見守っているから。
チャンスがあれば迷わずこの地から離脱するわよ。」
と、雫が感傷的になる二人の意識を切り替えさせる。
「みんなも来てるの?」
カスミの問いに頷く雫。
「さあ、服を着て戦場にもう一度戻るわよ。」
そう発破をかけた雫は二人の再装備を手伝い、ハグをして、
「次に会うのはこの街の外よ。」
と言って笑顔で部屋を出た。




