汚れ無き世界-8
7/28 11:30 B 地区
真水のシャワーを長時間堪能してバスルームを出てきたクインの体からは何故か湯気が出ている。
「さっぱりしたぁ。」
ご満悦のクインはペタンと座り込みタバコに火をつけてリラックスしている。
すでにケバブサンドを頬張っていた霞とルビーは、なぜ真水を浴びて湯気が出るのか不思議な顔でクインの体を見ていた。
「いい隠れ家を見つけたな。」
クインの言葉に笑顔でかわす二人。
それを見たクインが真顔で、
「それで?ガールズ、なにを企んでる?」
と問う。
「なにも企んじゃいないわよ。」
ルビーが霞より早く反応して返事をした。
クインは大きく煙を吐きながら、
「昨日の晩、カスミの耳にイヤホンが見えたんだよ。
そしてルビー、お前の耳にも見えちゃってるぞ。
それは通信用だな?
誰が糸を引いている?
勘違いするなよ。別に責める気はない。
おもしろい計画なら一枚噛ませろ。」
とイタズラな笑顔に変わった。
もちろんルビーは否定に入ろうとしたが、今度は霞が早かった。
「おもしろい計画なんてなにもないよ。
でも一か八かの計画を進めてる。
成功しても地獄が待ってるって悲しい計画。
クインさんならわたしたちと組まなくても優勝できる。
だって強いもん。優勝して胸張って家に帰れる。
だからわたしたちには関わらない方がいい。」
と、霞の哀しい声がクインの笑顔を消した。
ルビーは、この霞の一途でまっすぐな性格を懸念していた。
クインの質問に答えてしまうだろうと。
霞の態度から、クインに好感を持っていることが明らかだからだ。
むしろ裏表のないクインにルビー自身も良い印象が湧いている。
ルビーがクインを優しくさとす。
「ねえクイン。
カスミの言った通り私たちは、生きる保証もない戦いに希望をもって動いている。
私たちは二人で生き残ってこその人生なの。
片方だけが残されるなんて絶対にイヤ。
一緒に死ぬか、一緒に生きてこの戦いから脱走するかのギャンブルなんだよ。
カスミと私は貴方を巻き込みたくないの。
わかってくれない?」
その言葉を聞いてクインは少しの沈黙を置いて、
「その計画を聞かせてみろ。
わたしはカスミともう一度楽しい喧嘩をするって約束してんだよ。
だが今のお前たちの状況からして、この大会の中では無理そうだ。
別に外の世界だって構いやしない。
まあ、話すだけならタダだろ?」
とビールのタブを開け、リラックスのポーズをさらに軟化させて問い返した。
クインに何かを言おうとするルビーを制止して、
「わかった。話す。
だからわたしとの約束は忘れて。いい?」
と霞は言って正座の態勢をとり、クインと向き合った。
霞はこれまでの経緯を丁寧に説明する。
もうルビーも霞を止めることを諦めて、補足を入れている。
クインは表情を変えずにそれを聞いていたが、
「今夜チップを取って、すぐに逃げるのか?」
と、この部分には強い反応を見せた。
この質問にはルビーが答える。
「すぐは無理。
あくまでも戦いで死んだことにしてここから出るのが目標。
じゃないとすぐに追っ手に捕まってしまう。
もちろんチップを取るまで、どのタイミングでそれを実行するかは決まっていない。
街中の監視カメラやそこら中にいる監視員の目を掻い潜ってフアレスから出なきゃいけないんだもの。
その辺りはこの計画のプランナーの指示待ちってことになる。」
真剣な眼差しで話すルビーから1ミリも目をそらさずクインがなにかを考えている様子を見せる。
「なるほど。
そういう段取りか…。
悪いがカスミ、お前との約束は継続だ。」
と睨むように霞を見る。
絶句する霞とルビーに、
「まあ、聞け。
その脱出はわたしとのバトルで偽装すればいい。
そしてわたしは自力で優勝する。
そのあと約束の喧嘩ができる。
いい案だろ、ガールズ?」
とニヤリと笑って言い放つ。
「なんでそこまで協力してくれるの?」
と釈然としない顔で霞が聞くと、
「アンドロメダに喧嘩売るお前たちの気概に惚れた。
いいか、ルビー。お前との喧嘩も追加だ。
わたしはね、ギリギリで交わせたけどカスミが放った斬撃に、真剣に自分の死を見た。
あんな背筋がゾクリとする戦いをもう一度したいんだ。
とりあえず、そのイヤホンの向こうにいるプランナーってやつと話をさせろ。」
クインはそう言って少し目を細めた。




