汚れ無き世界-4
7/28 B 地区 10:15
ゆっくりと目を開けるルビー。
この大会に派遣命令を受けてから心地いい眠りから見放された。
プレイヤーリストにジンの名を見つけてから、たまに発作のように動悸が激しくなり呼吸が苦しくなる。
自分の仕事に対して誇りを持っている。
たとえそれが人を殺す仕事であっても。
どんな世界にも、自分を必要とする人がいれば、そこが自分の居場所になる。
だからアメリカ大統領を狙撃したこと自体は責任を感じた事が無い。
開き直っているわけではない。
大統領など代わりはいくらでもいる。
その殺人行為に莫大な金を払い、その結果を必要としている人間がいる限り、責任や後悔など感じる必要がない。
それが自分の存在理由であり、生きる道であるのだから。
そう、ルビー・ローズは世界が認めた大悪人である…そう自覚を忘れずに地獄に落ちる覚悟を決めて仕事の成功を最優先させるのだ。
しかし、自分の身代わりとなって一生を台無しにしてしまったジンには、今まで感じたことのない罪悪感を覚える。
犯人が不明の未解決事件にはできない案件であり、必ずルビーの身代わりが必要になる。
これはアンドロメダの関与を隠蔽するためにも政府内のクーデターに見せかけなければならなかった。
なによりジンの兄が命懸けでアンドロメダのシステムをハックして捕縛された事実を聞いたときの感情は激しい自己嫌悪であった。
もちろんルビーは組織の命令によって完璧に仕事を成功させたのであって、ルビー個人が責められることなどない。
だからルビーがジンに罪悪感を持つ必要もない。
そういう世界なのだ。
しかし、どれだけ仕事と割り切っていたとしても、個人の感情には嘘はつけない。
この世界で知らぬ者はいない最高峰の暗殺者であるルビーは、その強さとは裏腹に優しすぎた。
だから霞のために死を覚悟してこの地に来れたのだ。
(間違いなくジンは知っている…私の存在を。)
ルビーはそう確信していた。
隣で肩を貸してくれている霞のぬくもりを感じる。
彼女と共に生きたい。
だからきっとジンを目の前にしたら迷わず撃つだろう。
ルビーの中で新しい自覚が生まれた。
【自分はただの悪人】だと。
仕事として保っていたプライドや責任などどうでもいい。
たとえ死神が現れたとしてもすべて撃ち尽くしてやろう。
そう思う事で楽になれる。
霞と一緒にずっとこれからも…。
そうやって着地地点を決めたルビー。
「カスミ、おはよう。」
優しくささやく。
「あ、ルビー。起きた?
少しうなされてたけど怖い夢でも見ちゃった?」
心配そうに言う霞をギュっと抱きしめる。
愛おしい。
愛している。
ただそれだけで十分だ。
「ねえ、ルビー。お腹すかない?」
何気ない霞の一言が幸せでたまらない。
「うん、何か買いに行こう。」
ルビーはそう答えると立ち上がった。
どんなに汚い人生であろうと、世界中から責められても、必ず生き抜く。
だって自分はただの悪人なんだから。
そう心に決めて霞の手を握った。




