汚れ無き世界-2
7/28 I 地区 7:10
「さっぱりしたー。
アナ、次どうぞ。」
リンがシャワーを浴びて満悦の表情。
リンが事前に用意していたいくつかの隠れ家。
もちろん合法に隠れなければならないから監視カメラは存在する。
外の景色を見ながらアナがつぶやく。
「なんとか最初の難関は乗り越えたわね。
で、夕刻ごろカスミさんとルビーさんのチップを取るのでしょ?」
街が動き出し、安易に攻撃をされない場所ではあるが、警戒は解かない。
リンが渋い顔に変わり、
「どのタイミングでやるか…。
ちょっと気になる存在がいるのよ。」
と言って腕組みをする。
「どういうこと?」
アナが目線はそのままで聞く。
「モニカとジンが合流して動かない。
このありえない組み合わせ…意味わかる?」
とリンが聞き返す。
少し考えてからアナが、
「シークレットサービスで大統領を護衛していたモニカ…。
その目の前で大統領を暗殺したジン。
たしかにありえないわ。
モニカにしてみれば憎き仇だもの。」
と、状況を把握する。
大きく頷いてリンが、
「ジンは当時CIAに所属していた。
モニカとは同郷で親友も同然の仲。
どうしてジンが大統領を殺したのか?
いや、果たしてジンが殺害したのか?」
とゆっくりとした口調で言う。
「もう!!もったいぶらずに言いなさい!!」
アナがイラついて怒る。
「はいはい、アナは真面目なんだから。
これは本当に一部の人間しか知らない。
ジンは殺していない。
冤罪よ。ロシアのスパイ容疑をむちゃくちゃな理由で負わされて、それが動機で犯行に及んだと結果が出され終身刑で服役。
ジンが犯人ではないと確信していたモニカは民間の軍事会社を起ち上げて、それを隠れ蓑に政府へと探りを入れた。
そして現大統領によるアンドロメダへの依頼が判明したわけ。
まあ、恐ろしいぐらいのセキュリティーの中から、この事実にたどり着いたのは純粋に凄いと思う。
その実行犯ってのはさっきまで一緒にいたルビー。
これはおそらくカスミも知らない。
それほどのトップシークレットなの。
もし外部に漏れたらルビーがバラしたんじゃなくても、家族に被害が及ぶでしょう。もちろんカスミにもね。
この事件に関与したすべての人間が二度と語ることのない真実。
だからモニカはそれを公表できない。
すぐにアンドロメダから刺客がわんさかやってきて殺されちゃうもの。
この大会に一番最後にエントリーしたのがモニカ。
そう…おそらくジンと一緒に復讐するため。
ルビーに、そしてアンドロメダにね。」
一気に話し終えたリンは美味そうにタバコを深く吸い込み大きく煙を吐いた。
「でも…それこそルビーさんが実行した証拠がないんじゃないかしら?
だって現大統領の陰謀なんてセキュリティーにすら残さないでしょう?
事実そのものをこの世からすべて破棄するはず。
私なら本物の情報って確信が持てないわ。」
アナが半信半疑に言う。
「どっち側のセキュリティーの話をしているの?
アメリカ政府や大統領のデータにそんなもの微塵も残っちゃいないわ。
アンドロメダの顧客データに残ってるのよ。未だに。
しかも莫大なお金を払ったのは現大統領じゃなくて、次期大統領間違いなしのトランプ・ジュニア。
見つけた時は大笑いしちゃったわ。」
リンが笑顔で応える。
それに違和感を覚えるアナ。
「ひとつ聞いていいかしら?
モニカの話なのに、いつの間にか貴女の視点に変わっているのはなぜ?」
そんなアナにリンは、
「だってわたしはとっくの昔にそれを知っていたもの。
ジンってのはCIAでも優秀な諜報員だった。
でも、ニューヨークの雑踏の中に、さらに大勢のセキュリティやシークレットサービスに囲まれた大統領を250メートル先から一発で撃ち殺せるまでの能力はない。
むしろこんなことができるのは世界中でも数人しかいない。
だから4年前の事件発生時にちょちょいと調べたのよ。」
と嬉しそうに答える。
「ああ、そうゆことでしたのね。
それじゃあ、モニカは貴女と同じぐらいの天才ってことですわね。」
納得したようにアナが言うと、
「モニカ自身にそんなスキルはないわよ。
セキュリティーにまっすぐ手を伸ばして真実を握って、思いっきり引っこ抜いたのはジンの兄ちゃん。
モニカの婚約者でもあった。
覚えてる?
2年前に起きたマイクロシステム社のエンジニアがボロ雑巾みたいに皮と骨だけでコロラドの山道で見つかった事件。
アレがジンの兄ちゃん。
何も工作せず、ただ真実を求める者は怖い。
そのあと、どんな目に合うかすら考えていない。
その分野の超上級スキルの持ち主だもん。
そんな人間が、堂々と真正面からシステムに侵入して、妹の潔白を証明するため命と引き換えに情報を得ることだけをストレートに実行した。
これはわたしの調べなんだけど、その情報を暗号化してモニカに送ったあと拘束されたジンの兄ちゃんは執行部のハンニバル…チャーリー・ベロンの地獄の拷問にも口を割らなかった。
まあ、口を割ろうにも拘束される前に自分で目を潰し眼球からの情報引き出しを防ぎ、舌を切って喋れなくした。
そしてわざと捕まりアンドロメダ執行部のメンツを潰した。
彼なりの復讐だったんだと思うわ。
そしてモニカはこの場所にジンと共に参戦したってストーリーなの。」
と饒舌にアナに説明した。
「それでもルビーさんに復讐なんて見当違いも甚だしいですわ。
彼女は組織の命令で実行した仕事にすぎません。
本当の敵はアンドロメダそのもののはずでしょう?」
と、アナが珍しく憤慨した態度で言った。
「ええ、もちろんよ。
ルビーの名誉を傷つけるものではない。
でも明確な個人の名前が出てきた以上、怒りの矛先がルビーに向けられるのも仕方がない。
だってアンドロメダのシステムをハックするなんて正直言って人間業では無理なの。
なんかわたしが天才で簡単にやっちゃうから誰でもできそうに聞こえちゃうけど、いくつものサイバー防壁を永遠と壊しながら様々な承認事項を偽装データでクリアして、さらにそのあと…説明がめんどくさいぐらいの試練の先に欲しいものがなければ、また最初から違うルートでやり直し。
もちろんこの時点で殺し屋たちが自分に向かってきている。
そんな兄ちゃんの仇なら個人だろうが組織だろうが関係なく、みんな殺してやるってのが単純な心理じゃない?」
リンがさらっと自慢を入れながら冷静に分析して言う。
「で?その二人からもルビーさんを守りながら合流してチップを取る作戦は考えているの?」
アナも語尾が強くなる。
「手は打ってある。
ただちゃんと機能してくれればスムーズに行けるんだけど…。」
と答えるリンに、
「貴女の作戦ってスムーズにいったことってないのよね…。」
とアナが皮肉る。
「あんたとっととシャワー浴びなさいよ!!
わたしはカスミとルビーのセキュリティーもやらなきゃいけないのよ!!
それに夜までにシステム構築を仕上げないと計画に間に合わない!!
忙しいの!!寝る暇ないの!!」
とリンが怒鳴ってアナは少し笑みを見せてシャワールームに入った。




