ハイルブロンの怪物-11
霞とルビーはリンの指示通り武器屋で新たな戦闘服と応急セットを受け取ってから空き家に着いた。
まだ主を失ってから日が経ってないようで、二人の想像よりも奇麗な家であった。
「リンの話が一番疲れたぁ…。」
とルビーが半分本気のジョークを言う。
「ハイルブロンの怪物ってルビーは知ってた?」
霞が問う。
「まあ、大昔にそんな事件があったぐらいの認識だけどね。
だって私が生まれる30年ぐらい前の話だもの。」
ルビーが答える。
「知ってる範囲でいいから教えて。」
霞が懇願する。
ルビーは少し思案の表情をしてから、
「ホントにあんまり知らいけどいい?」
と答え、霞はコクンとうなずく。
「たしか1990年代から2000年代で、ドイツを中心にヨーロッパで起こった40件とか50件とかの事件。
事の始まりがドイツのハイルブロンってとこだから、その名がついた…んだったと思う。
ハイルブロンの現場で見つかった繊維から検出されたDNAが、10年ぐらい前の事件での証拠DNAと一致したんだっけ…。
そしていろいろと調べてみると、同じDNAが証拠になっている未解決事件がどんどん判明してきた…って感じだった。
DNAだけを頼りに同一犯で性別は女、これだけしか手掛かりがなかったって話。」
ルビーの記憶をたどりながらの説明を、霞は興味深そうな眼差しで聞いている。
「ただね、この事件はもう解決しているの。
むしろ解決なんてできるわけないのよ。」
少し詳細を思い出してきたルビーは饒舌になり、霞の好奇心も高まる。
「全ての事件に共通しているたったひとつの真実がすべてを解決してくれた。
問題はDNAじゃなかったのよ。
DNAを採取する専用の綿棒が真犯人だったってドン引きの幕切れ。
鑑識用ってことで専用性が高い物だからヨーロッパ中の警察が使っていた業者で作られた綿棒だったの。ドイツのメーカーで、従業員には女が多かった。
あ、そうそう。東欧系の女が多くて、DNAの判定もそうだったはず。
結果、共通する証拠が、すべて共通しない事件だったって証明したわけ。
以上、私が知っていることはこれで全部よ。」
とルビーは締めた。
「でも…それはクローレの仕業で、そのDNAによる隠蔽工作を仲間たちがやっていたんだよね?」
霞の疑問に、
「眉唾物ね。
リンが言ってるだけで証拠もないし、安易に信用していい話じゃないよ。
だいたいジェフリー・エプスタインなんてアメリカの実業家で、そんなにヨーロッパで大量殺人するほどの理由がない。
この男はゲスの極みだからみんな知ってるクズ男。
私も知識だけなんだけどコイツのことは知ってる。
最期は確か…裁判中に独房で首吊って責任から逃げた。
ホントに最低な男。
だからどう考えてもエプスタインとハイルブロンはつながらない。」
憤慨するルビーを見ながら霞が複雑そうな表情になる。
それを察したルビーは、
「ただリンの話で信用できるのは核と磁力の特異体質の件。
確かに私の弾丸がありえない曲線を描きながらクローレを避けた。
アレを見てしまったからには、コレを信じない訳にはいかない。
まあ、この事実さえ受け止めれば、あとはどうでもいい。
ねえ霞、リンの話を鵜呑みにしてクローレに同情なんてしちゃダメよ。どこまでホントで嘘かわからないんだから!!」
と釘を刺す。
「同情はしないけど…。70才とか…。」
と、霞がつぶやいたところで、
「はいッ‼この話はいったん終わり。
ふたりでシャワー浴びよ。
そのあとガーゼで傷口を奇麗に消毒してあげるから。
さあ、服脱いで!!ササっと浴びちゃおう!!」
と、霞が喜ぶ提案をする。
本来なら交代で入りひとりは警戒して見張るべきなのだが、ここはリンを信用して一緒にシャワールームに入るリスクを選んだ。
もちろんルビーの気持ちを察した霞は、その優しさに甘え、一気に全裸になってルビーを急かすかのように一緒にシャワールームに飛び込んだ。
真水のシャワーも二人なら温かい。
そして霞は、丁寧にルビーの手当を受け、交代で眠りについた。
様々なことを考えさせられるリンの話ではあったが、今はルビーとの時間を大切にしようと霞はささやかな幸せを選択した。




