ハイルブロンの怪物-10
ロシア最大のギャング組織であるプルシェンコ・ファミリー。
首領であるモロゾフは、ビジネス上の重要なパートナーであったエプスタインに、不死身の体を持つクレアを譲るように何度も圧力をかけていた。
クレアも幾度となく顔を合わせていたので面識は深い。
そして念願のクレアを手に入れたモロゾフ。
しかしその完成された美貌と美しいブロンドに魅了された70才を超えた老体は、すべての計画を無にした。
クレアを使って自身の地位や権力を不動のものにする。
それが叶うのはクレアの存在以外にない。
そんな野望をモロゾフは捨てたのだ。
モロゾフはクレアを自分のためだけのボディーガードとして近くにおいた。
敵が多いモロゾフを何度刺客から救ったか数えきれない。
さらに養女として迎え入れ、クローレ・プルシェンコと名を改めた。
その後も、長きに渡ってプルシェンコ・ファミリーを支え、
『モロゾフの孫である今のロシア大統領ヨーゼフ・プルシェンコの側近として仕える国の幹部となりました。
はい、めでたしめでたし。』
と、リンが最後は投げやりに締めた。
「え?」
霞が疑問すら言葉に出せない状況に陥る。
ルビーも何とも言えない表情で、
「ちょっと整理させて。今のクローレは、そのクレアって人の孫とかで…、その特異体質も遺伝で引き継いでるってことなんだよね?」
と確認する。
『そんなわけないじゃない。
話聞いてた?
セックスできないのに子供なんて生めるわけないよね?
突っ込んだら灰になっちゃうんだよ?』
リンが少しイラついた声で答える。
『もう、リンたら、意地悪もいい加減になさい!!
貴女がドラマチックに話し出すから逆にわかりにくいストーリーになってしまっていますのよ。
お二人の混乱も当然です!!』
アナが叱る。
「あの…クローレは何才なんですか?」
霞が核心に迫る。
『そうね、80才ぐらいじゃないかな。』
とリン。
「えーーーーーーーーーーー!?」
「えーーーーーーーーーーー!?」
霞とルビーが同時に悲鳴を上げる。
「そんなのうそ、うそ、うそよ!!
どう見たって20才そこそこにしか見えないじゃない!?」
ルビーが驚きのあまり声を荒げる。
『わたしの調べでは二十歳ぐらいからあんな感じ。
エリツィンやプーチンなんかと一緒に写ってる写真も見たよ。
ずーっとあのクローレ。』
リンの追い打ちに絶句する霞とルビー。
そこにアナが持論を口にする。
『おそらくは体の中に核を蓄えていることが関係しているでしょう。
それだけご高齢であの若さやパワーを維持なさることなど考えられません。
そして殺せない。傷もつけれない。
これは私たちに手の負える人ではございませんんわ。
まさに…怪物です。』
そう言うと優しいため息をひとつ吐いた。
『はい、じゃあ、解散。
お願いだから休ませて。
通信切るわよ。おやすみ。』
強制的に会話から離脱したリン。
『これは深く考えても答えはでません。
今はとにかくカスミさんは傷を癒し、ルビーさんも休息してください。』
アナの優しい声に若干の落ち着きを取り戻せたが、霞とルビーはただお互いの顔を見つめ合うだけで、発すべき言葉も見当たらない複雑で消化不良な表情しかできなかった。




