ハイルブロンの怪物-7
カールたちの見事な退路進行で国境をなんなく超え、たどり着いたベルリン。
東西統一から2年がたったドイツ。
しかしクレアがジープの窓から見える人々は、なにかさみしげに映った。
そんな街並みを通り過ぎ、郊外へ出ると広い敷地の豪邸の門をくぐった。
ジープから降り、カールの誘導で邸宅の中に入る。
そしてクレアは見たことのない光景が視界を埋める。
真っ白な壁に立派な絵画が飾られ、天井には豪華なシャンデリア。
今までいた収容所とはまるで別世界がクレアを包んだ。
更に奥へと進むと広いテラスに出た。
木漏れ日のウッドデッキに男はいた。40代前後といった紳士。
「ようこそ、クレア。」
にこやかな笑みを浮かべ近づき手を差し伸べる男。
その手に吸い込まれるかのようにクレアは握りかえす。
すると男は跪き、クレアの手の甲にキスをした。
驚いたクロエはさっと手を引く。
「クレア様、こちらがあなたを助けたエプスタイン様だ。」
傍らのカールが紹介する。
ジェフリー・エプスタイン。アメリカ人の投資家。
莫大な資産を武器に世界中のセレブや国のトップとの交友関係を築いている。
「素敵なお家ね。」
クレアがあいさつ代わりに発した言葉。少なからずの動揺がクレアにはあった。
「ここはドイツで仕事をするときの別宅でね。
フランスにも同様の家があるんだ。
本当の住処はニューヨークだよ。」
エプスタインは表情を崩さず答える。
「そして今日からここがキミの家だよ。」
と、優しく付け加えた。
その日からクレアの暮らしは激変した。
昨日まで拷問の苦しみを味わっていた少女は、奇麗な洋服と豪華な食事を手に入れた。
それはまるで夢のような世界。
スカートの裾をヒラヒラさせてお姫様にでもなったかのような気持ちになっていた。
ただ夕方になると毎日のようにクレアより少し年上の少女が屋敷を出入りしていた。
世話役のカールからは、
「余計な詮索はするな。」
と言われている。
もちろんクレアとその少女たちが接触することはないので、詮索する理由もない。
特に気にも留めずに数週間が過ぎた頃、エプスタインはクレアを自室に呼んだ。
自身は全裸となりベッドにうっ伏す。
クレアにも服を脱ぐように指示し、マッサージをさせた。
この時、クレアは出入りする少女たちの存在に気が付いた。
後にクレアは知ることとなるが、エプスタインは児童買春のブローカーであり、大きなSEXビジネスで富を気づいた極めて下劣な男であった。
著名な人物や権力者に少女を斡旋して、見返りはビッグプロジェクトの受注。
その接待の道具として少女たちを利用しているのである。
背中を丁寧にマッサージしていたクレアに、
「始末してほしい男がいる。」
とエプスタインが呟く。
クレアにしてみれば覚悟していたことだ。
「こうやってマッサージして、行為に及べばいいのね?」
クレアはいたって冷静に答えた。
エプスタインはフフと鼻を鳴らして、何度も頷いた。




