ハイルブロンの怪物-5
「クレア・シャイトは死んだ。
あの汚い豚のアレを突っ込まれたときにな。
クレア・シャイトが絶望の中から生み出した新たな生き物。」
少女が発した言葉に、捜査官は驚く。
しかも9歳とは思えない落ち着き払った振る舞い。
むしろ大人の女のような雰囲気をも醸し出していた。
独居室の一件でクレアは即座に拘束されウクライナ当局の取り調べを受けることとなった。
監視官の報告を受けた当局は、真面目にそれを信じようとはしなかった。
しかし、男が残した灰と、行方不明の叔父との関連が連想された。
しかも叔母殺しの犯人であることは間違いない。
「どんな手口で【燃やした】んだ?」
捜査官の問いに、
「あなたも【燃えて】みる?」
と艶っぽい声で目を細めて返す。
まるで娼婦が客を誘うかのように。
「叔母はなぜ殺した?」
捜査官が論点を変えた。
机を挟み対面して座るわずか9歳の娘に圧倒されている。
「あのクソ女か。あの女は昔から私をいたぶり続けてきた。
だから死ぬ寸前まで痛みを与えてやった。
何度も何度もナイフで体中を突き刺して…。
爽快だったぞ。あの顔。
恐怖に引き攣るあの目。
最後は命乞いまでして見せてくれた。
ふふ・・・、思い出すだけでも快感が押し寄せる。」
クレアの言葉に捜査官は得体の知れない何かを目の前にした感覚に陥る。
「お前はいったい何者だ…!?」
「さっきも言っただろう。
私はただのクレア。
クレア・シャイトが絶望の中から生み出した新たな生き物…怪物だ。」
クレアがまっすぐ捜査員に向かって言い放った。
「面白いものを見せてあげるわ。」
クレアが笑みを浮かべながら言う。
それに答えることができない捜査官。
クレアは机に転がされている捜査官の万年筆をサッと取り、左手のひらを大きく広げてその真ん中に突き刺した。
血しぶきが溢れ出す。
クレアは万年筆を乱雑に引き抜き、それを捜査官に向けて返す素振りを見せた。
捜査官は恐怖のあまりその差し出された自分の万年筆を受け取れずに戸惑いの表情を見せていた。
ニヤリと笑みを見せたクレアはその血まみれの左手を捜査官に向けて言った。
「よく見てて。」
その真っ赤に染まった左手の傷口から血の泡がブクブクあふれ出し、まるでそこに万年筆が刺さっていたとは思えないような傷ひとつない手の平を見せた。
「クソ女を刺しまくってるときに自分も傷つけちゃって。
でもすぐに治っちゃうんだもの。どうなってしまったのかしら、私の体。」
血がべったりついた万年筆を恐る恐る受け取った捜査官は、まるで悪魔から逃れるかのように必死にその場を逃げ退室した。
この異常な少女のことはすぐにソ連書記長ゴルバチョフに報告がされた。
そしてクレアはモスクワへと移送されることになった。




