月下の約束-12
その光景を見ていたボマーとジェシカ。
ジェシカは自分の仕掛けたトラップがうまく行ったことに笑いが止まらない。
「おい見てみろよ!!
ドンピシャのタイミングで爆発してくれたぜ!!
センサーに防犯ワイヤー連動させて、あのグチャグチャの電線の中に隠した延長のワイヤーで巻き取って路地を渡っている電線に固定した手りゅう弾のピンを次々と外す。
その反動でボトボト手りゅう弾が落ちていく…これはもう芸術だな!!」
興奮冷めやまないジェシカとは逆に、
「わたしが電柱を登って手りゅう弾を設置したんだよ!!
落ちそうで本当に怖かったんだぞ!!」
と不満そうに言う。
「巻き取る装置は下にあって、爆弾は上にあるんだからしょうがないだろ。
でもこれは使えるな…。とりあえず二人を始末できた。
よし、武器屋に行って手りゅう弾を補充しよう。
な、ボマー?」
上機嫌のジェシカがボマーの肩を抱く。
しかしそんな二人に怒号が浴びせられる。
「てめえら…人の喧嘩を邪魔しやがって!!
コソコソ隠れて気づいてないと思ったか!?
そこにいろ…ぶっ殺してやる!!」
頭から血を流して鬼の形相で怒りを露にしたクイン。
仁王立ちで二人を睨んでいる。
その姿を見たジェシカとボマーはすべての感情が無になり、その直後に極限の恐怖が襲ってきた。
もう二人の選択肢は一つ。
逃げる。
それ以外にない。
まるで競うように走り出す二人の背中を睨みつけながら、クインはその場に腰を下ろしてタバコに火をつける。
「ヘイ、ガール。大丈夫か?」
大きく煙を吐き出した後、うずくまる霞に声をかける。
とっさに飛んで被爆を回避できたのは日ごろ鍛えた瞬発力。
しかし無傷ではなく額から血がダラダラと流れ出す。
「そこは皮膚が薄いからちょっと切っただけでも血が大量に出ちまう。
応急キットにガーゼが入ってただろ。しっかり押さえとけ。」
クインが優しい声をかけると、
「あ、ありがとうございます…。」
と霞が恐縮したかのように答えた。
「楽しいバトルだったのに邪魔が入って興醒めだな。
ちょっとビールでも飲むか。待ってな。」
そう言うとクインはゆっくり立ち上がり近くの商店のシャッターを蹴り破り、ビール二本を片手で持って帰ってきた。
キョトン顔の霞に一本渡し、自分は再びペタンと座ってタブを開き一気に飲み始める。
「ガール、いい動きしてるな。
もっとフィジカルがあったら最初の一発でわたしを仕留められたかもしれない。もったいないが、その身のこなしは小ぶりな体だからこそできる。
久々に熱くなったぞ。ガール…いや、暗殺者G。」
クインからの賛辞に顔を赤らめて照れる霞。
すでにお互い戦闘モードを解いている。
「あの…ご親切に…どうも…。」
霞のコミュ障なりに頑張った言葉に、
「Gっていうヤバイ殺し屋がいるとは聞いてたけど…まさかこんなにキュートな娘だったとはね。」
とクインが笑いながら話す。
「いや、大技をかわされちゃったし…。」
落胆する霞にクインは、
「ああ、最後のヤツか。いやマジであれはヤバかった。
ホントに。
凄いスピードだな。
もっと自信もっていいぞ。」
と楽しそうに答える。
失敗をポジティブに語るクインに霞は好感を持った。
「ねえ、名前を教えてよ。」
クインがまるで新しくできた友達に話すように聞く。
「あ、カスミです。」
思わず普通に答える。
「オーケー、カスミ。
わたしは今からあの二人にお仕置きしてくるから。
いいカスミ、次にわたしと戦うまで死んじゃダメ。
また楽しいバトルをしようぜ!!
約束だぞ。」
クインはそう言うとニカっと笑って立ち上がった。
コクンと頷く霞に軽く手を挙げて歩いて行った。
激しい戦いの後なのに、なんだか気持ちが爽やかになる霞。
そんな霞はルビーに無事を報告しようと耳元を触るとイヤホンがない事に気づく。
爆風でどこかに飛んで行ってしまった。
あたりを見まわしたが見つからない。
(どうしよう…イヤホン失くしちゃった…。)
通信手段を失った霞は、時間を確認してもうすぐエリアの制限が解かれる事に安堵しながらそのまま南下の進路をとった。




