月下の約束-2
2050/7/28、2:30
F 地区最北地点【現地監視員待機所】
「夜明けの6時まで休息してもいいって副社長からの伝言だ。」
ブルースが包帯や絆創膏で傷を癒すマリアに言う。
逃亡者、それに加えて凶悪囚人を始末した恩恵として、一見はただの民家に見える現地監視員の待機所での手当と休息を与えられていた。
「お坊ちゃんの尻拭いの恩赦にしては物足らないわね。」
マリアが皮肉る。
「確かにアレを逃がしていたらアンドロメダにとっては大ダメージだったな。
でもまあ、そう言うなよ。傷の手当てや破れた戦闘服の補充も俺たちが手配してるんだから。
それにその程度の傷だから、あと3時間半も休めるのはありがたいだろう?」
ブルースはそう言ってテーブルにサンドウィッチを置いた。
「クレイマン…残念だったね。仲良かったんでしょ?」
マリアは顔を上げずにブルースに悔みの言葉を言った。
「お前の言った通りだよ。明日は我が身ってな。
ただ機関銃のベルトリンクを詰まらせるような素人に殺されたのが歯がゆいがな。」
苦々しい表情のブルース。
マリアは自分が言った皮肉を後悔しつつ黙る。
「しかし今大会最初のマッチ配信だったからな。
お前のオッズも跳ね上がりじゃないか?」
ブルースが察したかのように明るく振舞う。
「だから現地監視員が遠巻きに見ていたのね…。」
マリアは尻拭いと大会での盛り上げ役に利用されたことに憤りを感じた。
「最初はディフェンディングチャンピオンのクローレにオープニングを飾ってもらう予定だったようだが、急な事態だったから方針転換されたってことだろう。」
ブルースの同情も混じった言葉に感情が沈んでくる。
「でも、いい戦いぶりだったぜ。」
ブルースの労いの言葉に、
「ねえ、ブルース?
もしルビーだったら、もっと楽に勝てたとか考えられる?」
と、問い返す。
腕組みしたブルースは、
「ルビーねえ…。
お前ってルビーのこと大嫌いだもんな。
ルビーばっかりちやほやされて、嫉妬してるんだろ?」
と茶化す。
「違う!!いや違わないけど…。
ただ純粋にブルースぐらいの上位傭兵から見てどう思うか知りたいだけ。」
ルビーの真剣な眼差しに、少し思案のポーズを見せたブルースが口を開く。
「根本的にお前とルビーじゃ戦い方が違う。
お前はまず相手を分析して勝つために必要な行動を逆算していく。
普段から100人の部下の命を預かる身だからお前の戦い方は正しい。
だからまずパメラのガトリングを封じて非武装状態にさせることを優先した。なにをすれば確実に倒せるという思考は集団戦においては最も必要な判断だと思うよ。
でもルビーはその真逆だ。
基本ソロの傭兵だからお前のように深く考えて行動する必要はない。
まあ推測だが、あの時パメラの相手がルビーならガトリングを封じるという行動や思考には至らなかったと思う。
迅速に頭部をぶち抜いく。ルビーにはそれだけの能力はあるし自信もあるだろう。
結局、どちらもやり方が違うだけで、結果は一緒だったさ。」
穏やかに私見を述べるブルースの言葉に、マリアは何とも言えないうっぷんが募る。
「ねえ、ここってカメラついてるの?」
マリアの突然の問いに、
「いや、ついてないが、どうした?」
と不思議顔でブルースが答える。
するとマリアは服を脱ぎ捨て裸を晒す。
「おい!?なにしてんだ?」
マリアの奇行に驚くブルース。
「なんか凄いイライラしてきた。
あんたも早く脱いで、感情なしでスッキリさせてよ。」
と言ってブルースに近寄る。
「おい、ここには現地監視員が出入りしてる場所だ。早く服着ろバカ。」
眉をしかめて叱るブルースに、
「じゃあ、入ってきた奴を全員相手してやるわよ。
ねえブルース。こんないい女を抱ける機会ってそうそうないわよ。
それともアッチの方は自信がないのかな?ねえ?ブルース?」
と両手をブルースの首に回し挑発を強めるマリア。
ブルースは眼鏡をはずして、深いため息を吐いた後、
「お前、俺に抱かれたらクセになって後悔するぞ。」
と顔を近づける。
「後悔させて…。」
とマリアの唇がブルースのそれと密着しソファーに雪崩れ込む。
わずかの時間でも、この混沌とした感情から抜け出したかったマリア。
今はただ迫りくる戦いを快楽で紛らわすことに集中していた。




