緋眼の末裔-3
草場流剣術
江戸時代。徳川幕府の裏お庭番衆として歴史の闇の中で暗躍してきた暗殺部隊。
その頭領である初代、草場雷蔵が開いた剣術道場がその始まりとされる。
緋の眼の持ち主であった初代雷蔵の直系末裔は、その遺伝を継ぎ現代にまでそれは続いている。
常に時代の裏側で活動してきた350年の歴史の中で国家の尻拭いを生業として存続してきた草場流剣術。
現当主23代目雷蔵は先代である22代の一番弟子であった。
22代は娘しかおらず、弟子の英二(23代)を養子に迎え、15才離れた一人娘の雫(当時18才)と結婚させ後を継がせた。
そして長男、八雲。二年後には長女、霞が誕生。
兄妹共に緋の眼を受け継いでいた。
政府直下の公安組織として5人の弟子たちが所属しており、そのすべてが裏お庭番衆時代の末裔たちである。
しかし長き歴史を誇る草場流剣術に大きな問題が浮上する。
アンドロメダが主催する『バトルフィールド』である。
世界中の名だたる殺し屋をひとつの町に集めて殺し合いをさせる。
優勝者には莫大な賞金が与えられる。
そしてその大会は世界中の大富豪たちのギャンブルとなり、開催期間24時間で5兆ドルの金が動く。
この大会に毎回人材を派遣しなくてはならないということが22代と現在の23代雷蔵の頭を悩ませていた。
初めて政府より招集を受けた第4回大会の優勝者は自ら出場した当時まだ先代22代の一番弟子であった現23代雷蔵。
舞台はフィリピン・マニラであった。
それ以降30年、草場剣術の筆頭格の弟子を毎回派遣してきたが生きて帰ってきた弟子はいなかった。
そして5年前の9回大会。中国の重慶で幕を開けた大会は24代雷蔵になるはずだった草場八雲が出場。
自分の息子を送り出すことになった雷蔵。まさに苦渋の決断であった。
八雲はまだ19才。しかしその剣術、殺人剣は草場流の歴史でも随一とも称された。神速と呼ばれたその戦い方は、姿が霞むほどの移動速度で斬られた者ですら死に気づかない。銃やマシンガンで戦う敵たちを、刀一振身にまとい最後の敵と対峙した。
長い金髪をなびかせて立ちはだかった最後の敵。
クローレ・プルシェンコ。
屈強な男たちを圧倒的な実力差で殺し残ったロシアの女将校。
すでにここまでの戦いで八雲は深い傷を負い満身創痍。
一方、クローレはまったくの無傷。無表情で八雲の前に立っている。
勝負は一瞬だった。
八雲の抜刀より早く、クローレのデザートイーグルが八雲の右腕をセパレートさせた。
50口径のビッグショット。
そして最後に放たれた一発は八雲の右目を貫通。顔面に風穴を開けた。
第9回大会にして初の女の勝者。
クローレ・プルシェンコの名が世界中の裏家業に轟いた。