緋眼の末裔-2
2050年7/8
日本国、総理官邸
「雷蔵、ラオリマの件はご苦労だったな。」
内閣総理大臣、紅林が草場雷蔵を労う。
「総理のお膳立てがあってこその成果でした。
本当にありがとうございました。」
深々と頭を下げる雷蔵。
「私がしたことは伊藤をトイレにおびき出すよう仕向け、監視カメラを3分止めただけだ。現地の日本人スタッフがよく働いてくれたよ。
それにしても鮮やかな仕事だった。良い娘を育てたな、雷蔵。」
紅林の言葉に雷蔵は再び軽く頭を下げた。
「あの伊藤という男は私とアンドロメダとの関係をネタに様々なものを要求してきた。
ある程度は譲歩してやったが、もはや限界だった。
まあ、あの男は駐在大使になることが夢だったようだから、最後に大使として死ねたのは本望であろう。」
と、興奮して話す紅林に、
「長期政権となっている現在、総理の支持は高まる一方です。
その進行を邪魔する者を排除するのが政府に仕える我々の仕事であります。」
と雷蔵が宥めるように言う。
無国籍企業アンドロメダ。
世界の戦争や紛争を操る、歴史上最大規模の死の商人。
金さえ出せば、あらゆる武器や兵器を国や種族問わず注文通り納品する。
更に自社が派遣するプロの傭兵を持ち、場合によっては軍隊を組織して戦争に加わる。
そうやって戦いを煽り莫大な利益へと変えていくのだ。
CEOのジェームズ・ベロンは主要各国の首脳と大きなつながりを持ち、日本の総理を含めた閣僚も例外ではない。
アンドロメダから購入した最新の防衛システム、迎撃ミサイルの配備を決定した紅林とベロンの関係は濃厚かつ親密である。
それを恐喝の武器とした伊藤は消される結末に至った。
「ところで雷蔵。そろそろあの時期になるが?
お前からなにも音沙汰がないから今日呼んだのだ。」
紅林が問う。
「その件ですが総理…。
これまで五年に一度、私の弟子たちを毎回送り出してきました。
そして前回は我が息子、八雲を行かせましたが、皆生きて帰ってきておりません。
どうか次の弟子が育つまで…今回は辞退させていただきたいのです。」
雷蔵はそう言うと両ひざをついて顔を地に押し当てて土下座で懇願した。
「雷蔵…。失望したぞ。私の聞きたい答えはそれではない。
雷蔵…すでに次の大会が女だけの開催になると伝えてあるはずだが?
そしてアンドロメダからお前の娘、Gの指名がきている。
何度もアンドロメダからの仕事へと派遣しているからな。
G…いや霞は世界的にも一流の暗殺者と認知されている。
10回目の節目の大会だ。
失敗はできない。アンドロメダも必死だ。
女限定だからなかなか出場者も見つからない。
男と違って名の通った戦闘員は少ないからな。
雷蔵…断れないことは百も承知のはず。
すぐにお前の娘、霞に準備をさせろ。これは国家命令だ。」
紅林の見下すような冷たい視線が足元で土下座する雷蔵に向けられる。
「総理…!!五年前に息子を亡くし我々夫婦にはもう娘しかおりません…!!
まだ大学生なんです!!
それに娘を失えば『緋眼の一族』の血が途絶えてしまいます…。
なにとぞ…!!なにとぞご留意ください総理!!」
雷蔵の強い懇願虚しく、
「優勝して生き残れば何も問題ない。
それでも不安ならば、お前の嫁はまだ40そこそこだろう?
また作ればよかろう?。
まあ、養子のお前の血は残さずともよいから、歳をとったお前が無理ならば誰か若い男を見つけ、お前の嫁に子を生ませろ。
さすれば血は守られる。」
と紅林は言い放ち部屋を出た。
残された雷蔵は体を怒りで震わせながら絶望に打ちひしがれていた。