復讐の女神-3
「二人の関係は?
今日昨日の仲じゃないんでしょ?」
ルビーの言葉に、
「やっぱりアンドロメダの上位傭兵は何でも気づくのね。」
とリンが答え、アナに引き継ぐ。
「私とリンはもう15年のお付き合いになります。
もちろんお付き合いといっても貴方たちのような関係ではありませんの。
父が亡くなった後に、会社を引き継いだ母がスカウトしてきたサイバーセキュリティーの人材として我が社に来たのがリン。
当時からリンの名前はITの世界では有名で、香港が生んだ天才と評されるほどの怪童でしたのよ。
それ以来、まるで姉妹のような関係です。」
アナの言葉に、
「フェニックス・インダストリー。
名前は聞いたことぐらいあるでしょ?」
とリンが補足する。
霞はキョトン顔だが、ルビーは、
「ああ、南アフリカの物流商社。
ヨハネスブルグを拠点にアフリカ大陸からヨーロッパや南米に発展している世界屈指の大企業。
そのご令嬢がなんでこんな大会に参加しているわけ?」
と問いを続ける。
「私は動物保護団体【アニマルプラネット】の代表をいたしております。」
アナがそう切り出し、自分の事を話し始める。
アナスタシア・フェニックスはNPO団体の代表としてスーダン国立動物保護地区にて密猟者を監視、捕獲、駆除を仕事とするハンター。
中国を中心とする密猟業者の間では、【殺戮の女神】と恐れられている。
無防備な動物をただ角や牙を獲るためだけに殺していく密猟者に対して、容赦なく抹殺していく彼女につけられた通り名である。
「私がこの大会に参加した理由は二つございます。
ひとつはアンドロメダ社CEOジェームズ・ベロン氏から直々のオファーでした。
わざわざアフリカまで高速ヘリでお越しいただき対面にてお誘いいただきましたの。
ただその時はまだ決意が固まらず受諾は保留させていただいたのですが、リンが中国政府に捕縛され強制的に参加させられるという事態になりましたから、私はもう心配で居ても立っても居られない精神状態になり、気が付けばこの地に立っていたというのがふたつ目の理由です。」
あまりにも爽やかで清楚な口調、そして美しすぎる表情で経緯を話すアナの姿に見とれるルビーと霞。
「そのお仕事のせいで、その…なんていうか…大きな怪我をされたんですね?」
霞が言葉を選びながら化粧で隠してあるがアナの左目付近を覆う傷跡に気遣う。
その問いにアナは、
「いえ、この傷は幼いころに何者かが私の屋敷に火を放ちまして。まあ、この程度の火傷で済んだのは父が命と引き換えに助けてくださったおかげですの。
亡き父は会社を大きく発展させるために、いろいろと強引な手法だったようで何かと敵の多い方だったとお聞きしています。
でも私にはとても優しく慈愛に満ちた方でしたのよ。」
と伏し目がちに説明をした。
そこにルビーが割って入る。
「なんでリンがこの大会に参加させられるってわかったの?
参加者は全員が確定するまで極秘のはずよ。」
相変わらず口調がきつい。さっきからのルビーの威圧的な態度に霞は違和感を覚えていた。
それをリン自ら答える。
「それはわたしが拘束されてはいたけど、まあいろいろと手を使って…説明するとややこしくなるから詳しく話さないけど、アナにお別れのメッセージを送ったの。
道は違えど姉妹のような関係だったから。
わたしにすればアナが唯一の家族なのよ。
そしたら来ちゃうんだもん。もうびっくり!!
でも嬉しかったよ。だから必ず一緒に逃げるって決意した。
そしてどうやったらここから出れるかを考えに考えて策を練った。
そして今、ルビーとカスミちゃんの二人と合流するに至ったってわけ。
フフ…あなたたちと一緒ね。」
話すリンの目がギラギラしてくる。
それは確信を得た者の眼。
ルビーは一つ大きな深呼吸をして、
「わかった。それは納得したわ。
じゃあ、最後に。昨日言っていたリンがやりたいことってなに?」
と、昨日リンがこの大会で『少しやらなきゃいきけない事もある』と言った件を問う。
「それは言えない。」
即答のリンに、
「なんで?」
とルビーも切り返す。
「これを話すことであなたたちを巻き込みたくないから。」
リンの真剣な眼差しにルビーは退かない。
「ここまで巻き込んでおいて今さら?」
低い声で再び問い詰める。
少し間をおいてリンが表情に笑み浮かべて口を開く。
「ルビー。これは決して隠しているわけではないの。
うーん…そうね。わたし個人の復讐だってことだけ言っておく。
こんなところにわたしを送った中国政府やアンドロメダの奴らにね。
もう四人は運命共同体。ひとりも欠かせないチームなの。
だからあなたたちのミッションに余計なオプションを加えたくない。
わかってくれないかしらルビー?」
懇願にもとれるリンの態度にルビーは、
「わかった。今はそれでいい。
現状では大きな問題じゃなさそうだから。」
と言った。
「ありがとう。」
リンの言葉に、
「少しカスミとふたりきりで話したいんだけどいい?」
とルビーが聞く。リンが頷く。そして、
「では私たちはロビーでお茶でもしてきますわ。」
とアナがリンの腕を引っ張り部屋を出た。
それを確認したルビーは一気に脱力して深いため息を吐きながらソファーに深く腰をおろした。




