復讐の女神-2
7/26 PM12:10
I地区、プルジョーナホテル。
「大きなホテル…。」
霞が豪華な外観を見ながらつぶやく。
「もう、見とれてないで行くよ。」
ルビーが笑いながら手を引いて霞をロビーまで誘導する。
広いロビーには人がまばらで大きなホテルの割には寂しい光景であった。
だがこのロビーに入ってから心地いいピアノの音色が流れていた。
「キレイな演奏…。」
と霞。
「うん。癒される…。」
ルビーも優しい表情。
二人はロビーの奥の陽の当たる場所にピアノと奏者を発見。
陽の光で黒い光沢を放つグランドピアノ。
そして美しい旋律を奏でる銀髪の美女。
「奇麗な人…。」
と霞。
「うん、すごく奇麗。」
とルビー。
しばらくその空間に酔いしれる二人に、
「はーい。お二人さん。待っていたわよ。」
と昨日のイヤホンの声が邪魔をする。
ショートカットでメガネが印象的な女性。
リンだ。
「あ、はじめまして…。」
と霞は挨拶。
「どうもリンさん。」
ルビーはシェイクハンドを求めて手を出す。
それに応えてリンがルビーの手を取り、
「うーん!来てくれてありがとー!
もうい加減リンって呼んでよ」
とテンション高めで笑っている。
するとピアノの演奏が急に止まり、美人奏者がこちらに駆け寄ってくる。
「やっとお会いできましたわね!アナスタシアです!」
そう言ってアナは二人をハグした。
アナの突然のハグに驚く霞。
一気に間合いを詰められて密着までされた。
アナの素早さに感心していた後に、抱きしめられている状況に顔が赤くなる。
ルビーは一瞬、少しの戸惑いを見せたが冷静に、
「アンドロメダのカメラ、従業員に扮した監視員。
その目の前での抱擁シーン。もう完全に私たちは四人組って認識されたわね。」
とアナの肩越しからリンに言う。
「それを承知で来てくれたんじゃないの?」
淡々と答えるリン。
ルビーはふと表情を緩めて、
「まあ、あれだけ目の前にエサをぶら下げられたら来るしかないわよね。」
と、リンに笑みを見せた。
「じゃあ、私の部屋に移動いたしましょう。
内緒話はそちらで。」
アナが促す。
ここで霞があることに気づく。
「みんな…ワンピース…!!」
その言葉にルビーが反応する。
「で?これはどんな意味の演出?」
とリンに問う。
それをアナが代わりに答える。
「せっかくのお客様ですもの。
お迎えするのになにかないかとリンと考えましたの。
そうしましたら、ルビーさんのホテルのカメラに同じお洋服のお二人が見えましたので、急いで雑貨屋にリンが走って買ってきましたの。
ささやかですがお越しいただだいたお二人への感謝の気持ちと受け取っていただければ嬉しいですわ。」
それにリンが自作のスマートフォンを振りながら加わり、
「チーム…ブラック!!」
と勝ち誇った表情で言い放つ。
「うわー。なんか嬉しい!」
霞が感動している。
一方ルビーはため息を吐いて、
「それはどうも。わざわざ監視カメラでご確認いただきまして。
じゃ、行きましょう。」
と言ってアナの後ろを歩き出した。
ルビーの態度に少し不満げな霞がそれに続き、尚も満足げなリンがしんがりについた。
部屋までの廊下で、
「素敵な髪色ですわ。凄くお洒落です。
ご自分でスタイリングされていますの?」
アナがルビーのカラーリングを褒める。
丁寧な口調なのに嫌味のない印象を感じたルビーはなんとなく緊張感が和らいだ。
「ええ、ありがとう。
アナさんの髪だって奇麗よ。
長い髪が陽に当たると輝いて見える。
見とれてしまうわ。」
と素直に答えた。
その後ろでリンが霞に楽しそうに耳打ちする。
「あの二人、同い年なのよ。フフ!」
それを聞いた霞は少し驚き二人の背中を見る。
長身の美女で大人の雰囲気を醸し出すアナ。
小柄でかわいくて明るい印象のルビー。
対照的に見える二人だが、共通点がある。
綺麗なバラにも棘がある。
戦場こそ違うが二人とも一流の戦う女という事。
しかも同じ年齢ということも加わった。
この後どのような展開になるのか霞は少し不安を覚えた。
アナの部屋に入ると、リンが自作のスマートフォンをチェックし、再度この部屋に監視カメラがないのを確認する。
リンがニコッとして頷いたのを見て、アナが、
「どうぞお掛けになってくださいませ。」
と豪華なソファに三人を促す。
「充電するからイヤホン出して。」
とリンがワイヤレスイヤホンを回収して剥き出しの電線につなぐ。
リビングとベッドルームが分かれているこの広い部屋。
まさに【内緒話】をするにはうってつけの基地といっても過言ではない環境ができていた。
開口一番ルビーが、
「まず最初に確認しなくちゃいけないことがある!」
と、勢いよくリンに詰め寄る。
一瞬にして場の空気が変わる。
霞がルビーの手を握って落ち着かせるが、前のめりに構えるルビーはリンを睨むように視線を外さない。
ルビーの意図を見透かしているかのように、フンっと鼻で笑ってリンはシャツのボタンを外す。
そしてシャツを半分めくり、胸元を見せつける。
リンの胸元を凝視するルビーと霞。
赤く火傷のような5センチ程の切り傷。
若干ケロイド状に変化しつつある状態に、ある程度の治癒を感じるその傷が、二人に衝撃を与える。
「これ…取れてるの?」
霞が戸惑いながらつぶやく。
「チップ…無いわ。」
ルビーが確信を得て言う。
「これで信じてもらえた?」
リンが真剣な眼差しで問う。
深い深呼吸をひとつ漏らしてルビーが、
「取ったチップはどこ?」
と聞く。
ニコリと笑ったリンは、
「今は言わない。」
と、もったいぶる。
その返答を想定していたルビーが確信に迫る。
「そうよね。ネタばらしはこのタイミングではないわよね。
ある程度の戦局が見れるまでは私たちのチップは取らない。
でしょ?」
ルビーの駆け引きに、
「さすがルビー。
それに早々にあなたたちが戦死してしまった時に、死体回収時にチップが体にないとその後のプランに影響が出る。
じゃあ今後のプランを話してもいいかしら?
もちろん手を組むことに了承したと受け取ってもいい?」
と、問い返す。
この時点で霞はルビーに託して口を閉じた。
「そうね。ただもう少し何点か質問してもいいかしら?」
ルビーがリラックスした態勢に体を整えて言う。
「ええ、どうぞ。」
リンがアナの顔を見て確認しながら了承した。




