シウダー・フアレス-3
7月25日AM3:15。
霞を乗せた輸送機は無事フアレス空港へ到着。
陸路にてフアレス市街、C地区のホテルにチェックイン。
白を基調とした落ち着いた部屋。
母からコーディネートされた服を脱ぎ捨て、白いシャツと短パンという、いつもの霞スタイルに着替えた。
軽い食事と休息の後、予定通りにマイクロチップを胸元に入れられる。
さらに昼食後に、A地区のスタジオでスタイリストによるプロフィール画像撮影。
慣れない作業に疲れとストレスで霞はちょっと不機嫌。
ただ画像の出来に満足(加工強め)。さらにクロエのスイーツな差し入れで機嫌が戻る。
ホテルに戻ると、部屋に戦闘服や武器の支給品が届く。
クロエと一緒に霞のオーダー通りかをチェック。
7/25. PM14:25
初日のスケジュールが、一通り終わり、
「街を散策してきます。」
とクロエに言い、さらに小声で、
「ルビーを探します。」
付け加えた。
それに対してクロエは、
「承知いたしました。カスミ様なら心配無用かと思いますが、治安の悪い街ですのでお気をつけて。
私はこちらで待機しております。」
と言い、小声で、
「ルビーは高い場所で街を見ています。」
と添えた。
お互いに笑みで応えて、霞はシウダー・フアレスの雑踏に足を踏み入れた。
霞は支給されたスマート端末を見ながら自分の現在位置を確認して西に移動。
A地区を横切り、B地区まで高い建物を見上げながら進む。
クロエが言った意味は、ルビーがスナイパーであるからこそ高い位置からスコープを覗いているという事。
少し高台に上がった霞は自分の現在位置をもう一度確認。
「B地区の32…。」
そう呟きながら高台から一望できるフアレスの街を見ながら再び東へと向かう。
大きな街だが、高い建物は中心部に固まっている。
A地区に絞り込んで捜索を再開した。
霞がメインストリートをきょろきょろしながら歩いていると、少し背の高いアジア女性と肩がぶつかる。
明らかに霞の不注意。
「ご…ごめんなさい!!」
慌てて謝罪する霞に、
「これ落としたわよ。」
と女は優しい笑顔でいて強引に霞の右手になにかを握らせた。
女はそのまま足早に立ち去る。
残された霞は戸惑いながら握らされた手を開く。
そこにはワイヤレスイヤホンが1組、手のひらで転がっていた。
もちろん自分の落としたものではない。
しかしすでに女は雑踏に消えていた。
どうしたらいいかわからない霞は、一旦ポケットにそれを入れてルビー探しを再開した。
メインストリートから一本入り辺りを見渡すと、陽が落ちてきたことに気づく。
暗くなると見つけづらい。
もちろんルビーからも見えないかもしれない。
今日の捜索を諦めかけていたその時、頬に温かい風を感じた。
ふと見上げると教会の展望塔に人影が見える。
この街は教会が多い。だからこそ目立つ高い塔が盲点となる。
霞は目を凝らす。
「ルビーだ…。」
と、確信する。
とにかく思い切り手を振ってアピールする。
一方、ルビーも霞を探していた。
このメインストリートを見渡せる場所でひたすらスコープで街を眺めていた。
(きっと街を下見するはず…。早く見つけないと…。)
焦る気持ちがルビーにも生まれる。
だが運命の糸はつながっていた。
スコープに見える霞の姿。
こちらに向かって手を振っている。
「よかった…。」
安堵の声が漏れる。
大会が始まってからでは見つけるのは困難。
必ずその前に見つけることでルビーの決意を実現できる。
それは彼女を守り彼女を生かすこと。
当然、そのためには自分が犠牲にならなくてはならない。
だがルビーに迷いはない。
これまでたくさんの人間を殺してきたのだ。
今さら死神に命乞いなどしない。
ただ最期は愛する人のために死ねればそれでいい。
ルビーは支給品のライトをカチッカチッと2回点滅させて合図を送る。
それを受け取った霞がジェスチャーで何かを伝えようとしている。
「C…違う…B…32…。」
そのジェスチャーに合わせてルビーが呟く。
そしてサインの意味に気づくルビー。
スマート端末を開き、フアレスの地図を確認する。
(B地区の32に来いってことね…!!)
ルビーは再びライトで了解の合図を送り、急いで荷物をまとめて移動を開始した。
霞が選んだB地区の高台。
見晴らしもよく、待ち合わせには最適な場所である。
間違いなくアンドロメダの設置したカメラに映るだろう。
関係ない。
2人が結託していると思われるだろう。
関係ない。
迅速に、そして確実に会いたい。
とにかくルビーに会いたい。
ただそれだけだ。
こんなにも感情的で情熱的な自分を知らない。
霞の走る速度が上がる。
目的地にたどり着いたとき、息を切らせたルビーの姿が見えた。
霞はルビーが自分のために急いできてくれたと感じて幸せを気持ちになった。
「カスミ!!」
ルビーも霞を見つけた。
霞は迷わずルビーに飛びついた。
抱き合う二人を夕日が照らす。
それは絶望の中に生まれた小さな光に包まれた瞬間であった。




