バトルロイヤル 10 クローレVSクイン③
意識を飛ばした0.5秒の間、クインの脳裏に浮かんだひとりの少女。
(ああ…わたしのセリア…。)
その少女の名はセリア・ハーデン。
クインの一人娘だ。
いや、そうであったというのが正しい表現だろう。
地元のシアトルでは知らぬ者がいないと言われていたまだ14才のクイン。
生まれつきのガタイの良さや、荒い気性がクインは暴力で一勢力をつくる女ボスへと成りあがらせた。
それはギャングの目にも止まり、ボスの息子の女となる。
そして齢15にして、女の子を出産した。
その頃、身重だったクインをことあるごとにDVしていた男から逃げていたクインは、その世界から足を洗う覚悟で実家の地下でひっそりと娘を育てていた。
しかし執拗にクインを取り戻そうとする男から逃げきれないと判断した両親が、クインに提案する。
この時、クインの両親も男やギャングの手下からの圧力で命の危機を感じていたに違いない。
娘をロサンゼルスの親戚に預けること。
そしてクインはこの町を出て軍の養成所に入隊すること。
この二つが元陸軍兵だった父親からの提案であった。
幸い男は娘には興味がない。
ただ一緒に居れば邪魔な存在である娘を殺しかねない。
だから母親の兄妹に養子として出すことで娘の命は守れる。
そしてクインも軍の中に入ってしまえば、男も手は出せない。
父親のつてで陸軍の特殊部隊コースへの入隊も話がついていた。
その提案はクインにとって厳しい選択となったが、シアトルの女傑もまだ16才。
自分で決断できるほど大人ではなかった。
だが母親の「セリアとはいつでも会える」いう言葉に自分を納得させた。
時はたち、クインは地獄のような訓練を突破し、一流のグリンベレー隊員として地位を上げていった。
持ち前の腕力と気性の荒さが、反骨精神を生み、それを成せたのだ。
しかし世界中を転戦する日々、セリアに会う事は一度もできなかった。
だがセリアが15才の誕生日にクインはやっと会う機会を得た。
近況などは逐一クインの耳にも入っていたがいざ会うとなると緊張を超す戦慄が走る。
この時の、クインの立ち位置は親戚のお姉さん。
突然、実の母親などと名乗ればセリアはびっくりしてしまうだろう。
この家の娘として大切に育てられているのだ。
まずはその距離感で会おうと提案したのは、誰でもないクインだ。
そしてその判断は正しかった。
赤ん坊だった娘の成長した姿。ハグにも力が入る。
自分とは違い、聡明にまっすぐ育ててもらった娘に、こんな自分が母だとは名乗れない。
一緒に料理を作った。
たくさんの事を話してくれるセリア。
愛おしく、それでいて遠い存在。
クインは決断するほかなかった。
母をやめると。
このままセリアはそっとしておいた方が幸せだと悟ったからだ。
そして本当の意味でのひとりのグリンベレー隊員となった。
だが、再び二人の女性の顔が浮かぶ。
カスミとルビーだ。
まるでセリアのような年恰好。
二人を見ていると母であったあの頃の感情が湧いてくる。
自分がセリアに何もしてあげれなかった後悔や懺悔の念が、カスミとルビーを無事逃がすという最後のミッションとなった。
失くしたものは帰らない。
だから次は無くさないようにしっかり抱きとめる。
0.5秒後クインの意識が戻る。
「走馬灯を見せてんじゃねぇよ!!!!!!」
クインは怒号を吐いてファイティングポーズをとった。




