57.寝取られたけどチョコが美味い 弟くんside
どうしてこうなったんだろう。
レオナルドは、自分の好きな人が喘ぐ声を壁越しに聞きながら自問した。
分かっている。
すべての原因は自分の愚かな悪巧みによるものだったと。
姉の婚約者を金にたかる亡者だと決めつけ、生活を困窮させるようなまねをした。
ユーリと決闘させ、公爵家から追い出そうとした。
しかしそんな自分の悪巧みなど、リュートはまったく気にしていなかった。
自分の罪が姉とその友人によってすべて明るみに出されても、謝罪1つで許してくれた。
強さと優しさを兼ね備えた、素晴らしい人だった。
姉の隣に相応しいのはこの人以外にはいない。そう思った。
レオナルドはリュートに、人間として完敗した。
そして今、男としても敗北を喫しようとしている。
決闘直後から、ユーリの様子がおかしいのは気付いていた。
リュートを見る目から嫉妬や恨みといった黒い炎は消え、代わりに違う熱が宿っていた。
それはまるで、リュートの素晴らしさを語る時のレイアのような、今にも溶けてしまいそうな、甘く酔いしれるような瞳。
その瞳が意味することに、レオナルドは気付いてしまった。
だって、他の誰よりも自分が、ユーリをそういう目で見ていたのだから。
義兄に背中を流してもらい温泉に浸かる。
義兄が自身の身体も洗っていた時、そこにユーリがやってきた。
薄い布1枚隔てただけの姿に、レオナルドの目は釘付けになった。
そうして始まる、ユーリによるリュートへの三助。
身体を隠していたその薄布さえも取り払い、産まれたままの姿になったユーリがリュートの背中へ身体を擦りつける。
頬を火照らせ、嬉しそうに口元を歪めながらリュートへと奉仕するユーリの痴態から、レオナルドは目が離せない。
興奮が自分の鼻から熱い飛沫となって迸るのにも気付かず、ただ目の前で繰り広げられる淫靡な光景に魅了される。
リュートの下半身へ顔を埋め、何度も何度もその白く熱いパトスを受け止め妖艶に笑う初恋の君に、一心不乱に視線を注ぐ。
しかし、ユーリの瞳にレオナルドが映し出されることはただの一度もなかった。
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隣の部屋から、姉と義兄が交差する激しい物音と声が聞こえる。
耳を塞いでも手を貫通して聞こえてくる嬌声に、レオナルドは気が狂いそうになる。
目を閉じても浮かんでくるのは、温泉で見たユーリの裸体と奉仕する姿。
幼い頃、一緒に水浴びした姉の慎ましくも瑞々しい裸体。
その2人の憧れともいえる女性を、想像の中の義兄が蹂躙する。
鍛え上げられてたくましい、男として理想を体現したとも言える肉体。
その肉体が2人に覆いかぶさり、女性2人の嬉しそうな悲鳴が幻聴となって脳を揺さぶる。
己の中にグツグツと煮えたぎるこの感情が何なのか、まだ幼いレオナルドには理解できなかった。
現実から隠れるように、布団に包まり目を閉じる。
しかし聞こえてくる姉の甘い悲鳴と激しい水音。
その逆方向から、別の女性の声が聞こえた気がして、レオナルドは布団をガバリと跳ね上げた。
隣の部屋にいるのは姉と義兄。
その反対、もう片方の隣室で寝ているのはたしか、ユーリであったはずだ。
レオナルドはフラフラと起き上がると、ユーリの部屋がある方の壁へ耳を近づける。
「ごしゅじんさまぁ♡ もっと、もっと激しく、強くぅ!♡♡♡」
たしかに聞こえた、ユーリの声。
自分の愛する女性の艶やかな声。
しかしその声はレオナルドではなく、2つ隣の部屋で姉と交わっている義兄を呼んでいた。
壁に耳を押し付け、ユーリの声を少しでも聞き逃すまいと神経を費やす。
より激しくなる嬌声、グチュグチュという水音。
見たい。
隣の部屋で何が起こっているのか、知りたい。
だが、まさか正面切って訪ねていくわけにもいくまい。
見たいけど見れない。その苦悩から、レオナルドは壁にあるはずもない穴を探し始めた。
しかし、天は幼い少年に味方した。
レオナルドは見事、壁にキリほどの小さい穴を探し当てた。
その穴に血走らせた眼球を押し付ければ、そこには自分の愛する人が自家発電している桃源郷が広がっていた。
温泉で見たのは、あくまで義兄がユーリに奉仕させている姿だった。
乱れていたのはユーリではなく義兄だった。
しかし、いま目の前で起こっているのはユーリの乱れる姿。
女性が自分を慰める行為。
人生で初めてその光景を、それも自分の好きな人の痴態を目の当たりにしたレオナルドは。
その日、初めて性に目覚めた。
自分の股に集まる熱。
排泄物を体外に排出する為の器官が熱く硬く膨張していく。
たまらずズボンと下着を脱ぎ、片手を激しく上下させる。
オカズとなるのは、壁1枚向こうの情景。
性に目覚めた少年は一心不乱に手を動かした。
そうして吐き出される白濁とした液体。
自分の手を汚すそれを見て、レオナルドは激しい自己嫌悪に陥る。
しかし賢者となる余韻に浸る間もなく、両隣の部屋からはまだ聞こえてくる女性たちの乱れる声。
もはや時間も理性も忘れて、レオナルドは再び熱を取り戻したソレを慰めた。
目の前の情景に陶酔し、吐き出した後は自己嫌悪。
それを何度も何度も繰り返し、レオナルドはようやく気付く。
自分と義兄の、ソレの大きさに。
吐き出す欲望の量と質が違うことに。
長さも太さも自分の親指程度しかないソレに対し、義兄はどうだったか。
ユーリが口いっぱいに頬張ってもまだ足りないほど長く、ユーリが両手で何とか抱えきれるほど太かった。
サラサラとして半透明、手を濡らすほどしか出ない自分の欲望。
対する義兄の欲望は、ユーリの顔どころか胸までをドロドロに、真っ白に染め上げていた。
もうそろそろ限界を迎えそうな自分と比べて、隣室の姉と義兄の声は鳴りやむどころか激しさを増している。
あぁ、勝てない。
自分には、壁越しに好きな人を見る事しかできない。
その愛する女性に手を出せるのは、リュートのような優れた雄の特権なのだ。
そう悟った時、レオナルドは自分の心の大切な何かが、グシャリと潰される音を聞いた。
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「レオ様」
王都へ向かう馬車に乗り込もうとしていたレオナルドは、振り返る。
そこには可愛くラッピングされた小さな包みを持ったユーリがいた。
「道中、小腹がすいたらこれをどうぞ」
「………………ありがとう」
この時期になると毎年ユーリからもらっていた甘いお菓子。
自分の恋を確かめるように味わって楽しんでいたそれを受け取る。
目の前の、自分の初恋だった人の顔を見上げる。
「? どうかされました?」
不思議そうに小首を傾げる彼女がほんの数時間前まで義兄から愛を注がれていた事が、まるで悪夢のように感じられる。
「………………ううん、なんでもないよ」
それじゃあ、と再び馬車へ歩みを進める。
「はいっ。レオ様もお元気で!」
自分のモノではなくなってしまった。
いや、最初から自分のモノなんかではなかった。
ただ一方的に想っていただけの女性からの最後となる別れの言葉を聞いて、レオナルドはギュッと唇を噛みしめた。
もう、振り返ることはなかった。
馬車が動き出す。
ユーリからもらった包装を開けると、中にはチョコレートクッキーが入っていた。
無言でサクサクと食べ進める。
「………………美味しいなぁ、チクショウ」
晴れているのに、頬を伝う水滴があった。
ハーメルンの方でアウト判定喰らったので、こっちでもいけるか戦々恐々としております。
なんとか逃げ切りたい所存。
あと、次回で最終回です。




