54.寝取られたけどチョコが美味い 伯爵令息side
私はジェームズ。栄光ある王国騎士団。その団長の息子だ。
私が生を授かった伯爵家は代々、国内でも有数の実力を持つ騎士を輩出してきた名家だ。
その長子として産まれた私もまた、騎士としての功績を立てて名誉を手にする宿命を背負っていた。
そんな騎士団長の息子である私に剣の才能がないなど、いったい誰が想像できただろうか。
肌の色は青白く、筋肉はつき難い。
病弱で幼少期から何度も寝込み、運動すれば数日は起き上がれない。
父の期待が諦めに変わったのは、10歳になる前のことだった。
騎士団長である父が愛したのは、屈強な自分とは正反対の儚く美しい、風が吹けば飛んでいってしまうような女性だった。
父が任務先で一目惚れをして娶ったそうだ。
伯爵家の慣習では、数少ない女性騎士の中で最も秀でた女性を嫁にもらっていた。
そうしてより強く、より逞しい優秀な血を育ててきたわけだ。
父が慣習を破った代償は、その息子である私が払う羽目になった。
母によく似た容姿の私を見て父は大層喜んだが、その貧弱な体質まで受け継いだ事に気付いた時、己の過ちを悔い私に謝罪した。
尊敬する父が涙を流しながら私に頭を下げてきた時、私が感じたのは怒りでも憎悪でもなかった。
誰よりも憧れる父のようにはなれないのだと。
歴代の伯爵家当主のような名誉ある騎士にはなれないのだと。
ただ、悲しかった。
父は私が産まれるからと辞していた騎士団の仕事に没頭するようになった。
何かを罪滅ぼしするように。
母は何度も私に謝ってきた。
丈夫な身体に産んでやれなくてごめんね、と。
何も悪くないのに。
一人息子の私を大切に育ててくれた両親を嫌うことはなかった。
その愛情に、期待に応えられないことが悔しかった。
この失意の中で一生を過ごしていくのだと、日々を漠然と過ごしていた。
ただ、騎士になれないのならせめて貴族らしくあるようにと。
母譲りの美しい髪を伸ばし、優れた容姿がより映えるように化粧を覚えた。
周りから貼られた「落ちこぼれ」「騎士にもなれない軟弱者」だというレッテルを剥がす為、自分磨きに没頭した。
そうして誰よりも美しく輝く私を手に入れた。
するとどうだろう。
街灯に群がる羽虫のように、多くの女性がすり寄ってきた。
私はそうした女性たちと夜の関係を持った。
まるで何かから逃げるように、快楽の海に飛び込んでいった。
そんな私の状況が一変したのは、貴族学院に通ってしばらく経った後だった。
貴族学院に特待生として通っている同学年の平民。
その女性が『聖女』に目覚めた。
そして、その伴侶となる『聖騎士』候補として同い年の貴族令息から3人が選ばれた。
宰相の息子である侯爵令息。
公爵家の傍流らしい子爵家の令息。
そして騎士団長の息子である私。
その3人から『聖女』の伴侶が選抜されることとなった。
「『聖女』の伴侶候補として、お前が選ばれた」
父から事務的に告げられた時、私はそこに親としての愛情を感じた。
なりたくてもなれなかった「騎士」という称号。
少し形は違うものの、『聖騎士』という名誉ある職業に就くことができる。
伯爵家の先祖にも顔向けできるほどの栄誉。
私は知っている。
『聖騎士』候補が、ただ無作為に選ばれたわけではないことを。
貴族の各派閥による権力争いが激化していることを。
王国の命運を左右する『聖女』を取り込もうと、それぞれの陣営が『聖騎士』候補に子息を送り込もうと画策していたことを。
そうした政治的な駆け引きが得意でない父がどうにかもぎ取ってきた権利。
私の為にと将来を作ってくれた親心に、零れ出る涙をぬぐった。
父の為、伯爵家の為にも、何としてでも『聖騎士』にならなければならない。
私は決意を胸に立ち上がった。
幸いにも、私はこれまで女性を口説き落とす術を培ってきた。
あらゆる女性を虜にし、その肢体を思うがままにしてきた。
世間的にはあまり褒められたことではないだろうが、女遊びの果てに習得したこの力で以て『聖女』を落とすことなど、実に簡単なことだ。
そう思いあがっていた。
「あぁ、そう……」
初めて『聖女』に会い、最初にその美しい容姿を褒めた時。
『聖女』は私を、引きつった笑顔で返事した。
私は一般的にはイケメンと称される男だ。
世の女性にもてはやされる私に褒められてそんな嫌悪感を露にするような対応をしたのは『聖女』が初めてだった。
ふっ、面白い女……。
どうやら『聖女』は事前に子爵家令息のユードリックから、私の女癖の悪さを聞かされていたらしい。
なるほど、純潔を重んじる『聖女』がふしだらな人間を嫌うのは当然だろう。
それならば一途な面を見せれば良い。
他の女性との関係は絶ち、とにかく『聖女』を口説いた。
『聖女』と同じように余所余所しいユードリックはともかく、同じ『聖騎士』候補であるセドリックのご機嫌伺いもした。
私が選ばれるように、方々へ顔を売ってコネを作り、手回しもした。
すべては『聖騎士』となる為だった。
それとは別に『聖女』を手に入れる為でもあった。
今まで口説き落とした貴族女性は、窮屈なドレスに身を包む為に痩せて肉付きの悪い身体をしていた。
でっぷりと太った者もいたが、美しくない女性を抱く気にはなれなかった為、適当にあしらっていた。
健康的な肉付きをしており、豊満な肢体を持ち、女性としての魅力にあふれた『聖女』の肉体は、何としても抱きたいと思わせるには十分だった。
例えるなら、ライオンの目の前に肉汁溢れる極上のステーキをぶら下げられた気分だった。
貴族女性とは違うその魅力的な身体を、是が非でも手に入れたい。
欲望を満たし、名誉を手にする。
栄光ある未来を夢見て、私は生唾を飲み込み『聖女』陥落へと邁進した。
しかし、私の努力が報われることはなかった。
『聖女』は冴えない貧乏男爵家の子息に恋をしていた。
どれだけアプローチしてもまったく振り返らない、別の男の下へ足しげく通う。
何たる屈辱か。
男として圧倒的に優れた私を無視して、そんなみすぼらしい男に媚を売るだなんて許せなかった。
父もどうやら辺境の男爵家は気に喰わないようで「絶対に『聖女』を取られるな」と念押しされた。
だから、剣術で学院一と謳われるユードリックをけしかけて、決闘で痛い目を見てもらおうと思った。
ユードリックから逃げようとする臆病者の前に立ち塞がり、軟弱者めと煽った。
「まったく、決闘を挑まれて逃げ出すなんて貴族の風上にも置けな――」
「死ねやナルシスト」
貴族らしからぬ暴言が聞こえたと思った次の瞬間────
《リュートの 必殺・金的蹴り上げ!》
「おごぉおおおおおおおおおお!?」
────股間にとんでもない激痛が走った私は、泡を吹いて意識を失った。
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………………
…………
……
パンッ パンッ パンッ
「────ト、ゆるしてぇ♡」
「……めだ。悪いメイドには…………しないとな?」
ここは……?
何かが破裂するような、衝突するような音。
そして誰かの話し声と荒い息遣いが聞こえる。
いつのまにか気を失っていたらしい。
私は身体を起こそうとするが、全身を走る激痛に身じろぎ1つ出来ない。
悲鳴すら出ない。それほどの激痛。下手したら骨の数本、折れているだろう。
辛うじて動く瞼を持ち上げ、周囲の状況確認をしようと努める。
そうして目を開いた私の目の前に映ったのは────
「グゥ……ッ! また出る! 奥に出すからな、アンズ!」
「ハァッ、ハァッ! 来て! 全部出してぇ! リュートォ!♡」
────汗だくで交尾に耽る『聖女』と貧乏男爵家の長男だった。
な、なん……だと……!?
いきなり目の前で繰り広げられる情事に言葉を失う。
どういうことだ!? たしかユードリックが決闘しているはずじゃなかったか!?
どうしてこんな状況になっている!?
問いただそうと口を開くも、肺から絞り出されるのは、か細い空気のみ。
ただ、ベッドを軋ませ快楽を貪る一対の雄と雌の行為を見守る事しか許されない。
私が手に入れたいと願った極上の肢体は、蔑んでいた貧乏人に貪り喰われている。
ますます激しくなる動作、確実にフィナーレへと向かうその様子を、はらわた煮えくりかえりながら何も出来ない自分の愚かさにますます腹が立つ。
「────────ッ!!♡♡♡」
うつ伏せに組み敷かれていた『聖女』が、声にならない嬌声をあげながらエビ反りに身体を跳ねさせる。
その体内に、私よりはるかに劣る遺伝子が注ぎ込まれていく。
数分にも及ぶ長い注入、何度もビクビクと身体を痙攣させる最高の雌。
あまりにも扇情的なその様子に、思わず口内に溢れ出ていた生唾を飲み込む。
下半身のへそ下がじんわりと濡れていく感覚に、私は自分もいつのまにやら達していた事を察した。
「ふぅ……」
男が大きく息をつき、女からナニを引き抜く。
ズルリと音を立てて滑り落ちたソレの大きさに、私は目を剥いた。
お、大きい……!
私よりもはるかに、ひょっとしたら倍以上の長さ・太さはあるかもしれない。
数々の女性を陥落させてきた。
夜の剣技は、誰にも負けない自信がある。
何だったら、その大きさに関しても平均より2回りほど上回っている自負はあるつもりだった。
そんな、女を満足させることが最大の取り柄だった私は、目の前の怪しくぬめり光る逸物を見て確信した。してしまった。
私は、負けたのだ。
あまりに激しい行為に気を失ってしまったのだろうか。
ベッドの上にグッタリと寝ている『聖女』。
もし私が抱いていたとして、ここまで果てさせることが出来ただろうか。
その股座から溢れ出る白濁を、同じ量注ぐことが出来ただろうか。
テクニックでは負けているとは思えない。
しかし、その激しさ・持続力ではどうだろうか。
男として。
いや、雄として。
「──ダメだ、またシたくなってきた。もう1回ヤるぞ」
ズップゥ……
「おっほぉぉぉぉぉぉぉぉ!?♡♡♡」
固さを失っていたはずのソレは、再び膨張し天に向けてそそり立つ。
そうして再び『聖女』の中に突き入れられ、そのあまりの衝撃で『聖女』は、いやメスは歓喜と悦楽の悲鳴を上げる。
そうして一対のオスとメスは、再び2匹だけの世界に旅立ってしまう。
私は目の前の、メスを蹂躙する筋骨隆々な鋼の肉体を持つ男に敵わないと本能で察してしまった。
その鍛え上げられた筋肉は、私が何より欲しかったもの。
騎士としての道を諦めざるを得なかった原因。
騎士としての素質も。
オスとしての強さも。
私が欲したモノすべてを手に入れ、獰猛に笑う男。
その憧憬を見て、私は自分の心が折れた音を聞いた。
流れる涙に目の前の景色がぼやけていく。
ただ、桃色に染まる艶声だけが耳を突き刺す。
下と上から、敗者の涙を垂れ流しながら。
私は絶望の海へと沈んでいった。




