53.チョコが頂かれる
やあみんな、元気かい!?
俺の名前はリュート! 婚約者に浮気がバレて絶賛修羅場ってる、どこにでもいるただの貧乏貴族さ!
ところで知ってる?
1年間に起こる殺人事件のうち、5%は痴情のもつれが原因で起こるんだってさ!
だからみんな、浮気とかは絶対にやっちゃ駄目だゾ☆
おや、川岸の向こうから死んだじいちゃんが両手を振ってる。
久しぶり、懐かしいねじいちゃん!
じいちゃんが死んでから色んな出来事があったんだ!
話したいこと、たくさんあるんだ!
今からそっちに行くから、ちょっと待っててね!
………………あれ?
おかしいな、なんだか両足が重くて前に進まないぞ?
まるで誰かにしがみつかれているような、そんな感じだ。
不思議だなー、いったいどうなってるんだろ────
『まだ逝かせないからな?』
おやレイア、俺の足首を掴んでどうしたんだい?
そんなに強く握りしめたら、俺の足首が潰れちゃうよ。
お願いだから離してくれないかな。
ほら、めっちゃギリギリ鳴ってるからさ。
あんまり引っ張らないでほしいなーって。
ダメ?
ダメかぁ……。
『オラァ! 戻ってこいやぁ!!』
ニャメロン!
そんなに引っ張ったら、足、千切れちゃうだろうが!
うおっ、なんだコイツ! いつもの三割増しぐらいで力が強い!
その小さい身体のどこからそんな馬鹿力が湧いてくるんだよ! 逆に詐欺だよ! コメダ珈琲かよ!
う、うぉおおおおおおおお!?
飲み込まれる! 引きずり込まれる! 地獄の方がマシだと思える何処かへ連れていかれる!
助けてじいちゃん!
僕はまだッ死にたくないッ!
死にたくないボボボボッボーボッボッホ!ボッホ!
この川……深いから、深いッ!
『だから逃げろって言ったジャン……』
そんな殺生な!?
いやもうじいちゃん死んでたわ。
そんな訳で、石が縦に積まれた謎のオブジェクトたちをなぎ倒しながら、俺はレイアに川岸からキャトルミューティレーションされたのだった。
---
死ぬかと思ったぞ。
というか半分死んでたわ。
もう少しでじいちゃんのいる向こう側に逝くところだったわ。
「まったく、心配したんだからなっ」
うん、心配してくれてありがとう。
俺の膝上に向かい合って座り、思いっきり抱きつくレイアは可愛いね。
でも、死にかけたのキミが俺の首を絞めたせいだからね?
たしかに浮気したのは悪かった。
殺されても仕方ないと思う。
でも、殺人の実行犯に生死の安否を確認される俺の複雑な心境もどうか慮ってくれないかい?
「ちょっと何言ってるか分からない」
なんで分からねえんだよ。
どこぞの独眼竜さまの子孫じゃないんだからこんなツッコミさせないでくれよ。
「ご主人様っ!」
どうしたんだいユーリちゃん。
そんな風に顔をグイッと近付けたらお互いの唇が当たっちゃうよ。
心なしか機嫌が悪くなったレイアが俺の首に再び手をかけてきたから、もう少し離れてくれるかな?
「どうでしたか!? 首絞め、気持ちよかったですよね!?」
ちょっと何言ってるか分からない。
「そんな!? どうして誰も理解してくれないんですか!?」
部屋の隅で体育座りして落ち込み始めた……。
あの従者、ちょっと面倒くさ可愛いな。
「だいたいレイアは、なんでそんなに怒ってるのよ」
いやアンズ。俺は仮にもレイアの婚約者だからな。
浮気してしまったら、そりゃ怒るだろ?
あとなんで赤飯持ってんの? しかも釜ごと。
食べるの? 俺が? それ全部?
アチャチャチャチャ!
分かった! 食べる、食べるから!
顔面に赤飯ぶつけてくるのやめて! 火傷しちゃう!
「そもそもリュートは、アタシたち3人でシェアする約束だったでしょ」
そうだぞ、俺1人に赤飯を食べさせてないで、ちゃんとみんなでシェアしような。
モグモグ……
え? 俺をシェアする予定だったの?
それなんてハーレム? 男の夢の具現化? 俺の念能力は具現化だった?
3人って誰? レイア・アンズ・ユーリ?
何それ最初から決まってたの? 俺のいないところでヤルタ会談してたの?
ちょっとそれ俺も詳しく聞きたいんですけど?
「アンタは黙って食べてなさい」
モガモガー!
あ、扱いがひどい! 仮にもハーレム王のはずなのに、扱いがぞんざいすぎて俺泣いちゃう!
「………………だって」
「だって、何よ?」
「だって私と初夜迎えた翌日にすぐ他の女と結&合するとか思わないじゃん!
もうちょっと2人だけのイチャラブ新婚生活楽しみたかったのにぃ!!」
オゴゥグワーーー!?
ちょっと待ってレイア、それ以上は俺の口に入らない! もうお赤飯満杯だからぁ!
ちょっと助けてアンズ! このままだと窒息する! またじいちゃんとご対面する羽目になっちゃうから!
「まあたしかに、それはさすがにクズよね」
あふんっ!
アンズのゴミカスを見るような目が突き刺さる!
ちょっと気持ちよくなっちゃう! ユーリの言ってたことが分かるようになっちゃうのぉ!///
しかし、さすがにマズい。
こう何度も死にかけていては、いつかうっかり間違いで「やっちゃったゼ☆」されてもおかしくない。煽り文に『彼女ができました・・・』されてしまう。これには俺もマソップ不可避。
いったいどうすればこの圧倒的不利な状況を抜け出せるってんだ!
でもたしかにおかしいよな。
男爵領に逃げて来てから、なぜか下半身の欲求に逆らえなくなっている気がする。
いったいぜんたい、どういう事なんだってばよ。
「説明しよう!」
し、知っているのか友人A!
……
…………
………………
いやお前『聖剣』じゃん。どこから生えてきたの?
俺、昨日完全にハァーッ! して消滅させたはずなんだけど?
「寺生まれかお前は」
この世界に神はいなくても仏はいる説?
まあいいや、蘇ったなら今度こそお前を消滅させてやる。
だいたいお前がいるとろくなことにならないし。
「そんなことを言っていいのか?」
どういうことだってばよ。
「説明すると言っただろ! どうしてお前が頭にチ〇コ生えたみたいな言動しか出来なくなったのかをな!」
なんだろう、とてつもない侮辱を受けた気がする。
やっぱり処す? 処す?
……めっちゃ首を横に振るじゃん。最新型の扇風機かよ。
処されたくないなら、さっさと説明してとっとと失せろ。
「説明しよう!」
何回同じことを言うんだ。
そしてそのメガネはどこから出したんだ。
「『聖剣』の力、聖なる力を使うには、生命力────つまり生の力を必要とする!
しかし生の力を使えば、ヒトにはそれだけ負担がかかる! 死が近くなる!
死が近くなった時、ヒトには生存本能と種の保存本能が働く!
つまり、生殖活動に勤しむことになる! それは抗えない本能!
それも同じ『神器』の力を持つ相手との性行為を望むようになる!
何故ならそれで生の力が充填されるからだ!
即ち、性を素直に受け入れることで子孫繁栄・勇者の力覚醒の一石二鳥なのだー!!」
聖の力を使うには生の力が必要で、生の力を蓄えるには性の力が必要と。
ダジャレかな?
この世界を創った神様はどうにかしてるよ。
「それはオレもそう思う」
初めてお前と意見が合致した気がする。
「そういう訳で、お前の『聖剣』で力を使った後はその自慢の『性剣』を使って、どんどん繁殖してくれよな!」
満面の笑みでサムズアップしながらヒトを家畜としか思ってないようなセリフ。
うーん、やっぱりコイツ嫌い。
そして殴りたいこの笑顔。
「いきなり出てきてなによアンタ、失礼ね」
「やっておしまい、ユーリちゃん」
「ジイさんから教わった最強の一撃!
喰らえ咆哮、消え去れ悪鬼!
滅びのバースト・ストリィィィィィィィィィィム!!」
「ギィィィィィヤァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」
あ、消し飛んだ。
「ハァ…………、ハァ…………」
いやぁお疲れ、ユーリちゃん。
すごい力だったね、惚れ惚れする必殺技だったよ。
何なら俺の聖剣よりすごいんじゃない?
「フゥーッ、フゥーッ……!」
な、なんか息が荒いけど大丈夫?
初めての大技で疲れちゃったのかな。
ちょっと横になって休んだ方が良いんじゃない?
「フゥーッ、フゥーッ……♡」
あっ、ヤバイ。
肉食獣みたいな目つきになってる。
そういえば『聖剣』が言ってたな。
聖なる力を使うと性に正直になるって。
………………これはマズイのでは?
「ごしゅじんさまぁ♡ ちょっとこちらへ♡」
いやー!? 食べられる!
昨日の温泉とは比べものにならないくらい貪り尽くされる!
助けてアンズ! 許してレイア!
もう浮気しないから! ちゃんと誠実に生きるから!
このままだと俺、干からびちゃう!
「いや、うん」
「まあ、ねえ?」
なんでお互いに顔見合わせてるの!?
そうしてる間に俺、ベッドのある部屋に引きずり込まれてるから!
にらめっこは後にしてくれない!?
「私もアンズも経験したし、次はユーリの番だよな?」
「ユーリだけ仲間外れも可哀想でしょ? おとなしく頂かれちゃいなさい」
いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
この人でなしぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!
キィィィ………………
バタンッ!
仕事もそうですが、この気温と天気の乱高下に完全にやられてました。
皆さんもどうかご自愛ください。




