49.チョコを救う
【悲報】アンズさん、攫われる
いや、攫われるっていうか自分から行ってない?
誘拐されて赤飯炊く人質ってなによ。
動機が意味不明すぎてもはやアンズが犯人だよ。
しかし困った。
これから王太子殿下がわざわざこんな辺境まで足を運ぶほどの重大な理由を聞くという大事な使命があるというのに。
なんならアンズ余裕そうだし、助けに行かなくても良いまでない?
「待ってるって言ってるんだから、迎えに行ってあげなよ」
そう言いながら左腕にしがみつくのをやめてくれませんかレイアさん。
手放したくないっていう意思表示が明確じゃないですかヤダー。
口ではそう言ってても、身体は正直だね。
「……ニャン♡」
3回戦をご所望か?
名残惜しそうに離れるレイアの喉をくすぐりながら、ふと目の前からの視線を感じて顔を上げる。
「………………」
王太子殿下が無表情で涙を流していらっしゃる。
瞬き1つせず、身じろぎ1つせずにただひたすら涙を流すその様子が軽くホラーです。
「ォ……、オォ…………」
軽くどころじゃなく、すごくホラーだわ。
謎のうめき声が口から漏れ出てるよ。言葉の体を成していないよ。人類はここまで退化したのか。
「ほら、こっちのゴミは私が処分しておくから。さっさと行ってすぐ戻ってきてね?」
王太子殿下を廃棄物呼ばわりしたぞ俺の嫁。不敬にも程があるだろ。
じゃあ行ってくるけど、くれぐれも失礼のないようにね? ここまで逃げてきたのに王都に連行からの処刑されるとか俺ヤダよ?
ジイさんとユーリも、お留守番よろしくね?
ちゃんと見張っててよ。どっちかというとレイアを。
「お任せください。遺体の処理は得意ですので」
「もうお嫁に行けません……」
俺の話聞いてた?
「大丈夫だよユーリ。リュートがもらってくれるから」
「本当ですか!? ありがとうございますご主人様!」
嫁公認で不貞させられようとしています。助けてください。
どうしてぇ……? レイアは俺のこと好きじゃないの?
俺はレイアが他の男に抱かれるの嫌なんだけど、レイアは俺が他の女の子とイチャコラしてていいの?
「ダメだけど?」
もうワケガワカラナイヨ。
「ァ……、アァ…………」
そんでもって、ユーリの後ろでレオナルドくんもカオナシ化してるんだけど。
俺とレイアがニャンニャンしてる間にいったい何があったんだ……。
まあいいや。
とにかく、俺はアンズを迎えに行ってくるから王太子殿下のことは頼んだよ。
「任せてニャン♡」
お前マジであんまり煽ってると本気でブチ犯すからな?
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ジェームズが指定した場所まで急ぐ。
場所は、男爵領が王国騎士団に貸し出していた宿舎。
南方諸国と戦争になった際の最前線基地としても使われる予定だった建物だ。
ちなみに今まで1度も騎士団が駐留しに来たことはないらしい。
平和って素晴らしい。
ところで騎士団の宿舎ってどこ?
ちゃうねん。
決して迷子になったわけじゃなくてですね。
ホラ、今まで行ったことない場所に行くとか無理ゲーじゃん?
ジイさんからだいたいの場所は聞いたんだけどね。
「あっちの方向にまっすぐ行けば着きますよ」
そんな説明で分かってたまるか。
とりあえず言われた方向に全速前進だッ! してるけど、如何せん人なき道を走っているせいで方向感覚もサッパリでございます。
なんせ今いるところが山なんだか森なんだかも分からないからね。
ついでに帰り道も分かりません。
でも大丈夫! なぜならここに秘密道具があるからさ!
ジャジャーン! 方位磁石~!
………………で、これどっちの方向に何があるの?
え~い、この役立たずぅ!
なんの役にも立たない秘密道具はただのゴミよ。反省して?
ということで、あっちへフラフラ、こっちへフラフラ。
あっ、このキノコ美味しそう。
ブチッとな。
モグモグ……。
うん、いけるいける。
「う、うわーーーっ!?」
あれ、なんか叫び声が聞こえる。
人か!? 人がいるのか!?
数時間ぶりに言葉が交わせる生物との邂逅だヤッター!
草むらをガサガサかき分けて、あの子のスカートの中まで一直線。
もとい声の聞こえた方向まで一直線。
そこにいたのは鎧に身を包んだ男の人。
あとドラゴン。
「グルルルゥアァァァァァ!!」
ハイハイ分かった。ちょっと静かにしといてねー。
「ギャース!?」
やべ、久しぶりだから力加減間違えて木っ端みじんにしちゃった。
………………ま、いっか!(テヘペロ)
さてさてどうも、こんにちは。
突然ですが、俺ってば道に迷ってましてね?
いやいや、違うよ? 迷子じゃない。
ただちょーっと道を訊く人を間違えたってだけだから。
それで、お兄さんって鎧を着てるから騎士の人ですよね?
騎士団の宿舎ってどっちにあるか分かります?
「そ、それならアッチの方ッス。すぐ近くッスよ」
ありがとうございまーす!
じゃあ俺は行くので、失礼しますねー。
「………………騎士団、辞めるッスかねぇ」
指差された方向へ走っていくと、本当に大きい建物があった。
無数にある窓の1つに、アンズの姿が見える。
それと、鼻の下を伸ばしてにじり寄るジェームズの姿も。
ピピピッ! ロン毛野郎にロックオン!
俺の身体に満ち溢れる聖剣エネルギーを両脚にチャージ!
イクゾー! デッデッデデデデ!(カーン)デデデデ!
リュート、行きまーす!!
バリィンッ!
「助けに来たよ!」
《リュートの 究極・ドロップキック!》
死にさらせやロン毛ナルシストォォォォォォォ!!
《ジェームズの 急所に 当たった!》
「────ォ、オゴォォォォォォォォォォォォォォォ!?」
《ジェームズは 倒れた!》
ヨシ!
「ヨシじゃないわよ」
《アンズの アイアンクロー!》
ミギャァァァァァァァァァァ!!
《リュートは 倒れた!》
な、なんて力だ。リンゴくらい簡単に握りつぶせそうなくらいの膂力。
まるでゴリラだ。そうか。さてはアンズお前、ゴリラだな?
「アンタの股間を握りつぶしてあげましょうか?」
やめてー! 六体満足で帰して! レイアとニャンニャンするって約束したのぉ!
「………………ねえ」
ね? お願いします。なんでも島風バイノハヤサデー。
ブルブル。俺、悪い聖剣じゃないよ! お願いだから潰さないで!
「なんでリュート、そんなに大きくしてるのよ?」
どこが大きいって? アンズの胸より大きい部位なんか俺の身体のどこにもないぞ_?
────って、なんじゃこりゃぁ!?
ぼくの聖剣が鞘から抜き放たれてビンビンッ///からのビクンビクンッって脈打ってる!
何これ!? 超怖い!
「アンタ、また何か変なモノ食べたでしょ?」
むっ、失礼な。さすがに俺だってあの入学して間もない頃に雑草食べて腹痛になった時から学習して成長してるんだぞ?
「そうよね。ごめんなさい、疑って」
さっき木の根元に生えてた美味しそうなキノコくらいしか食べてないもん!
「食べてんじゃないの! このお馬鹿!」
あぁん! 待って足で踏み潰そうとしないで! 敏感になってるから! ちょっとの刺激で暴発しちゃうから!
ビュルルルルrrr────!
「………………」
………………。
「………………ごめんね?」
う、うぉおおおおおおおお!
殺せ! 一思いに楽にしてくれぇぇぇぇぇ!?
「いやちょっと、そこまで落ち込まなくたって!?」
なぜか俺のムスコはより一層、聖剣としての輝きを解き放っていて留まる事を知らないし!
こ、こんな生き恥を晒すくらいなら死んだほうがマシだぁ!?
「…………ハァ。分かったわよ」
え? マジで俺を殺すの?
自分で言っといてなんだけど、さすがにもう少し長生きしたいんですが。
「違うわよ。処理してあげるって言ってるの」
処理? 死体処理ですか? ドラゴンの餌にされちゃうの?
「だから違うわよ! その……チン……アンタの興奮を受け入れてあげるって言ってるの!」
……
…………
………………
ところでアンズさん。顔を真っ赤にして照れてる可愛い聖女さん。
「………………なによ?」
どうしてメイド服なんか着てるの?
「こ、これ!? これはその……リュートが、こういうの好きかと思って………………」
大好きです!
「ヒャア!? ちょっと、いきなり押し倒すなんてひどいじゃな────なにこれ、力強くない!?」
いやもう限界なんですよ。
朝から王太子殿下のせいでお預け喰らうし、変なキノコのせいで股間と頭がグツグツと沸騰するくらい熱いし。
たぶん日が暮れるくらいまで収まらないと思うけど、アンズが言い出したんだから、ちゃんと責任取ってな?
「今まだ朝よ!? 日が暮れるまでって、そんなに保つわけないじゃない!?」
ん? なんでもするって言ったよね?
「言ってないわよ!」
まあでも実質的に誘い受けだし、合意の上での合法ってことでどうぞよろしく。
「あ~もう! もうちょっとロマンチックな展開を想像してたのに、リュートの馬鹿~!!」
………………
…………
……
ニャンニャン♡
遅刻しました。許してヒヤシンス。




