48.転生魔王の悪巧み 其の四
ねぇなんかヤバいのいるって。
数が集まればドラゴンすら倒せる騎士団だぞ?
国中から集った猛者たちが切磋琢磨した中から更に選りすぐった、エリート中のエリート騎士たちだぞ?
「ひ、ひるむな! 突撃ーーーっ!」
「「「うおーーー!!」」」
「ホッホッホッ」
「「「ぐわぁーーー!?」」」
王太子の号令で突撃を繰り返すエリート騎士たちを、千切っては投げ、千切っては投げ。
息も乱さず、汗もかかず。
不気味な笑い声をあげながら騎士を放り投げる執事服の老人。
「クソッ! なんなんだあの化け物は!?」
「いまお坊っちゃまは、大切なお世継ぎを作られている最中です。どうぞお引き取りを」
「おいジェームズ! このクソジジイをどうにかしろ!」
無理だぞ王太子。
だってコイツ【龍王】だもん。
そうだよねー。【魔王】である我が復活したんだもん。【龍王】だって復活してるよねー。
いやなんでなん?
復活してるのは100歩譲っていいとして、それがなんで我の前に立ちはだかる障壁となってるの?
あとなんでヒト族の姿形を模倣してるの?
あまりの衝撃に我、ちょっとキャラ崩壊しちゃう。
閑話休題。
それにしても、この状況はマズい。
未だ完全復活とは言えない我【魔王】と、ドラゴンを倒せるとはいえ【龍王】ほどのドラゴンとの戦闘経験はないであろう騎士団。
あと役立たずの王太子。
対する相手は、なぜかヒト族の姿をしているとはいえその膂力は数百年前と何ら変わらぬ【龍王】。
戦力の差がありすぎる。
現にほれ、
「ホッホッホ」
「「「ぬわぁーーー!?」」」
「ホッホッホ」
「「「どわぁーーー!?」」」
「ホッホッホ」
「「「ひょえーーー!?」」」
見ろ。騎士団がゴミのようだ。
だいたい我が全盛期でも【龍王】に勝てるかどうかは怪しい。
というか無理だ。
単独の戦闘力で言えば【龍王】>我、なのだ。
我が魔王となったのは、各部族ごとにバラバラになっていた魔族を束ね、魔王軍として組織化した統率力故だ。
いやもう、下積み時代は本当に大変だった……。アッチへコッチへ、いったい何百回部族の長に頭を下げてゴマを擦ったことか。
もちろん魔族史上最強だけどね? 我。
それでも個体値で他を寄せ付けない圧倒的強者種族ドラゴンの最強と比べられると……うん。
我が世界征服の野望を実現させようと行動に移したのも、【龍王】が討たれてからだった。
それほど我は【龍王】のことを恐れ────てはいない。ただ石橋を叩いて渡っただけだ、うん。
何にせよ、我らが前に立ち塞がる【龍王】を倒さなければ聖女まで辿り着くことは叶わない。
いったいどうすれば良いのか。
我はなんとか現状を打開すべく策を練る。
「おや、アンズ様。おはようございます。こちらは危ないので近付かない方が────ふむ?」
うむ? 聖女が出てきたな?
なにやら【龍王】に耳打ちをしている。
………………なんでメイド服着てるんだ?
「口で言うよりも直接見せた方が身の程を知れる……? なるほど、そういうことでしたら」
【龍王】が道を開けた、だと?
何かの罠か? 誘いこんでこちらを一網打尽に────いやしかし【龍王】ならそんな小細工をする必要などないはずだが。
「フーハハハ! さあどこにいるんだレイア! 私がキミを救いに来たぞぉ!」
高笑いしながら王太子が建物に入っていった。もうダメだアイツは。
突然の展開にオロオロと慌てふためく騎士たちに待機を命じて聖女に近付く。
何を企んでいるのか分からぬが、こちらは聖女の母親を人質に取っているのだ。恐れる必要はどこにもない。
「あらジェームズ、どうしたの?」
「おい聖女! 貴様の母親は預かっている! 大人しくついてこい!」
「いいわよ」
いいの?
---
「はい、チャーハン一丁あがり!」
「お母さん、釜玉うどんと野菜炒めも注文!」
おかしい。
人質たちが厨房でひたすら料理している。
そして厨房前の長机では、騎士たちがその料理に舌鼓を打っている。
何故だ?
我はたしか、騎士たちに人質の監視を頼んだはずだったのだが?
夜も遅かったので、仮眠を取って起きてみたらこんな状況になっているんだが?
「いやぁ、おかみさんのご飯は今日も最強に美味いッスね!」
「やだね、そんなに褒めても大盛りにしか出来ないよ!」
貴様か、騎士A。
おのれまさか我の配下である騎士をいつのまにやら篭絡────餌付け? していたとは。
下町の定食屋、恐るべし。
「ちょっとジェームズ! ボーッとしてるなら手伝いなさい!」
そして聖女はどうして我をこき使おうとしているのか。
…………クッ! しかし逆らえない!
何故だ、まさかジェームズの身体に、聖女に対する服従心が染みついているとでもいうのか!
「な、何をすればいいのだ?」
「ちょっとアンズ! リュートじゃないんだから貴族様が手伝えるわけないだろ!」
「それもそうね! じゃあ邪魔にならないところでジッとしてなさい!」
「………………はい」
ど、どうしてこんな惨めな思いをしなければならないのだ!?
勝手に手伝えと言われて、勝手に無能認定を受けるなんて、こんな屈辱はなかなか味わえないぞ!?
おのれ聖女一家め。我が優しくしておれば付けあがりおって。
ここはガツンと、自分たちの立場というものを教えてやらねばならんな。
「おい聖女! 貴様、我をいったい誰だと思って────」
「邪魔だって言ってんでしょ、このキューティクル・ナルシスト!」
………………この長い髪の毛、我の趣味じゃないもん。ジェームズの癖だもん。
グスン。
---
部屋の隅で不貞腐れてたら、いつのまにか朝食が終わっていたらしい。
……我の分は?
「ないわよ。頼んでないでしょ」
そんなご無体な。
と思ったら、母親の方からおにぎりをもらった。貴女が女神か。
……なんで赤飯なんだ? めでたい事でもあったか?
いやこのおにぎり、めちゃくちゃ美味いな!?
なんでこんな美味い────いや、ほんの少しだが癒しの力が宿っているな。
これはたしかに、仕事に疲れた者たちに人気が出るはずだ。
さすが、聖女の母なだけはある。
さて、おにぎりを食べ終えて聖女を探す。
どうやら1人で部屋に戻ったようだ。
……今更だが、我が「捕らえておけ」と言ったのに母娘を縄で縛りもせず、普通の部屋に軟禁するってどうなんだ?
うちの騎士団、どうなっておるのだ。
「え? だってジェームズ坊ちゃんが口説くために連れてきたんスよね?」
違うわい。
おのれ騎士A、貴様は無能か! 無農薬野菜か!?
まあいい。とにかく我は聖女を孕ませることが出来れば、それで良い。
聖女が1人でいるというなら好都合、無理やりにでも押し倒して事を進めてしまえば良い。
完全に復活していなくとも、魔王としての力は徐々に戻ってきつつある。
小娘1人を手籠めにするなど楽勝よ!
本当なら、聖女の愛するあの男の前で抱いてやるつもりだった。
復活して間もないとはいえ、我の股間と腹部に大ダメージを与えたあの不届き者のことだ。
聖女と愛し合っているのか何だか知らんが、復讐してやらんと気が済まなかった。
その為に、わざわざこちらの居場所を知らせる手紙を残しておいたのだ。
しかし翌朝になってもまだ現れない様子を見るに、どうやら聖女は見捨てられたらしい。
あるいはあの馬鹿王太子の対応に追われているか。
フン、馬鹿でも役には立つものだな。
どちらにせよ、聖女を手に入れた以上は王太子に媚を売る必要もない。
さっさと聖女の純潔をいただき、華やかに凱旋するとしよう。
ということで、聖女が寝泊まりしている部屋の扉を開け放つ。
「あらジェームズ、どうしたの?」
それにしても、中身が入れ替わっているというのにここまで気付かれないのもどうなのだ?
このジェームズとかいう男、一応は聖女の婚約者候補だよな?
まあよい。
これから自分が何をされるか分からぬ哀れな聖女に歩み寄る。
その勢いのままベッドに組み敷こうと、聖女の細い華奢な腕を掴み────
と思った瞬間、窓ガラスが割れた。
バリィンッ!
「助けに来たよ!」
《リュートの 究極・ドロップキック!》
────ォ、オゴォォォォォォォォォォォォォォォ!?
《【魔王】の 急所に 当たった!》
わ、我の魔剣グングニルがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
《【魔王】は 倒れた!》
お、おのれ……。何度も何度も我の前に立ち塞がりおって。
これではまるで勇者みたい………………。
………………え? 勇者?
ひょっとして、勇者の末裔?
つまり我への特効+∞?
もしかして最初から、我に勝ち目なかった?
あっ、意識が薄れて────
もう無理ぽ。
お祓いに行きました。
アブラハヤ釣りました。
ナマズに竿の仕掛けを喰い千切られました。
解せぬ。




