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45.転生魔王の悪巧み 其の一

 チンコ痛いねん。


 我、『魔王』が復活直後に思ったことは、その一言に尽きる。

 何せ数百年ぶりに目覚めたと思ったら、大事な男の象徴が潰れるほどの蹴りを喰らっていたのだから。

 あまりの激痛に悶え苦しむ我は、目の前の脅威から命からがら逃げ出した。


「オ、ォゴゴゴゴ……!」


 意識が朦朧として、自分がどこにいるのかどういう体勢をしているのかも分からない。

 ただ股間を襲う鈍い痛みと深い絶望に、このまま二度めの死を覚悟していた時だった。


「ちょっと! ジェームズ大丈夫!?」


 心配するような声と同時に、股間の痛みが和らいでいく。

 安らかな気持ちになりながら見上げれば、妙齢の美しい女性が我を心配そうに見ていた。


「泡噴いて白眼向いてるから、死ぬんじゃないかと思ったわよ」

「あ、あぁ……」


 ホッと安堵の顔を浮かべる女性に生返事をする。

 見れば女性の他にも、メガネをかけた男と小さい男が我の安否を確かめていた。


「もう我慢できん! タナベ令息にガツンと言ってきてやる!」

「ちょっとセドリック!? 待ちなさい!」

「ダメだよアンズ。ああなったセドリックは話を聞かないから」


 メガネの男性がどこかへ駆け出していき、それを呆れ顔で見送っていた2人は再び我に視線を向ける。


「じゃあ行くわよジェームズ。お昼にしましょう」

「そうだね。とんだ災難だったし、とびきり美味しいモノを食べないと!」


 2人に手を引かれ立ち上がる。

 こうして、数百年も待ち望んだ我の復活は、想像していた華々しいものとは異なって、苦いものとなったのだった。




---




 あの2人組と昼食を共にした後、1人になる。

 ようやく記憶の混濁が収まり、状況を把握することが出来た。


 我は魔王。

 勇者パーティーに討伐された後、数百年の時を経て蘇った魔族の支配者である。

 そして我が高貴なる魂が憑依する器となっているこのヒト族の肉体。

 こやつの名はジェームズ。とある王国の伯爵家の跡取り。すなわち貴族らしい。

 なんという貧弱な肉体。筋肉をついていなければ、魔力も少ない。

 これまでコヤツが歩んできた人生の記憶を見れば、野心と邪心だけは人一倍あったらしい。

 しかし思うだけで大成するのであれば苦労はせん。

 願いに見合わぬ努力をしていなかったコヤツの肉体は、お世辞にも我の依り代に相応しいとは言えぬ。


 なぜ魔族の長たる我がこんな小童を依り代にして復活する羽目になったのか。

 本来であれば、我は1000年の時を経てより強大な力を持つ支配者として、再び世界に君臨する予定であった。

 それなのに数百年ぽっちの時間しかかけられず、不完全な状態で復活する羽目になったのか。

 それは『神』の消失という絶好の機会が訪れたからに他ならない。


 なぜ我が『神』がこの世界から消え去ったことに気付いたのか。

 それは、現在この世界に漂っている魔力の質を見れば推測することが出来る。

 以前の世界では、嫌というほどに『神』とやらの力が大気中に満ち溢れていた。

 地上で生きる魔族やヒト族、その他諸々の生物とは違う、絶対的な強者。

 世の理に従って生きるのではなく、世の理を産み出す超越者。


 そんな神々の力が、数百年後の現在。この世界ではほとんど感じない。

 まるで神という存在がこの世界から消失してしまったように。


 この異常事態に、本来ならまだ眠りについていたはずの我の魂は目を覚ました。

 そうしてその時代で1番【魔王】に相応しい生物の身体を乗っ取った、というわけだ。


 しかしそれが、魔族ですらないただの平凡なヒト族だとは!

 こんな貧弱な器では何事も成すことが出来ぬではないか!


 我は現在、書物庫にやってきている。

 まずはこの世界について知らなくてはならないからだ。

 歴史書や古文書を読み漁る。我にかかればこの程度の書物庫すべての知識を網羅するのにほんの数分もかからぬ。


 そして書物を読んで分かったのは3点。


 魔族がヒト族によって滅んだこと。

 過去に『神』がいたとする記録や記憶、そして建造物のありとあらゆるものが消失していたこと。

 勇者の血筋が、はるか昔に行方不明となっていたこと。


 ………………ふむ。

 魔族が滅んでいたのは誤算だった。

 通りで我がただのヒトの子に憑依せざるを得なかったわけだ。

 残念だが、過ぎたことを悔やんでも仕方あるまい。


 逆に、我にとって大きく有利となった事もある。

 それが神と勇者の消失だ。

 まさか我を苦しめていたこの両者がどちらもいないとは!

 なるほど、これはまさに絶好の機会。

 最大の障害となる奴らがいない今! 我が再び世界を手中に収める時が来たのだ!


 とはいえ、焦ってはならぬ。


 思えば数百年前も、慎重な我らしからぬ急いた宣戦布告であった。

 単体では我も敵わぬ【龍王】が倒れたことで気が早ってしまったのだろう。

 序盤こそ上手くいっていたが、神が異世界から呼び寄せた勇者という常軌を逸した存在に煮え湯を飲まされる結果となってしまった。


 急いては事を仕損じる。


 まずはこの、貧弱な器をどうにかせねばなるまい。

 現場に来て体調不良で早退した新人がインフルエンザだったとかで割と大騒ぎ。

 体調悪いなら、仕事に来ないで……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] しかし滅んだ(表向きには絶滅種)魔族という 配下がいない状況で、人間として生まれた魔王。 魔王として蜂起して勝利してもボッチ。 しかも肉体は貧弱。 寿命や身体能力が強化されないと勝利すら…
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