44.悪役令嬢の記憶 其の五
「アンタの弟、怪しくない?」
「奇遇だな、私もそう思う」
いきなりリュートとの決闘を熱望して、お父様が断っても駄々をこねて無理やり押し通す。
これまで接してきた弟────レオナルドとは明らかに異なる立ち振る舞いに違和感を覚えた私だったが、初めて会ったアンズから見ても怪しく見えるらしい。
「まるでリュートを排除したがってるように見えるのよね」
アンズも最初、リュートじゃなくてユーリが勝つと思ってたみたいだし、レオの決闘騒ぎは気が気じゃなかったんだろう。
まあ何にせよ、決闘がリュートの勝ちで決着した以上、私とリュートの結婚を阻む障害はなくなった訳だけど。
気絶させたリュートを担ぎ上げ、私の自室に運び込む。
万が一目覚めた時用にロープで柱に縛り付けてから、今度は外に出てレオの部屋に突撃する。
すでに待機していたアンズと一緒に部屋のドアを蹴り破ると、そこにはポケーッと気の抜けた顔で天井の隅を見つめていたレオ。
虚ろな目でこっちに視線をやるレオに向かって堂々と宣言する。
「これより家宅捜索を始めます」
机の引き出しや戸棚のすべて。ベッドの下から天井の裏まで。
ありとあらゆる場所をひっくり返し、証拠をかき集めていく。
「キャー! お嬢さまたちがご乱心よー!」
メイドが叫ぶけど関係ない。
ユーリが決闘に負けたショックと私の言い続けてきたことを嘘だと断じてきたお父様たちは、私に負い目を感じているから恐る恐る部屋を覗くだけで止めに入ってこない。
突入してから数分。
レオの両目に光が戻る頃には、タナベ男爵家への援助を妨害工作している証拠が完全に揃っていた。
男爵家の執事長・メイド長に向けた密通の手紙。
援助金を持って行っていた遣いの騎士へ出した指示内容を残したメモ。
幼い少年と男装の女性が身体を重ねている春画。
貴族と使用人の身分を超えた巷で流行りの恋愛小説。
これらの証拠を束にして、廊下から顔だけ部屋に出していたお父様目掛けてぶん投げる。
ベチーンッ!
「オホゥ! 痛くて気持ちいい!」
性癖全開で喘いでるお父様に、男爵家への援助を妨害していたのがレオである証拠を突きつけて、一件落着となったのだった。
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口いっぱいに広がる青臭い香り。
プロテインドリンクを彷彿とさせるくらいに白色で濃くドロッとした粘性の強い液体を、よ~く咀嚼してから飲み込む。
脳が弾けるほどのオーガズムと、キュンキュン疼く下腹部。
ビショビショでその機能を失った下着の中に手を突っ込もうかと思ったけど、すぐ隣で私と同じように息を荒げているアンズと目が合った。
お互いになんともいえない表情で頷き、火照った身体を冷ますことにする。
汗とその他いろんな液体でグショグショに濡れた服を脱いでタオルで身体を拭いて新しい服に着替える。
リュートにも囚人みたいなボロ布じゃなくて、ちゃんとした服を着せてあげよう。
誰か適当な騎士から服を借りてこようかな。
学院の制服? あれはひん剝いて私のコレクションに………………ゲフンゲフン。
「それで、レオナルドくんはどうするの?」
私ではサイズが合わないからお母様の服に着替えているアンズが弟の処遇を訊いてくる。
「どうしよっかなぁ。正直リュートを困らせただけで万死に値するんだけどねぇ」
腹違いとはいえ血の繋がった弟だし、これまで姉弟として仲良くやってきたし。
あんまりひどい罰は与えたくない。
とはいえ、好きな人に危害を加えたって事実に腸煮えくりかえるほどにはムカついてるしなぁ。
「被害者はリュートだし、リュートに決めてもらうのが良いんじゃないかな」
「そうね。リュートなら良い落としどころで丸く収めてくれるんじゃないかしら」
1番の懸念事項だった男爵家への資金援助の件は片付いた。
次に考えるべきは何か。
そう、王太子だ。
なんでか知らないけどあのクソボケ、未だに私のケツを追っかけてるみたいなんだよなぁ。
乙女ゲーと同じようにアンズの方に行ってくれれば、リュートを分けずに独り占めできるし最高だったんだけど。
「今からでも王太子もらってくれない?」
「イヤよ、あんな唯我独尊な性格してる奴」
聖女からも嫌われるってだいぶヤバい奴だよな。
ホント、顔が良くて仕事が出来ても、思い込みが激しくて自分勝手な男はろくなもんじゃない。
お父様が断ってるみたいだけど、さっきからずっと王太子から公爵邸に訪問したいって連絡が来てるみたいだし。
こっちは誰も乗り気じゃないっていうのに、なんで気付かないんだろうか。
「王族に目を付けられてる以上、国内どこにいても安寧な結婚生活は望めないわよ」
分かってる。分かってるんだよ。
学院生活でもあれだけ付き纏ってきたし、私1人での自由な時間っていうのはほとんどなかった。
それこそリュートに会いに行く暇もないほどに。
まだそれほど権力のない王子だからいいよ。
アレが国王になってみろ。どんな暴君になるか分かったもんじゃない。
どんな手を使っても私を手に入れようとするだろう。
そうなった時、リュートやお父様たちがどう出るかも分からない。
無抵抗で私を差し出す、なんてことにはならないはず。
下手したら強引な手を使う国王と武力で対抗する公爵家、なんて構図にもなりかねない。
洒落にならない「私の為に争わないで!」案件だ
イヤだよ私を巡って内乱になるの。
それで私の家族が不幸になるの。
部屋のドアがノックされたので入室を許可する。
騎士服を抱えて入ってきたのは、目を覚ましたユーリだった。
「失礼します、お嬢さま────!」
「……ありがとう。そこに置いといて」
「は、はい! 失礼します!」
「ちょっと待ちなさい、ユーリ」
アンズの制止に、慌てて外に出ようとしていたユーリの動きが固まった。
見逃さない。
私は見逃さなかった。
私たちは見逃さなかった。
ユーリ、裸のリュートを見て生唾を飲み込んだよね?
「………………ほ~ん?」
「………………ふ~ん?」
「な、なんですか!?」
別に何も言ってませんが?
なるほどね~。ユーリもそうなっちゃうかぁ。
まあたしかに、リュートの男らしさを全部、自分の身体で味わっちゃったもんね。
自分より遥かに格上の存在からワカラされちゃったら仕方ないか。
「ようこそ」
「こちら側へ」
「何を仰ってるかサッパリ分かりませんね!?」
またまた~、恥ずかしがっちゃって~。
アンズと顔を見合わせて、ニヨニヨと笑う。
ライバルは増えたけど、どうせアンズとはリュートを分け合うって約束したんだ。
2人も3人も変わらないし、それがお互いに可愛がってた従者なら邪険に扱うつもりもない。
「ユーリ、初めてをもらうのは私だからね?」
「後ろの初めてはアタシよ。分かった?」
「分かるけど分かりたくない……!」
ヌォオオオ! と悶えるユーリを愛でながらリュートに服を着せる。
………………2発も出したのに、まだ大きいままなんだけど。
リュート、剛の者すぎない?
私が前世で大事に守ってたムスコより2周り、いや3周りくらい大きい気がする。
これはリュートが起きたら、たっぷり可愛がってもらわなくては。
それこそアンズやユーリの分まで搾り取って、できるだけ独り占めしないとね。
分けるとは言ったが、リュートの1番を諦めた訳ではないのだ。
「そ、そうだお嬢さま。旦那様がお呼びでしたよ」
お父様が?
何だろうか。書斎に訪ねると、お父様が神妙な顔でゲンドウポーズしていた。
「よく来たなレイアよ」
「格好つけてないで早く用件を言いなさい」
「アフン!」
後ろに立つお母様に頭を叩かれて悦ぶお父様。
最近気付いたけど、お父様はわざと偉ぶった態度をしてお母様からお仕置きされるのを狙っている時がある。
これが誘い受けってやつだろうか。
ゴホン、という咳払いをしてお父様が本題に入る。
「レイア、リュートくんと結婚したいかい?」
「はい、もちろんです」
「そうか……」
その為にこれまで頑張ってきたんだ。
私の今世はリュートの為にあると思っても過言じゃない。
リュートと離れ離れにされるくらいなら、私は────
「……よし分かった。レイア」
「なんですか?」
「逃げちゃいなさい」
お父様は言った。
国内では私たちの望む幸せは掴めないだろうと。
あの王太子は決して諦めないだろうと。
だから国外へ逃げろと。
男爵領を通って南方諸国まで逃げてしまえ。
南方諸国は未だに、先の戦争で負けた王国に良い感情を持っていない。
具体的には、戦争を主導した王族に対する反感がある。
王族である王太子が公爵令嬢の引き渡しを迫っても要求を拒絶するだろう。
こっちのことは心配するな。
何か打算があるんだろう、お父様は華麗なサムズアップを決めた。
お母様に天井から吊るされながら。
「どうしてレイアと離ればなれにならなきゃいならないのよ、この無能!」
「ブヒィィィィィィン!!」
どうぞ生涯お幸せに。
両親が用意してくれた馬車に乗る。御者はユーリだ。
「ボクは生涯、お嬢さまの従者ですから!」
これから一生、もう会えるかどうか分からない両親に頭を下げる。
娼婦の娘であり、男としての人格をなかなか捨てられずにいた不出来な娘をここまで大切に育ててくれた。家族として、実の娘として育ててくれた。
いくら感謝してもし足りない。
涙を流して抱き合って別れの挨拶をする。
どうかお元気で。
「ところでレイア、レオを知らないかい? 部屋で謹慎してるはずなんだけど」
………………さあ? どこに行ったんでしょうね?
「何その間。もしかして良くないことをしようとしてるんじゃ……」
それではお父様、お母様! どうぞお元気で!
「ええ、ちゃんと身体と心を自分に縛り付けるんですよ」
「待って! レイア待って! 早まらないで、息子を返して! やっと出来た跡取りなの!」
何のことやらサッパリでございますことよですわ、オーッホッホッホッホー!!
「レイアァァァァァァァァァァァ!!」




