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39.王太子殿下の回顧録 其の二

 おかしい。

 何かがおかしい。

 どうしてレイアがお茶会に来ない?

 ゲームの設定では、間違いなくこのお茶会で王太子とレイアが出会っていたはず。


 お茶会が終わってから調べたところ、レイアは自分の出自に関する噂に気を病んでしまい、辺境の男爵領で心を休めているらしい。

 ゲームではなかった展開に、わたしは愕然とした。


 わたしが婚約者候補を1人も見初めなかったのが原因だろう、その後もお茶会という名の婚約者探しは開かれた。

 でも、何回開いてもレイアは参加していない。

 業を煮やした父──国王が適当な家格の令嬢を婚約者にしようとしてきたけど、わたしは断固として拒否した。

 レイア以外にわたしの伴侶となる女性はいないし、いらない。


 直接会えないのなら、手紙を送ればどうだろうか。

 わたしは便箋を取り出し、レイアの病状を心配する手紙を書いた。

 この手紙を機会にレイアとの距離を深めれば、ゲーム通りに婚約者となれるだろう。


 ………………見ず知らずの令嬢にいきなり手紙を送るのは失礼だと、母──王妃に窘められてしまった。

 いいじゃん! どうせわたしとレイアは結ばれる運命なんだから!


 とにかくレイアに会いたくても会えない。

 そんな日々が十年近くも続いた。


 レイアに会えない鬱憤を紛らわすように、わたしは自己研鑽に励んだ。

 すべてはレイアにふさわしい男となる為。

 わたしの思い描く理想の王子様になる為。


 そうして出来上がったのが"私"、超絶パーフェクトにしてイケメン王太子!

 そこら辺を歩くだけで女性からの熱い視線と黄色い声を独り占め!

 政治面でも前世の記憶を使って行政チート!

 特に綺麗な街並みや清潔感を重視して、上下水道の整備や石鹸の開発、衛生管理の何たるかを普及!

 転生直前の授業が水道施設への社会科見学で良かった!


 そうして民衆からも支持を得て、自分の名声を極限まで高めた私は、満を持して貴族学院へと入学することとなった。

 もちろん婚約者は未だなし。

 不思議なことに侯爵家以上の貴族に年齢が近い未婚の令嬢がいなかったこともあって、両親からの婚約しろしろ圧力もそこまでひどいものではなかった。


 そして、レイアが学院に入学してくることは事前に確認済み。

 今まで寂しかったでしょう、レイア。

 もう大丈夫。キミの疲れた心を私が癒してあげよう。


 そうして教室に入った瞬間、私は待ち望んだ天使との邂逅を果たしたのだ。


 長く腰まで伸びた艶やかなピンクの髪は、光を反射して美しく揺らめいている。

 髪色よりやや落ち着いた色素の薄い色の瞳には、吸い込まれそうな魅力がある。

 細く整えられた眉は悪役令嬢らしく勝ち気そうにやや吊り上がっており、物怖じせず明るい性格であるように思わせられる。

 しかし気が強そうだからといって立ち居振る舞いが粗雑なわけではなく、貴族の令嬢として完成された舞うように美しい所作はその1つ1つに周りの目が引き寄せられ、見る者すべてに感嘆のため息をつかせる。

 恵まれない幼少期が故に成長の乏しい身体は、逆にその儚さと愛らしさ、慎ましさをアピールしている。


 可憐だ……。

 美しさと可愛さを兼ね備えた想い人に対する垂涎を抑えきれず、最初の数日はただレイアに見惚れるだけで過ぎ去っていった。


 いや、ただ眺める為に転生したわけじゃない。

 私はレイアの伴侶となり、不幸な彼女を幸せにするべくこの世界に来たんだ。


 レイアが1人になる機会を見計らう。

 休み時間。取り巻きの令嬢たちが離れた隙を狙い、廊下に出たレイアに声をかける。


「ああ、レイア嬢よ。貴女はなんと可憐なのだ」


 わたしの、私による、レイアの為の乙女ゲーがここに開始したのだった。

 作業ズボンに履き替えたら、内股のところに毛虫さんが「コンニチハ」しながら入り込んでてエライことになっております。不幸だ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] この時点でレイアに婚約者がいる事を調べてなかったんだろうか。 殿下……ちゃん?は
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