31.〇〇の昔話 其の二
「ヒトにとって、勇者の血筋は非常に魅力的だ」
それは勇者の偉大な功績に引き寄せられて……とか目に見える部分での話じゃないのか?
容姿に優れた女性が多数の男性から言い寄られるように。
圧倒的な武勲を立てた英雄が複数の女性を娶るように。
『英雄、色を好む』なんて格言だってそうだ。アレは性欲どうのこうのもあるけど、単純に強い雄に女性が集まるのも理由になってるからだろうよ。
「そんな単純だったらいいんだけどな。どっちかといえばフェロモンとかの方が近い。頭で考えてどうこうじゃない、より本能的に勇者の遺伝子が求められるようになったんだ」
つまりモテモテってことね。
良いことじゃないか。他人から嫌われるよりは好かれた方がいいだろ。
「そんなこと言ってたら神様がお怒りあそばせた訳なんだが?」
いやん。神様の心、レイアの胸より小さすぎ~。
「お前この後どうなっても知らないからな」
た、たぶん聞こえてないから大丈夫。たぶん。
「そんなこんなで強い血の力を得た勇者一族だったが、神様の怒りに触れるのを心配していたのは最初だけだった」
なんで?
………………あぁ、そっか。血が薄まるからか。
「そうだ。いくら勇者の血が強力だとしても、数世代の交配を重ねれば血は薄まって神様の加護も薄くなる。勇者たちも自分たちの経験を子どもたちに語り継いでいたからな。権力を欲する奴も、色に狂う奴も幸い出てこなかったし、心配は取り越し苦労で終わった」
終わった(はずだった)ってことね。
うわぁ、ゲンナリした顔をするなよ。こっちまで気が滅入ってくるだろ。
「先祖返り。その可能性を完全に失念していた……」
そうなんだよね。もしも勇者の強さがそのまま遺伝しているんだったら、ひいじいちゃんだけじゃなくて、じいちゃんや父ちゃんも強いはずだもんな。
「いや、オレだって分かってるよ? アイツふざけた性格だったけど根は良い奴だったし、好意を告げられたら断れなくて全部受け入れちゃったんだろうなってことはさ」
まるでひいじいちゃんの事を知ってる風だけど、お前いったい何歳よ?
「でもさ、こっちが仕方ないって言っても神様にとっては知ったこっちゃないわけでさ」
そういえば神様ブチ切れだって言ってたけど、具体的にどんなデメリットがあったわけ? この数十年の間に世界の危機みたいなことってあったっけ?
「……お前さ、神様を祀ってる神殿とか教会とか、見たことある?」
うん? そりゃあ教会の1つや2つくらい………………
「……ないだろ?」
ない、ですね。
よく考えれば『聖女』なんていたら教会と国が身柄を奪い合って大喧嘩しそうなもんだけど、そういうのも一切なかったな。
「神様な、この世界から出ていっちゃったんだよ」
家出ってこと?
「違う違う。そんな生やさしい物じゃない」
「見捨てられたんだよ。世界まるごとな」
………………マジ?
「マジもマジ。何ならこれで新しい小説1本書けるぜ?」
『人類は神様に見捨てられました』ってか? 縁起でもないな。
じゃあ何ですか。教会というか宗教そのものがないっていうのは、神様が消えたことでそれに関する記憶や記録がなくなった……てこと?
「イエス」
オーマイガッ! いや神様いないんだったわ。
嘘でしょ? 命張って国の為に戦った人がちょっとワガママ言ったからってそんな暴挙に出る?
「神様ってのは理不尽なもんなんだよ」
理不尽すぎて涙が出ますわ。まっすぐ歩いてたら急に斜めに曲がってきた女にぶつかられて痴漢呼ばわりされるくらい理不尽だわ。作者、お前の事だぞ。今だけ泣いてもいいですか。
「幸いにも今のところ、人類の存続に関わるようなヤバい脅威は確認できない。神様がいなくなったからってすぐどうこうなる話じゃない」
少なく見積もってもあと数百年は大丈夫?
じゃあ良かった。少なくとも俺が生きてる間は平和だ。
………………でも、いつ世界の危機が来るかは分からないよな? 予測は出来ても対策は難しいだろコレ。
「そう。だから次の『勇者』を作って備えることにした」
ふぅん。勇者をねぇ?
神様ですら失敗したのに可能なのかね。
「大丈夫だ。下地ならもう目の前にあるからな」
へー。まあ見通しが立ってるなら良かった。
世界を救うために頑張って。応援してるよ。
……
…………
………………
………………え? 目の前って、俺?
「そう。お前」
いやいやいやいやいや。
俺じゃ絶対に役者不足だって! 絶対に俺より良い人材がいるから!
「大丈夫。お前、勇者の末裔だから。だいたい実験開始してから3世代目で最高に近い素体が産まれたのに、みすみす見逃してたまるかよ」
オイコラ誰が実験生物モルモットくんじゃい! 怪しげな薬飲んで七色に光るぞ!?
だいたい3世代目ってなんだよ。じいちゃんの頃から実験台にしてたのかコノ野郎! 治験代を要求する!
「ほれ国宝」
わーいコレさえ売ればぼくも大金持ちだやったー!
じゃねえよ! どこから盗んできたんだお前! こんなの持ってたら捕まってしまうわ! さっさと元の場所に返してきなさい!
「大丈夫、幻だから」
な~んだそれなら一安心……。
いや結局タダ働き!
なんで俺の一家を実験台にしてんの!? 理由! 理由の説明を求める!
「そりゃお前、神様怒らせた原因なんだから責任取れよ」
仰る通りでございます!
クソ……! 会ったこともないひいじいちゃんのせいで俺、研究用のモルモットになっちまったよ。こんなの三食昼寝付きじゃねえと耐えらんねえよ!
「まあそういう訳だから、世界を救うためにちょっくら協力してくれや」
イヤです(迫真)。
噓です嘘です! そんなマジになるなって!
俺だって自分のせいで世界が終わるとか嫌だから!
分かった分かった、ちゃんと協力するって!
で? 俺はいったい何をしたらいいの?
「おう。とりあえずレイア・アンズ・ユーリの3人とたくさん子ども作ってくれや」
えっ、イヤです………………。
上司の上司「新入社員と外人技能生の教育を同時に行えば、無駄な時間を削減できるのでは!?」
同僚(外国人と大喧嘩)
ボク「定時退社バンザーイ!(逃走)」
上司「う~ん(胃痛)」
アカン。上司が死ぬぅ。
こういうの見ると昇進意欲が失せるよね。