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3.チョコが甘酸っぱい

「冬の寒さ残る中で梅の木が花開くのを心待ちにしております時分、王太子殿下にご挨拶申し上げます」


 咄嗟に膝をついて深々と礼をする。

 いやあ、マナーについて学び直しといて良かった。田舎者だって舐められないようにマナーや礼儀は大事だって父親も言ってたからな。


「堅苦しい挨拶はいい。面を上げろ」


 言われた通りに顔を上げれば、うわぁ面白いほどのしかめっ面。

 さっきレイアに見せてた満面の笑みを俺に見せてくれてもいいんだよ? 惚れちゃう///


「私めに、何か御用でございますか」


 周りを囲んでいた令嬢たちを放っておいてわざわざ俺のところにまで話に来るなんて、いったい何の用だろうか。

 不敬を働いた覚えもないし(そもそも関わったことがまずない)、家柄的にも王太子殿下が気になる要素はないはずだけど。


「レイアの婚約者だというのは貴様か」

「左様でございます」


 鼻をフンッと鳴らされた。花粉症かな?

 返事しただけなのに眉間に皺が寄ったんだけど、これ俺と話さない方が良いんじゃないの殿下?


「まったく釣り合いが取れていないではないか」

「おっしゃる通りです」


 王族に対しては、肯定と即答。決して機嫌を損ねないように。

 マナー講座を開いてくれた先生の教えに忠実に従う。

 いやまあ、機嫌は損ねるどころか最初からどっかに吹き飛んでたけど。それは俺のせいじゃないから許してチョンマゲ。


「公爵令嬢で頭脳明晰、学院の花と謳われるレイアに対して貴様は何だ。

 本当に王国のものかも分からぬ辺境のド田舎の、男爵令息だと?

 地味でパッとしない見た目、成績も悪く勉学に励まず遊び惚けているとは恥を知れ」


 なるほど、お気に入りの令嬢の婚約者が悪い噂で絶えないから叱責しに来たのね。

 ごめん先生。殿下の機嫌が家出してたの、やっぱり俺のせいだったわ。


「お恥ずかしい限りにございます」

「貴様のような者がレイアに近付くだけでも無礼と知れ」

「はい。しかと肝に銘じておくでございます」


 やっべ、言葉遣いが乱れた。バレたか? バレてないよな?

 そろーっと殿下の表情を伺う。

 ニヤッと笑ってる。ニヒルな笑みだ! さすがイケメン格好いい!

 何だか知らんが機嫌がよくなったみたいだし、とにかくヨシ!


「さて、話は変わるが今日はバレンタインデーだな?」

「アッハイ」


 やっべ、雑談に入った。要件が終わったならどっか行ってくれないかな。

 王族と話すだけでも緊張するし、機嫌損ねないようにするだけで疲れるんだから、話しかけてこないでほしい。


「私は先ほどレイアからこのような素晴らしい贈り物を受け取ったのだが、どうやら婚約者である貴様の分はなかったようだな?」


 そうですね。さっきもらってましたね。というかずっと視界に入ってましたけどね。

 そしてたしかに、俺はレイアから何ももらっていない。

 というか学院に入学してから、話したこともあんまりないんじゃないかな?

 だいたいレイアは王太子殿下の近くにいたし、いくら婚約者とはいえ身分的に大きく差のある俺から話しに行くのはマナー違反だしね。


 遠巻きに俺と王太子殿下の会話を聞いている群衆の中にレイアを見つける。

 何やら顔を真っ青にしてる。

 婚約者である俺を捨て置いて王太子殿下とイチャイチャしてるのがバレて慌ててるのかな?

 別にそんなの気にしなくていいのに、相変わらず心配性だなぁ。


「おっしゃる通りです」

「どうやらレイアからすっかり見放されているようだな? 情けない婚約者どの?」


 ニヤニヤニヤニヤ

 レイアからチョコレートをもらったのがよっぽど嬉しかったらしい。殿下の笑いが止まらない。


「レイアもよく分かっている。彼女にふさわしいのは貴様のような凡人ではなく、私のように高貴な者であるべきだ」

「おっしゃる通りでございます」


 俺もそう思うよ。レイアみたいな素晴らしい女性は、俺みたいなつまらない輩に引っかからないで、もっと素晴らしい人と幸せになるべきだ。


「身の程をよく弁えているな。これからもその調子で慎ましく日陰で生きるがよい」

「身に余る光栄にございます」


 俺の返事が大層お気に召したらしい。王太子殿下は高笑いしながら去っていった。

 それにあわせて、周りの野次馬たちも散っていく。


 後に残されたのは、チョコレートの包みをせっせと片付ける俺と、真っ青な顔でブルブルと震えるレイアだけだった。


 そういえば、次の授業は別の教室だったっけ。急がないと、もうすぐ休み時間なくなっちゃうな。


「気にしなくていいよ、レイア」


 何を怖がっているのか、足を動かさないレイアに声をかける。


「俺はいつだってキミの味方だ。だから何も気にしなくていいんだよ」

「ち、違うんです。リュート様。わたし……わたしは……」


 頭を撫でようとして、やめる。

 それはもう、俺の役目じゃないだろ?


「………………リュート様?」

「ごめん。時間がないからもう行くね」


 瞳を大きく見開いて、涙が零れそうになっているレイアを見ないようにして教室を出る。

 入れ違うように教室へ入っていく王太子殿下に一礼すると、後ろを振り返らないように下を向きながら早歩きで次の授業が行われる教室に向かった。

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