28.チョコが起きる
ガタンゴトーン
ガタンゴトーン
何やら聞き覚えがあるような、ないような振動音が聞こえる。
ムニュッ
それはそれとして、この頭に感じる柔らかい感覚はなんでしょうか。極楽ですか、天国ですか。
こんなに肌触りが良くて弾力もあって柔らかくてすごく良い匂いがする枕、俺は持ってなかったと思うんだけど。
う~ん、寝心地よすぎてスリスリしちゃう。
「──ひゃんっ」
最近の枕は喋るんですか。科学の進歩ってすげー!
言うとる場合か。
何かが変だと目を開ける。
「リュート、起きた?」
慈愛の女神か?
視界の半分に広がっているのはアンズの優しい微笑み。どうしよう可愛すぎて好きになっちゃう。
ちなみに視界のもう半分を占領しているのはアンズが誇る2つの丘陵。丘というより、もはや山です。北方の大山脈なんか目じゃないね。
やはりおっぱい。おっぱいは世界を救う。桃源郷はここにあったんだ……!
──ハッ! 殺気が!?
よっこらせと身体を起こす。
なるほどアンズに膝枕されてたのか。胸だけでなく太ももまでムチムチスベスベとかもうエロエロの実の能力者ですかあなた。
そのあまりのドスケベボディーに俺のムスコもドスケベマシンザチャージ。これにはライフラインさんもニッコリ。
「………………」
レイアさんからは殺意がドッサリ!
向かい側の席に座っていたレイアさんがものすごい目で俺の股間を睨み付けております。
「………………去勢?」
勘弁してください!
たいへん申し訳ありませんと決死のジャンピング土下座。グリグリと床に頭を擦り付ける。
「駄目よレイア。去勢したらリュートの魅力が半分減っちゃうじゃない」
「それもそうか。じゃあ貞操帯を付けるくらいで勘弁してやるよ」
俺の魅力、半分ち◯こなの? そして貞操帯は果たして許されていると言えるの?
……いや待て。決闘の時までは囚人みたいなボロボロな服を着せられていたのに、今は割とちゃんとした服装に変わっているな?
俺は決闘の後は気絶していたから自分で着替えた訳ではないだろうし、ということは誰かに着替えさせてもらった?
そして、レイアとアンズは俺の裸を見たことがなかったはず。にも関わらず俺のムスコの大きさ事情を知っている……?
つまり、そういうことか!
謎はすべて解けた!
お前ら、俺を着替えさせる時に見ただろ!?
おいコラ目を反らすな、頬を赤らめるな! 居たたまれなくなるだろ!
「……ごちそうさまです」
何が!? 俺が意識ない間に何したの!?
口元を拭わないでレイア! 柔らかくて美味しそうだなって見ちゃうから!
「何ってナニを……」
あー! あー! 聞きたくなーい!
俺はまだ童貞! 俺はまだ清廉潔白! まだ大丈夫、まだ逃げ出せる!
「──話をしましょう」
あれは今から36万……いや、1万4千年前だったか。
え? 違う? 真面目なお話?
さて、と姿勢を正す。
さっきまで公爵邸にいたはずなのに、いま俺たちは馬車の中にいる。揺れているのは移動による振動のせいだったんだろう。
俺がユードリックと決闘して、負けるつもりだったのにあまりの弱さに勝ってしまったまでは覚えている。その後、レイアに気絶させられてから今に至るまで、いったい何があったんだ?
「まあ、いろいろあったのよ」
カクカクシカジカで話が通じたのはもう一昔以上前の時代だからな?
状況説明を求む。主に俺の貞操の安否確認的な意味で。
「順を追って説明するつもりではあるんだけど、まあ先に結論を話すとだな」
簡潔に結論を話すのは大事だね。小論文でも結論書いてから自分の意見を述べよって習ったし。
「もう全部放り出して、逃げちゃおうかなって」
やっぱり過程から説明してもらっていいですか?
「いやだってさぁ、私がリュートと結婚することに周りは反対みたいだし?
かといってあのキモい王太子と結婚するなんて死んでもゴメンだし?
いつのまにか私の他に2人も堕とすほどリュートはモテモテだし。
これ以上増えたらさすがに自分を抑えられなくなりそうだし。
リュートの実家に送った援助は身内が邪魔してたし。
私がリュート強いって言ったの誰も信じてくれてなかったし。
あれもこれも面倒くさいから、じゃあもう逃げちゃえばいいんじゃないかなって思った訳」
なるほど分からん。
つまりアレですか。レイアは俺と結婚したくて駆け落ち目的で誘拐したって事ですか?
「That's light. 」
助けてぇぇぇぇぇぇぇ!!
誘拐犯がここにいます! 貞操の危機です! 身の安全が保障されていません! 誰か助けて!
「大丈夫よリュート」
それいけアンズマン! 正義のヒーロー聖女さま!
お願いします。目の前の悪しき存在を聖なる奇跡でハァーッ! ってやって消し去ってください!
「嫌よ」
なして?
「アタシだってこのままだったらリュートとは違う国に決められた相手と結婚することになってたのよ?
それで将来は国の為に見ず知らずの他人を救い続けなきゃいけないの?
アタシのお願いは何1つ聞いてもらえないのに他の人のお願いは叶えないといけないなんて嫌に決まってるじゃない。
だったらもうこんな国から出ていってやる! って思うのも当然でしょ?」
やばい、加害者に加担者だった。
まさに前門のレイア、後門のアンズ。喰われてしまうぞ?
「いやもう食べたというか飲んだんだけどな?」
「挟んだし搾ったし飲んだわね」
イヤァァァァァァ! 性的加害者ぁぁぁぁぁぁ!
というかやっぱり俺の貞操守られてないじゃんか! 俺の特製生搾りジュースは美味しかったかい?ニチャア なんて言ってる場合か! おいそこ! 口元を抑えて頷くんじゃない! 興奮しちゃうだろ!
こんな変質者だらけの空間にいられるか! ぼくおうち帰る!
え? 我が家の援助、公爵家の人が止めてたの?
「ということで、こちらが真犯人のレオナルド君です」
ゴロン
「ン~~! ムゥ~~~~!」
イヤァァァァァァ!
弟くんが簀巻きにされてるぅぅぅぅ!
まるで未来の自分を見ている気分だ。絶望とは正にこのこと。
ガッチリ猿ぐつわまで噛まされて、ビチビチと魚のように飛び跳ねてらっしゃる。水揚げ中です。
「なんかジェームズと同じ雰囲気してたから、気になってたのよね」
だよね? なんか一挙一動が似てるんだよね。
「普段おとなしいのに、急にリュートと決闘したい、代理はユーリだって言い出すから不思議に思って調べさせたらまぁ。
男爵家の執事長とメイド長に宛てた密約の手紙の写しがアッサリ出てきたからな」
詰めが甘いところは子どもらしくて助かった。
そう言ってにこやかに笑うレイアさんの目が笑ってなくて怖いです。
俺、弟くんに会うの初めてなんだけど? そんな嫌われるようなことした覚えないんだけど?
「ほら、レイアほったらかしでアタシと仲良くしてたでしょ? それでお姉ちゃん子のレオナルドくんブチギレ」
「何度思い出しても腹が立つ」
その節はたいへん申し訳ありませんでした。
簀巻きくんの横で震えながら土下座していると、レイアが呆れたように鼻で笑う声が聞こえる。
「もういいよ。アンズとの話し合いで解決したから」
浮気が許された。
……いや、浮気じゃないけどね? お互いが誤解したままで起きてしまった悲しい事故だったんだよ。
で? 話し合いって何を話し合ったの?
「独り占めできないなら、共有しちゃえばいいじゃない?」
え、なんですか。
彼氏シェアリングとか時代を先取りしすぎてませんか。
「アタシもレイアもユーリも傷付かないし、良い案だと思うのよね~」
左腕をアンズさんがガッチリ。
「リュートも可愛い女の子3人に囲まれたら嬉しいでしょ?」
右腕をレイアさんがシッカリ。
あれ、これ何か少し前にも似たような状況になってたような気がする。
あぁ! 弟くんの目がどんどん濁っていく! 諦めないで! 俺のこと嫌いでいいから助けて!
「うふふふふふふふ」
「おほほほほほほほ」
薄ら笑いを浮かべて両腕に抱きついてくる美少女2人。
どう見ても羨ましいハーレムの図なんだけど、寒気が収まらないのは何ででしょうか。逃げていいですか?
「ダメよ」
「ダメだぞ」
ダメかぁ……。
それじゃあ別のお願いがあるんですけど。
「いいわよ。アタシたちから離れる以外のことだったらね」
「リュートのお願いだったら、なんでも叶えてあげるからな」
トイレに、行きたいです………………。
「………………」
「………………」
あの、なんだろう。
無言で離れるの、やめてもらっていいですか?
「なんか、その……」
「……ごめんね?」
やめてよぉ! 恥ずか死んじゃうからぁ!
イチャラブ甘々ハーレムものをやってたら「どうして俺はNTRなんか書こうとしてるんだ……?」と正気に戻りかけましたが大丈夫です。
それはそれとして仕事の方が
上司「外国人50人雇ったから現場で教育よろしくねー」
外人「ワ~タシ、ニホンゴ、ワッカリマセ~ン」
ボク「正気か?」
となっているので、更新ペース落ちます。2日に1話は更新できるように頑張ります。




