20.チョコの和解
目の前には正座させられているユードリック。
俺の両隣には腕をちぎらんばかりに引っ張りあうアンズとレイア。
こーらこら、そんなに引っ張ったら裂けちゃうぞ。俺が。まっぷたつに。
モテモテだと思うでしょ?
これただの修羅場。
「それで、どういうことユーリ。私は聖女"を"堕としてこいとは言ったけど、聖女"に"堕とされてこいと言った覚えはないのだけれど」
「申し訳ありません!」
可愛い男の子が顔面蒼白で土下座する姿からしか摂取できない栄養素があると思います。
ほっとくとアンズとレイアがユードリックにやいやい問い詰めてユードリックが泡吹いて倒れる、という生産ラインが出来つつあったので、一問一答形式で交互に会話していく方針を取っております。
可愛いはヌける。可哀相はヌけない。
土下座? あれはまだ可愛い部類に入るから。
「ユーリ。レイア公爵令嬢はアタシとリュートを引き離すためにユーリを聖騎士候補にした。そうよね?」
「は、はい。それとアンズの背後に黒幕がいる可能性もあるから、それを探るように言われてた」
ドヤァ……!
ギリィッ……!
俺の左腕を引っ張りながらご満悦そうなアンズと、それを見て歯軋りしながら俺の右腕を捻りあげるレイア。
君たちそんなに見つめあいたいなら、間に俺を挟む必要なくない?
昨今の百合に挟まる男は迫害受けるからやめてほしい。
「……聖女の背後に何者かがいる可能性はなかったの? 王太子とか……王太子とか!」
「現状、そういった有力者は確認できていません。……もちろん諜報活動に手は抜いていません! 本当です!」
「どうだか」
レイアには悪いけど、アンズが誰かの操り人形って可能性はないと思うんだよなぁ。
アンズが聖女になる前から俺は餌付けされてたし、そもそも俺と仲良くなるメリットないでしょ。
「レイア様は王太子殿下とラブラブなんだもんね~? リュートはあくまで保険で本命は王太子だったんでしょ?」
「いや、それは違うよ」
「えっ」
俺の腕にすり寄っていたアンズの動きが止まった。
アンズの肩を持つと思ったユードリックは、意外にもアンズの思い込みをハッキリ否定した。
「レイア様は昔から──少なくともボクがレイア様と出会ってからは、リュート・タナベ一筋だったよ。王太子にかけられるちょっかいを鬱陶しいと思っていたはず。
……で、ですよね?」
レイアが首をブンブン縦に振る。ついでに俺の腕もどんどんキマっていく。大丈夫だよね? そろそろ腐り落ちたりしないよね?
というかユードリックが俺の名前を呼ぶ時だけ俺のことを親の仇を見るような目で睨んでくるんだけど。
そんな風に見つめられると困っちゃう///
「そ、そうだったの……」
「ユーリの言うことはずいぶんとすぐ信じるんだね」
「レイア様とじゃ信用度が違うので」
ギリィ……
レイアの歯軋りだと思うでしょ?
これね、俺の腕の骨が軋む音。
いやもうホントマジ無理。
よっこいしょ。
はいレイアの場所はここね。
俺の膝上に乗っていいから腕にダメージ蓄積するのマジやめて。
「……………(ドヤァ)」
「!(ギリィ)」
片腕を救出したと思ったらもう片方の腕が限界を迎え始めた件について。
ホント助けてユードリック。キミ仮にも聖女の婚約者候補でしょ? アンズが暴走したら止めるのも君の役目でしょ。
「お前を殺す」
なん……だと……!?
ホームランダービーどころかついにマジもんの殺害予告まで来たんだけど。
まさに前門の狼、左右のプロレスラー。後門には何も来ないことを祈るばかりだ。
ところでさっきから俺をさておいて話がドンドン進んでる気がするんだけど。
俺も質問していいかな、ユードリック。
「ダメだ!」
「ダメだ!」
「ダメだ!」
ダメかぁ……。
「男爵家への援助を邪魔してるのが聖女の差し金って線もないわけね?」
「はい。アンズからリュート・タナベに紹介された商人に黒い噂はなく、南方諸国との交易に積極的な新進気鋭の商会を立ち上げた優秀な人物とのことです」
あの商人さん、そんなにすごい人だったん? まあたしかにウチの領地って王国の端っこ──南方の国境ギリギリのところにあるしな。交易路を拡大させるのに便利だったのかな。
「……そっか。じゃあ全部、私の勘違いだったわけか」
レイアはアンズに向き直り、頭を下げた。
「ごめんなさいアンズさん。貴女を侮辱する言葉を謝罪します」
「そんな、顔を上げてください!?」
ちゃんとごめんなさい出来て偉いね。頭を撫でてあげる。
それを見て慌てふためいているのがアンズ。
公爵令嬢に頭を下げられるとか誰かに見られたら偉い騒ぎになるもんな。
「アタシもレイア様にひどい事を言いすぎました。数々の非礼、本当にすいませんでした」
「いいの。私も頭に血がのぼっていたから言い過ぎたし」
「それを言うならアタシだってそうです……」
「じゃあ、おあいこってことにしよ? 様もいらない。呼び捨てでいいから」
「そ、そう……? それじゃ、改めてよろしくね、レイア」
「よろしくアンズ」
どうやら無事に仲直りできたようだ。
俺に分かったのは、ユードリックがレイアの子分だということ。アンズが紹介してくれた商人がすごい人だったこと。なぜかユードリックがものすごい殺意を俺に抱いているということ。
溢れる殺意の衝動で心臓の鼓動が止まらない///
これが、恋……?
「ちなみにアンズはユーリを選ぶ気はあるの?」
「……良い子なのは知ってるんだけどね」
「じゃあやっぱり、リュートが本命か……」
「ごめん。どうしても諦められなくて……」
君たち本当に仲良いね。
俺を放っておいて小声で内緒話するのやめてくれない? さっきからユードリックの目が死んでるんだけど気付いてる?
「「リュート」」
はいはい。どうしましたかお嬢様たち。
「「私とこの娘、どっちが好きなの!?」」
なんでそうなったん?
好みの画風だったから買った同人エロゲが予想だにしない鬱展開すぎて萎えてしまったので明日の投稿はお休みです。
メンタル、やられちゃったねぇ(ビクンビクンッ)。←瀕死