19.チョコに挟まる
「やっぱり浮気してたんじゃないかーーーっ!」
ご、誤解! 誤解ですレイアさん! もしくはイソメでも大丈夫!
ギリギリと全身の骨と筋肉が軋む音が身体中から鳴り響く。音楽家にでもなった気分だぜ。寿命が縮むなぁ。
助けてアンズ! このままだと死んじゃうから! 体のありとあらゆる部位が曲がっちゃいけない方向に曲がっちゃうから!
「………………」
あ、あの~。アンズさん?
さすがに無視はひどくない? あなたの好きな人がこの世からおさらばサラダバーしかねない時に黙るのやめてもらっていいですか?
これってわたしの懇願ですよね? そうだよ(やけくそ)。
「男爵令息と、ずいぶん仲がよろしいんですねレイア様」
目ん玉腐っとんのかオンドレは。
プロレス技かけられて死にかけてるこの状況から、どう考えたら仲良しだという結論が出るんだ。
明らかに家庭内暴力受けてる最中でしょうが!
「ええ。婚約者との距離が近いのは良いことでしょう?」
距離が近い(物理)。
プロレス技かけ合って仲良しだって言えるのは10歳までですレイアさん。
そもそも女の子がこんなはしたない格好で男とくんずほぐれずするもんじゃないのよ。
ほら、俺の体に当たってる部分がほんの柔らかい感触を──
柔らかい部分、なかったわ。
「しぃぃぃぃぃぃぃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「あんぎゃーーーーー!!」
洒落にならんレベルで首が締まってきた! ちょ、本当に逝っちゃう! 逝っちゃうのぉほぉおぉぉぉ!///(ビクンビクンッ)
「あら、レイア様は王太子殿下に夢中だと思っていました。婚約者がいらっしゃるのに、あんな娼婦みたいに媚を売っていらっしゃったんですね」
「ふふっ、嫌ですね。聖女ともあろう御人がそのように汚らしい表現をするだなんて……あぁそうでした。まともな教育を受ける機会もなかったのでしたね。お可哀想に」
君たち仲良いね?
お互いに見つめあっちゃってあらまあ、後は若い2人に任せてわたしはお邪魔しちゃおうかしら。
だからこの卍固めを今すぐ解いて? ダメ? そろそろポキッてまうぞ。
そ、そうだ! もう1人いるじゃないか!
セドリック! お願い助けてセドリック! 誠実公正なお前なら、この状況がおかしいってことくらい分かるだろ!?
「──フッ。アンズのことは頼んだぞ、リュート・タナベ」
駄目だコイツ! すっかり自分の世界に閉じこもってる!
おいやめろどこかに去っていくな! チーッスみたいな感じで指を振るな! ピッピかお前は!
くそっ! 頼みの綱が断たれた! 裁縫の糸より細い綱だったけど!
いやもう無理、頭に血が上って何も考えられなくなってきた。意識がスーッと消えてなくなってきたし鼻から赤い液体が流れてきたしアビャー。
「うぉ、きたね」
「今日だけで何回鼻血出してんのよアンタ」
あんまりにもあんまりすぎる扱いだと思う。
やってられるかこんな仕事! 労基署に訴えてやる。訴えてやるならな!
「はいはい、鼻にティッシュ入れるからジッとしててねー」
あ、ご丁寧にどうもありがとうございます。
やっぱりアンズさんマジ聖女ですわ。
「またチョコ食べたんでしょ。今日はもうチョコ禁止」
分かりました。
「あと、セドリックとの話はどこから聞いてたの?」
「アンズ、聞いてくれ!」のところから。
「ほぼ全部じゃない」
いや盗み聞きする気はなかったんですよ? ただ通りすがっただけでして。信じて。
「信じるわよ。ところでアタシが聖女だってセドリックから聞いた?」
聞いたけどそれがどうかした?
「アアァーーーー!!」
いきなり発狂しないでもらえます?
頭抱えて叫びながら悶えないで。その胸に蓄えた脂肪がブルンボルンしてるのを見てレイアが泣いてるから。
「あの馬鹿、誰にも言うなって釘を刺しといたのにぃ!」
バレると何かヤバいことでもあるのか?
「アタシが修道院に閉じ込められて──」
それはお気の毒に。
「──アンタは死ぬ」
めちゃくちゃヤバいじゃないですかヤダー!
なんで俺が死ぬの!? 国家機密を知っちゃったから!? とばっちりにも程がある!
「大丈夫だよリュート。私が守ってあげるから」
わぁカッコいいよレイア。頼もしい発言しながら俺の右腕をねじり上げないでくれませんか。
「責任取って、アタシがずっとリュートの隣にいてあげるって手もあるのよ」
そう言いながら左腕の関節を決めにこないでもらえますかアンズさん。
両手に花?
ううん、両腕にプロレスラー。
「婚約者がいる男性に抱きつくなんてはしたないんじゃありませんか?」
「王太子とイチャイチャしてたアンタが言えることじゃないわね。だいたいアンタの悪巧みなんかとっくに気付いてんのよ」
右も左もミシミシいってる。
俺の両腕ミシシッピ。
「悪巧み? 何のことでしょう?」
「しらばっくれるんじゃないわよ。ユーリが全部しゃべってくれたんだから」
ミシシッピ超えてナイアガラ。
俺が3歳の時に他界したじいちゃんが滝登りしてるんだけど何あれ。
「……へ~、そう。ユーリが裏切ったんだ」
「王太子を引っかけといてリュートまでキープしようなんて強欲がすぎるのよ! さすが娼婦の娘ね!」
待ってよじいちゃん、また俺と遊んでよ。
……え? そっちに行くには俺も滝登りしないといけないの?
「はぁ!? ふざけんじゃねえよ! そっちこそ私に王太子けしかけといてリュートを横取りしようとしてただろ!」
「何その被害妄想! 人にスパイ送り込んどいてよく言えたわね!」
ごめんよじいちゃん。俺にはできない。
だって泳ぎたくても両腕が捻りあげられてて動かないんだもん。
あ、あんなところにヤンチャボーイなユードリック。
ヤッホー、助けてー。
「「ユーリ! ちょっと来なさい!」」
「うわあばばばぶぶぶぶぶ」
ユードリック、白目向いて泡吹いてるんだけど。カニかな?
500円ケチって4万円逃しました。
明日、取り返します。
取り返せなかったら、明日の更新はお休みです。




