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10.チョコを並べる

 お昼休み終了の鐘が鳴る。

 午後の授業が始まるこの時間に、俺は堂々とサボリを決め込んでいた。


 いやだって、あれだけ難しい話をしたから頭が痛くなっちゃったもんでさ。

 あ~、疲れた。

 今日は王太子殿下・聖騎士候補三人衆とお偉いさんたちに絡まれたもんだから、いつもの3倍くらい疲れた。

 おかげでジョークの1つも言う余裕がない。

 この後は平穏な日常が帰ってきてほしいもんだ。


 しかし、セドリック顔色真っ青だったけど大丈夫かな? まるでオーシャンブルーと見間違うくらい綺麗な青色だったよ。

 「大丈夫だ、気にするな」とは言ってたけど、その声がもうプルップルに震えてたし。

 まあ、親友だと思ってた人が目の前で堂々と裏切ってたんだから心中穏やかではないよな。


 それにしても、レイアとアンズを巡って貴族社会全体が、なんだかキナ臭いことになってきてるなぁ。

 話が散らかってるし、一度整理してみようか。


 まず、王太子殿下と公爵令嬢のレイアが恋仲であることから、王族と公爵家は親密な関係を築けていると見るべきだろう。

 少なくとも公爵家としては王族に取り入ることで、自身の派閥をより大きく強固なものにしたいと考えているはずだ。


 次に、聖女アンズの婚約者候補である侯爵家・伯爵家・子爵家。

 この三家が一枚岩だとは思わないけど、少なくともセドリックの実家である侯爵家の意図は読みやすい。

 聖女を取り込むことで、派閥の強化を目論んでいるという事。


 セドリックの口ぶりから察するに、聖女が王国内にもたらす影響力はめちゃくちゃ大きい。

 そりゃあ国内を巡って色んな人に奇跡を届けるってんだから、それだけ幅広い身分の層から支持される。

 その伴侶である聖騎士とその実家の求心力も、それは大きくなるはずだ。


 で、なんで公爵家と侯爵家が互いに派閥を大きく強くしようとしているか。

 1歩間違えば、十数年前の派閥対立を招きかねない状況だ。

 両家とも、国内を混乱に陥れる事態は避けたいはず。


 ……いや、むしろそれが狙いだとしたら?


 思い出してほしい。

 レイアの父親――公爵の妻は侯爵家から嫁いでいる。

 公爵令嬢レイアと侯爵子息セドリックは同い歳。

 ということは、現在の宰相でもある侯爵は、公爵ともその奥方とも、それほど歳が離れていないはず。


 恐らく、公爵夫人と侯爵は十中八九、実の姉弟――もしくは兄妹だ。

 ということは義理の兄弟である公爵と侯爵が対立する理由とは何か。


 レイアの出生をめぐるスキャンダルでしょうね。それ以外に思い浮かばない。


 姉か妹が嫁いだ男がどこぞの平民に産ませていた庶子。

 それが王太子妃の座を射止め、大きい顔をしてこれからの王国を牛耳ろうとしている。

 誠実さの欠片もない男の娘がだ。

 そりゃあ気に喰わないだろう。面白くないだろう。

 内心、はらわたが煮えくり返るほどブチ切れてるかもしれない。


 そこに、王族と並ぶくらい強力な切り札になる存在が現れた。

 それが『聖女』だ。

 しかも同い年に自分の息子。それも同じ学院に通っている。


 これ幸いと飛びつくだろうな。

 宰相の立場を利用して婚約者候補の中から公爵側の家を排除することも可能だったかもしれない。


 たぶん、俺が弾かれたのもこれが原因だ。

 公爵令嬢の婚約者だもん。公爵一派だと思われるのが当たり前だろう。


 実際には金銭的援助すら打ち切られる都合の良い捨て駒だったわけですが。

 ぴえん。


 流れから考えるに、伯爵家と子爵家も侯爵派の仲間だろうな。

 ジェームズの伯爵家は裏切ってそうでしたけど。


 まあ、ようするに。



 【悲報】派閥闘争、全然終結してませんでした



 これは大変なことになってきましたね、はい。

 う~ん、面倒くさい。何が面倒かって、これは俺たち子どもがどうこうできる問題ではないってことだ。

 場合によっては王国全体を揺るがす大事件に繋がりかねない。

 二大巨頭の貴族が対立するってのは、そういうことだ。


 まあ、俺は爵位を返還するつもりだし関係ないんだけどね?

 なんの力もお金もない我が家を取り込もうなんて酔狂な奴がいるはずないし。


 でも、レイアとアンズはそう気楽にはいられないだろう。

 何せこの派閥争いの火種になった張本人たちだ。この争いの渦に巻き込まれるどころか中心に据え置かれることは間違いない。


 俺はただ、レイアとアンズが幸せになってくれればそれで良い。


 だけど、政治の争いに巻き込まれた2人が幸せになれる可能性なんて限りなく低いんだよなぁ。

 う~ん、困っちゃう。


「ダメだこりゃ」


 元々バカな俺が頭を捻ったところで何か良い案が出てくるわけでもなく。

 そもそも当事者ですらない傍観者の俺に出来ることは何一つない。


 理想と現実のギャップに打ちのめされた俺は、柄にもなく酷使してオーバーヒートした頭の熱を冷ますべく、芝生にゴロンと寝転がった。


「お召し物が汚れてしまいますよ、リュート様」


 良いんだよ、このくらい。

 洗濯板で一生懸命擦れば落ちるんだから。


 ……リュート『様』?


 この学院で俺に敬称付けるやつなんていたっけ?

 掃除してるおじちゃんにさえ『坊主』と呼ばれる俺を敬う酔狂な人物とは。


「そうですか? それなら私も寝転がってみようかしら」


 いたずらっぽく笑いながら俺の顔を覗き込んできたのは、まさに政争の中心にいるご令嬢。


「レイア……」


 俺の婚約者がいた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 幸せになって貰いたい相手を自分では幸せにしてあげることができず、然りとて幸せになる先も見えないと云うのは遣る瀬ないですなぁ。 そして、その当事者のご登場ですが、ここで何が語られるのか。 果た…
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