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第六話 見取り稽古

新年!

明けましておめでとうございます!!

今年もタンバとタンバの作品をよろしくお願いしますm(__)m



「おい、あれって……」

「嘘だろ……?」

「どうなってんだ……?」


 午後。

 俺は変な注目を浴びていた。

 なぜなら――。


「わざわざ起こしに来なくても……」

「見取り稽古ならいいのよね? なら、できるだけ見る時間を増やさないと」


 そう言ってユキナは当然のように俺の隣に座った。

 記憶が正しければ。

 俺の隣はユキナではない。

 午前のうちに手を回したんだろうな。


「俺としては剣を握っているとき限定だと思ってたんだけど……」

「達人は普段の振る舞いから違うわ」

「だから買いかぶりだって……」


 ため息を吐くしかない。

 ユキナは直感によって俺を達人と信じているし、俺から何か学べると信じている。

 だからユキナは常に俺を見ている。

 ユキナほどの美少女に見つめられ、付きまとわれるのは男として悪い気はしない。

 けれど、魔剣科で一番美人と言われるユキナは注目を浴びる存在だ。しかも学院の実力者、剣魔十傑の第三席。

 俺なんかに構うと、俺まで目立ってしまう。

 そういう注目は居心地が悪い。


「できればなんだけど……見ないでもらえる?」

「なぜ?」

「気になって寝れないから」

「寝るんだから別にいいでしょ?」


 ユキナは不思議そうに小首をかしげた。

 困ったことに言い返せない。

 もうどうにでもなれと思いつつ、俺は机に突っ伏した。

 ジーっというユキナの視線を感じて、俺はユキナと逆のほうに顔を向けるが、視線は感じる。

 まったく。

 なんでこんなことに……。




■■■




「疲れた……」


 午後から出た奴のセリフではないが、いつもと違うと疲れてしまうのは仕方ないだろう。

 歴史の授業では、ユキナはなぜか俺の分までノートを取ってくれていた。

 理由は迷惑をかけているから、らしい。

 ありがたいことだが、クラスメイトたちの「なにあいつ?」という視線が強くなった。

 さらにユキナはいつもあっさり帰るのに、今日はしばらく教室に残っていた。

 俺が起きるのを待っていたのだ。


「はぁ……何か学べた?」

「いいえ、もう少し時間が必要かもしれないわ」


 俺の質問にユキナはそう淡々と答えた。

 どうやらまだまだ付きまとう気らしい。


「俺はこのまま自分の部屋に戻るけど、ついてくるの?」

「ええ、隠れて修行してるかもしれないし」

「しないよ、そんなこと」


 そう言って俺はユキナと共に寮へ向かう。

 少なくとも、周りからはそう見えるだろう。

 ユキナは何も言わず、スタスタと俺の部屋までついてくる。

 まさか部屋に入ってこないだろうと、俺は扉を閉めようとするが。


「まだ私が入ってないわ」

「どうして入ってこようとする!?」


 扉を閉めようとする俺に対して、ユキナは力づくで扉を開けて入ってきた。

 俺は諦めてユキナを部屋に入れるが、不機嫌さを隠そうとはしない。

 けれど、ユキナは気にした様子もなく椅子に座っている。


「で? 俺の部屋で何をするの?」

「監視、かしら?」

「疑問形やめてくれる? 俺は隠れて修行なんてしないし、ダラダラするだけだよ?」

「じゃあ、私も自分の時間を楽しむわ」


 そう言ってユキナは一冊の本を取り出した。

 それは古びた本だった。

 何度か学院内でユキナが読んでいるのを見たことがある。


「いつもそれを読んでるけど……お気に入りなの?」

「あら? ルヴェル君も私のこと見てくれてるのね」

「……」

「剣聖だった祖母が書いたものよ。剣聖としての心構えや、自分の剣術について書いてあるわ。私の愛読書よ」

「なるほど……じゃあそれに、落ちこぼれに付きまとえって書いてある?」

「さすがにそんなこと書いてないわ。けど、常に新しいことに挑戦せよって書いてあるわ。現状に満足するなって」

「へぇ、さすがに良いこと書くね」

「祖母はすごい人よ……私の憧れ。剣聖とはすべての剣士の憧れ。そしてアルビオス王国の守護神。この人が来たら大丈夫だと思われる人物じゃなきゃ駄目なの。だから……私はそんな剣聖を目指す。そのために必要なことは何でもするわ。人はあなたに付きまとうことを笑うでしょうし、あなたも物好きだって思うかもしれないけど……強くなれるなら私は何でも真剣になれるわ」


 そう言ってユキナは青い瞳を俺に向けてきた。

 たしかに真剣な瞳だ。

 冗談なんかで俺に付きまとっているわけじゃないんだろう。

 そりゃあそうか。

 剣魔十傑に名を連ねた時点で、ユキナは学院有数の使い手。落第貴族なんて言われている俺に付きまとうのは気が進まないはずだ。

 なにせ俺には明らかに向上の意思がない。

 それでも強くなるヒントがあるかもしれないと、ユキナは馬鹿みたいに俺に付きまとっている。

 ちょっと変わってるけど、真面目なんだろうな。

 でも。


「立派だけど、俺に付きまとうのは時間の無駄だよ。君の夢のためにも……自主稽古でもしたほうがいい」

「ありがたいけれど……それを決めるのは私自身よ。ちゃんと迷惑なのは自覚してるわ。けど、満足するまで見取り稽古をさせてもらう。そういう約束のはずよ?」

「そこまで本気だとは思わなかった……」


 呆れて俺はベッドで横になった。

 そのまま目を閉じる。

 ユキナのせいで、学院では上手く眠れなかった。

 せめてここで寝ておかないと睡眠をとる時間がなくなる。

 そして、どれくらい時間が流れたか。

 ふと目を開けると、ユキナの姿はなかった。

 その代わり、机の上に紙が置いてあった。


「疲れてるようだから帰ります、か」


 非常識な付きまとい方をする癖に、気を遣う部分はしっかり気を遣うのは育ちの良さ故か。

 寝たときにはかけていなかった毛布もかけられているし、本質的には世話焼きなんだろうな。


「まいったなぁ……」


 良い子だ。そして危うい。

 きっと。

 ユキナは俺が変な要求をしても呑むだろう。強くなるためだと自分を納得させて。

 強くなることが第一で、それ以外は二の次なのだ。

 それだけ剣聖になることに必死だと言うことだが、そういう必死さがユキナの弱点でもある。

 自分を顧みない奴は自分の命も軽く見がちだ。だからユキナは防御に力を割かないんだろう。

 少しだけ、心が揺れる。

 幾度も見てきたから。

 そういう奴が戦場で命を落とすのを。

 だから、ヒントくらい与えてもいいんじゃないか? よい後継者になるんじゃないか? という考えが頭をもたげる。

 けれど。

 自分を軽く見る奴は剣士としては大成しない。少なくとも、俺はそう思っている。

 あれが治るまではちょっと難しいな。


「もったいない子だ」


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