第三十四話 一騎打ち
特に忠誠とかそういうものはないんだろう。
主を刺した相手に怒ったということもなく、竜闘士は悠然と佇んでいた。
そして俺と視線が合う。
そこで初めて竜闘士が動いた。
おもむろに剣を振り上げ、勢いよく振り下ろしてきた。
俺はそれを片手の剣で受け止めようとするが、思ったよりも重い一撃だったため、もう一本の剣も使って、両手で受け止める。
「両手で受け止めるなんて……いつぶりだ?」
たしかに傑作というだけはある。
こいつは強い。俺と一騎打ちができる奴はそういない。
竜闘士は力任せに押し込もうとしてくるが、俺はフッと力を抜いて、その剣を受け流す。
地面にぶつかった竜闘士の剣は、大きく地面をえぐる。
その隙に俺は首を狙うが、竜闘士は巨体に似合わないフットワークの軽さを見せ、俺の一撃を回避した。
攻撃を避けられるというのも久々の感覚だ。
いつもは大抵、一撃ですべて終わる。
そのことに俺は自然と笑顔がこぼれた。
「面白い……それならこれはどうだ?」
左右の剣を大きく広げ、俺は連続攻撃を仕掛けた。
竜闘士は巨大な剣を器用に扱い、俺の連撃を防いでいく。
しかし、徐々に対応が遅くなる。
余裕がなくなり始めたのだ。
その隙を見逃さず、俺は左右の連続攻撃から突然、突きに切り替えた。
予想外の攻撃。
竜闘士は咄嗟に後方へ下がることで、突きを回避した。
俺と物理的距離を空けることで、突きの効果範囲外に逃れたのだ。
だが、そのせいで無防備な体を晒している。
追撃の好機。
そう思って、俺は踏み込む。
その瞬間。
「おっと」
竜闘士は口を大きく開いて、火を吹き出した。
前に出ようとした体を無理やり横に持っていき、クルリと一回転して、俺は火を回避する。
さすがに竜闘士というだけはある。
竜の特徴はちゃんと持っているらしい。
だが。
「同じ手は二度通じないぞ?」
体を横に回転させ、竜巻のように俺は竜闘士へ迫る。
遠心力を利用して、強い一撃を放ち、受け止める竜闘士の剣を弾きにかかる。
受け止めることはできるが、その受け止める剣が一撃ごとに弾かれるため、徐々に竜闘士は後退せざるをえない。
どんどん勢いに乗り、俺は一撃の力を強めていく。
そして耐えきれないと察したのか、竜闘士は攻撃に転じる。
両手で剣を構え、真っすぐ振り下ろした。
シンプルだが、威力は高い。
とにかく俺の攻撃を止めたかったんだろう。
しかし、足りない。
俺はフッと体を浮かし、その攻撃を躱す。
そのまま俺は竜闘士の剣の上に着地した。
「さぁ、どうする?」
敵は正面。武器は使えない。
その状況で竜闘士は再度、炎を吐くことを選んだ。
そのことに俺はつまらなさを感じつつ、吐き出された火を切り裂いた。
「通じないと言ったぞ?」
俺は前に出て竜闘士の首を狙う。
だが、さすがに竜闘士も易々と首はくれない。
俺が攻撃した瞬間、無理やり体勢をずらした。
そのため、首が遠ざかる。
このままだと致命傷は与えられない。
そのため、俺は竜闘士の右腕を切断した。
ボトリと太い腕が地面に落ちて、竜闘士は呻きながらよろけた。
これで次はない。
十全の状態で防げないのだ。片手で俺の攻撃を防げるわけがない。
竜闘士もそれがわかっているのか、俺から距離を取り始める。
戦意を失った相手を殺すのは忍びないが、放置すれば誰かに危害が及ぶ。
ここで始末するしかない。
無感情に俺はゆっくりと間合いを縮める。
そして俺の攻撃圏内に竜闘士が入る瞬間。
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
一騎の騎馬が俺に突撃してきた。
帝国軍の将軍だ。
馬上から剣を振るい、俺の首を狙う。
近づいてきていたのは気づいていた。
放置したのは、竜闘士の相手の方が重要だったから。
そして何をしようと変わらないから。
俺は将軍の剣に自分の剣をぶつける。
それだけで、将軍の剣は真っ二つに折れてしまった。
「剣を斬るとは……これが剣聖か……」
感心しながら将軍は折れた剣をなおも構えた。
引き返してきたのはいい判断だ。
俺が来た以上、首都に向かう途中で確実に仕留められる。
ここで戦力を集中させることが唯一の勝ち筋ではある。
か細い勝ち筋だが。
「諦めろとは言わないが……せめて武器を替えて来い」
「その間にその魔物を殺すはず。それでは困るのだ」
「では、どうする?」
「帝国軍大将バッハシュタイン!! 参る!!」
馬を走らせ、バッハシュタインは突っ込んでくる。
どうして帝国軍の将軍はどいつもこいつも覚悟が決まっているのか。
ため息を吐きつつ、俺はすれ違いざまにバッハシュタインを突き刺す。
いや、正確にはバッハシュタインが馬から降りて、突き刺されに来た。
「これで一本……」
「もう一本はどうする?」
深々と剣を刺されたバッハシュタインは血を吐きながら、俺の腕を掴む。
自分を犠牲にして俺の右手を封じた。
けれど、俺には左手がある。
だが、その好機を逃さず、竜闘士が動いた。
片手で剣を振り下ろしてきたのだ。
それを俺は左手の剣で受け止める。
これで両手が塞がった。
そして。
「……撃てぇぇぇぇぇ!!!!」
バッハシュタインの叫びと同時に帝国軍による一斉射撃。
そして俺に向けた砲撃が始まったのだった。




