第三十話 遠距離攻撃
「敵を近づけさせては駄目よ!!」
ユキナは指示を出しながら、帝国軍の攻勢を跳ね返していた。
しかし、厄介なのはさらに現れた三体のタランタシオ。
これで四体のタランタシオが砲撃してくる状況になった。
学院の防御魔法は無敵ではない。
砲撃を受け続ければ防御魔法は消失する。
このまま、砲撃を続ければ学院は砲撃によって蹂躙されるということだ。
どうにかしたいところだが、帝国軍が城壁に迫ってくるため、学院から離れることもできない。
ユキナは幾度も正門に迫る帝国軍を撤退させていたが、同時に正門に足止めされてもいた。
攻め込まれているのは正門だけではない。
あちこちから帝国軍が攻め込んできており、教師陣と生徒たちがあちこちで奮戦していた。
しかし、守るだけで精一杯。
これ以上、砲撃を好きなようにさせたら防御魔法が消えてしまう。
焦るユキナだったが。
突然、敵の砲撃が空中で爆発した。
防御魔法に当たったわけではない。
学院内からの魔法が砲撃を迎撃したのだ。
「いやはや、やってみるもんだね! できちゃった!」
迎撃したのは物見塔に登ったアネットだった。
自分の戦果に喜ぶアネットだったが、次の砲撃が来る。
それに対して、アネットは火球を放った。
ピンポイントで当てる精密さはアネットにはない。
空中に巨大な火球を放ち、その効果範囲の広さで砲撃を迎撃する。
「好き勝手撃てるのもここまでだよ!」
「アネットさん!!」
物見塔で胸を張るアネットに対して、ユキナは呼びかける。
自分の名を呼ばれたアネットは、不思議そうに下へ視線を向ける。
そこでユキナの姿を見つけたアネットは、笑顔で手を振った。
「やぁやぁ、ユキナさんじゃないか。ロイ君のことをしつこく聞いてきて以来かな? やっほー」
「そこから敵の魔物狙える!?」
「えー……あそこはちょっとしんどいかも……」
ユキナに言われて、アネットは魔物との距離を確認して顔を引きつらせる。
だが。
「無理でもやって!」
「他人事だと思ってー」
文句を言いつつ、アネットは魔物に向かって右手を向ける。
反撃の一手があると思わせれば、敵も下がらざるをえない。
そのことをアネットも理解していた。
ゆえに文句を言いつつ、アネットは魔物に狙いを定めた。
距離は相当ある。
砲撃も曲射だ。
届かせるだけで一苦労。さらには脅威と認識させる威力も必要だ。
それでも。
威力を抑えるよりは、アネットにとっては簡単なことだった。
「そっちばかりが遠距離攻撃を持っていると思わないでよ!!」
アネットはこれまでの努力とは反対のことをした。
自分の全力で魔法を放つという行為だ。
そんなこと、学院は許可できない。
アネットが本気で魔法を撃てば、たとえ遠くに撃っても被害が甚大だからだ。
しかし、今は戦時。
教師たちも止めはしない。
大きな的に向かってアネットは渾身の一撃を放った。
「当たれっ! 【火球】!!」
これまでとは比較にならないほど巨大な火球が出現し、魔物に向かって飛んでいく。
それは距離による減衰をものともせず、魔物の一体に見事命中した。
魔物は悲鳴をあげて、バランスを崩す。
それを見て、帝国軍は魔物を後退させた。
貴重な移動方法を失うわけにはいかないからだ。
それを見て、アネットは息を切らしながら告げた。
「炎の大家……! ソニエール伯爵家の名をしっかり覚えて帰ってほしいな……!!」
「くそっ! 重装魔導鎧部隊!! 突撃しろ! あの魔導師を狙え!!」
砲撃でもって学院の防御魔法を破壊するという方針を変更せざるをえなくなった帝国軍は、虎の子の部隊を投入した。
本来なら首都攻略用に取っておきたかった精鋭。
最新鋭の魔導鎧で身を固めた部隊だ。
命令を受けた部隊は、一気に正門まで突進する。
迎撃の魔法をものともせず、正門近くまで近づくと、高く跳躍して城壁を飛び越えた。
「侵入されたわ! アネットさんを守るわよ!!」
侵入したのは四人。
そのうちの一人にユキナは斬りかかる。
しかし、魔導鎧に身を包むのは帝国軍の精鋭。
ユキナの剣を自らの剣で受け止めた。
それだけで、ユキナは相手がそれなりの剣士であることを察した。
元々、それなりの腕の者が魔導鎧を着て、強化されている。
それが四人も侵入してきた。
ユキナはなんとか動きを封じようと、全員に攻撃を仕掛けるが、食い止められたのは二人だけだった。
残る二人は物見塔のアネットのほうへ向かう。
「食い止めて!!」
ユキナの指示を受け、魔剣科の生徒たちが斬りかかるが、走る魔導鎧兵を止めることができず、弾き飛ばされる。
だが、二人のうち、一人は足を止めてしまった。
魔剣科の生徒に止められたのではない。
「縛れ!! 【木糸】」
地面から生えてきた木によって、足を縛られ、バランスを崩したのだ。
魔導鎧は人の力では本来支えられない。
とにかくバランスが悪いのだ。
高速で移動している最中に、バランスを崩されると、すぐには体勢を立て直せない。
それをしっかりと見抜いたレナの魔法だった。
しかし、それで抑えられたのは一人だけ。
残る一人が物見塔に迫る。
アネットはそれを迎撃したかったが、周りを巻き込まない自信がなく、魔法を放てなかった。
そして。
「覚悟!!」
最後の一人が跳躍しようとする。
ユキナはさせまいとするが、相手をしている二人に阻まれる。
万事休す。
そう思われた瞬間。
「放て」
跳躍しようとしている最後の一人に無数の魔導銃が放たれた。
「ほう? さすが最新鋭の魔導鎧。丈夫じゃな。放て」
感心しながらも第二射が発射され、無防備でそれを受けることになった最後の一人は倒れこむ。
「お父様!?」
「すまんな、レナ。遅くなった」
現れたのはライナス・ルヴェルとその旗下の者たちだった。
そして。
「ワシが来たからには安心せよ」
そう言ってライナスは笑うのだった。




