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やってしまった?


 説教が終わり、兄が私を見てきた。


「よし、次!」



「……え? 私勝ちましたよ? 帰っていいんですよね?」


 話と違う! 兄に抗議しようとした。




「本気でやって勝ったら。と言った。今のは本気ではなかった。そうじゃないと相手の出方をのんびり観察している暇などなかろう。本気でやればすぐにケリがつくところを何分もかけおって……その間に守らねばならぬ存在が傷をついたらどうする? 囚われたら?」



 ……その通りだな。


「私が甘かったです」


 ふっ。と笑う兄を見て嫌な予感がしたんだ。



「次の相手は誰だ?」


 兄が言うとすぐに名乗り上げてきた。



「俺が!」



 これまた大きい相手だな……疲れそうだ。早く勝敗をつけないとな。



「ハンデをやろう。木刀以外も使っていいぞ」



 へー。それなら……と思い相手を見ると、ニヤニヤと私を見ていた。



「はじめっ!」



 大男は早速突っかかってきた。体の割にスピードはあるようだ。そのスピードを利用させてもらおう。



 猛進してきた男が木刀を振る。それより少し早く男の後ろに回り首を手刀で叩いた。そして足を払い、転んだところ男の顔の横に木刀を刺す。


「……負け、ました」


 驚きぐったりする大男。これで帰れる。本気で戦い勝ったし、時間もかかっていない。大きな男と戦うのには慣れているから、こんなものだろう?



「ほう。やるじゃないか! ハンデはお前に与えたわけではないのにな」


 ニヤリと笑う兄。



「それでは私はこれで、」


「次は俺とお願いします」

「あ、俺もお願いします!」




 ……聞こえない。何も聞こえないぞっ!



「ほぅ。皆のやる気を出させるとは中々やるなぁ。よし、体力面を考慮してあと三人だけで許してやるぞ! おいっ、あと三人だけ相手にしてやる。先着順だ!」



 ……嘘だろっ!



 そして訓練に付き合わされ身も心もボロボロになった。






「あんた優男に見えて強いんだな……」


 最初に戦った男に声をかけられた。


「……そんな優男に負けたんですよ?」


 疲れているんだ、帰らせてくれよ……



「はははっ。そうだった。あんた一体何者なんだ? 補佐官との関係は?」



 すっと後ろに来て兄が答える。



「私の実弟だ」



「え! だからこんなに強いのですかっ!」


「違う。私が強いのは私が努力したからだ! ジェイはジェイの戦い方を努力して身につけているだけだ。私の弟だから強いと言うのはジェイに失礼だ」



 兄上……



「……度重なる失礼をしました」



 男は素直に頭を下げてきた。言われ慣れているんだ、気にしなくて良いのにな。



「頭を上げて下さい。気にしていません」




 私達兄弟はお互いに努力をしてきた。



 そして言われた。



 “さすが侯爵家の人間だ”と。



 私たちの努力は侯爵家と言うだけで出来て当然、やって当然なのだ。何をしても一通りできるのは侯爵家の息子だから。個人などは関係なかった。


 でも私達はお互いに知っている。努力をして今があると言うことに。侯爵家の人間として恥ずかしくないように。



 私は留学をしていたから、比べる対象がなかった為、比較的伸び伸びとしていたが、パーシー兄は長兄とずっと比べ続けられていたのだ。


 それで今の兄上がいる。長兄の事は尊敬しているが、パーシー兄も尊敬している。この兄達がいるから今の私がいるのだから。



「兄上ありがとうございます」



 兄に頭を上げる。



「今日は疲れているのに悪かったな。お前が全然顔を見せないから、少し意地悪をしたくなったんだ。たまにはルビナさんと顔を見せてくれ」



「はい。義姉上にもよろしくお伝えください。これからもルビナと共によろしくお願い致します」



「あぁ、伝えておく。次は結婚式だな」



「はい」




 ようやく帰れるぞ! 団員に案内されてシャワーを浴び着替えて帰ろうと廊下を歩いていた。









「ジェイ」



 ……兄上。またなんでこんな所に。



「兄上、どうかしましたか? パーシー兄に用事でも?」



 長兄に声をかけられた。



「お前に話がある」



「私疲れていまして……」



「私の執務室で休むといい、ついて来い」



「……ハイ」



 断れなかった。




 騎士団の練習場から兄の執務室までは遠いんだ……疲れているが兄の名前に傷付かぬよう背筋を伸ばし早足で進む。誰に見られているか分からない、ようやく執務室へと辿り着く。




「座ってくれ」


「ハイ、それでは失礼して」



 ソファに座るとすぐにお茶が出された。



「何かあったら相談しろ。と言っただろう」



 兄が口にした。



「お忙しいのに私の事業の事で手を煩わすわけにはいけませんから」


 

「面倒だったろう?」



「自分でやれる事はやらないと一人前として認められませんからね」


「事務仕事くらい人に任せればよかったんじゃないのか? それも仕事だろう」



 信頼できる相手に任せろ。と言っているのだろう。



「レオナルドの事も絡んできますから私が話をした方が早いと思いました」



 ふっ。と兄が笑った。


「そうだな。事務官と会った時にお前を褒めていた」



 いつものアレだ。



「さすが兄上の弟だと言われましたか? それなら嬉しい限りですからね」



「私とお前は違う。私は自慢の弟だと思っている。私と違って頭が柔らかい。考え方が柔軟だ」 


 兄にこんな事を言われると、居心地が悪いな……



「気楽な三男ですからね」



「周りが面白おかしく言っただけだろう」


「それでもネタになりますから」


 笑いながら答えた。



「お前が良いなら、私が口を挟む問題ではないな。しかし困ったことがあったら必ず相談してくれ」



「えぇ、その時はよろしくお願いします」



「……もうすぐ結婚式だな、一度兄弟だけで酒でも飲むか?」



 改めて、こそばゆいな。兄もなんとなく照れているような気がする。



「良いですね。三人で酒を飲んだ事はありませんでしたねぇ。良かったら屋敷に来ませんか?」



 せっかくの誘いだ。と思い明るく答えた。



「結婚前の夫婦の家にか? ルビナさんは嫌がらないか?」



「ルビナが? それはあり得ませんよ。屋敷の者も皆驚くでしょうし是非おいでください」



「分かった。パーシーを誘っておく」




 漸く解放された。早く帰らないと、今日は満月だ! 花が咲く予定なんだ。ルビナが待っている!



 そして花を見て、安心して眠ってしまったんだ……心身共に疲れていた。



 でも、良い一日だった。






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