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やってしまった


 本当に疲れていた……



 王宮の事務官は細かい。この仕事さえ終えれば楽になるはずなんだ。来月はやっと結婚式なんだ。


『デュランド伯爵とレオナルド殿下が親しい間柄である事がよく分かりました』


『留学時代から親しくさせていただいております。その後も友人として交流を深めています』



 という話からだったな……来賓としての出席、王宮で滞在する事、護衛の配置など……



 レオナルドは意外にも? 外交官として才能があるようだ……そして何故が我が国での人気が高い。故に私を友人だと言いふらして? くれるので今回の件も思ったより早く解決した。


 レオナルドはいつまで殿下と呼ばれるのだろうか? 望んでないだろうに。



 それにしても王宮は堅苦しいな……兄達は毎日こんな窮屈な所で戦っているのか。頭が下がる思いだ。氷の侯爵とかいう二つ名。家族からしたら信じられないだろうが、二面性がないと戦えないのだろう。と理解する。


 次兄は次兄で、鬼だとか悪魔だとか言われているようだし……騎士団に所属するのも大変だ……騎士団を纏める副団長補佐。


 来年はきっと……






「ジェイ!」



 後ろから規則正しく歩く音が聞こえる。


「兄上、こんな所で会うなんて奇遇ですね」



 噂をしていたら次兄であるパーシーだった。私の連れてきた侍従達は頭を下げていた。



「それはこっちの台詞だ。王宮にいるなんて珍しいじゃないか、何をしているんだ?」



「商品の取引についてですよ。事務官に書類を提出しに参りました。兄上は何をされているのですか?」



 ざっと後ろに五人ほど部下を引き連れていた。強面な集団だな……



「今から訓練を付けに行く所だ。帰る所だったのだろうが、お前も付き合え」



 騎士団の訓練に付き合えと? いや。帰りたい。



「大変嬉しい申し出なのですが、ルビナが家で待っているので、私は失礼します」



 冗談じゃない、精神的に疲れているのに体力も奪う気なのですか、兄上! という目を向けた。



「せっかくの機会なんだぞ。体が鈍るとルビナさんを守れないんじゃないか? 紳士たるもの──」



 長くなりそうだ……“行く”と言わない限り続くのだろう。周りの騎士団の人たちにも申し訳ない。


「……着替えもないですし」


 流石に登城してきたこの衣装で訓練は無理だ。汗臭いまま帰りたくない。



「ふむ。それもそうだな」


「はい、こんな衣装で騎士団の方と手合わせなど、」



「着替えの準備を」


 兄が部下に指示した。



「はっ。どうぞこちらに」


 すっと出てきて案内しようとしていた。


「えっ?」



「着替えれば良いだろうが。帰りは風呂も用意してやる」



 鬼だ……帰してくれよ。せっかく早く帰れそうだったのに……




 ******



「お、来たか」



 シンプルなシャツと黒のスラックスを用意された。サイズもピッタリだ。


 もう稽古は始まっているようで、兄はそれを見て指導していた。



「脇が甘いっ! ちゃんと相手を見ろっ。足が止まっているぞ! なんだ、もう終わりか、実戦だと思え!」



 木刀が飛ばされて私の目の前に飛んできた。それを拾った。すると……



「なんだ? やる気になったのか?」


 と兄。


「いえ! 拾っただけですよ」


 木刀を飛ばした相手は、次の対戦相手待ちだったようで……



「ジェイが相手をする。ほらいけ!」


 そう言って背中を押され、相手の前に出されてしまった。



「なんですか、この優男は……」



 呆れたような若い団員。そりゃそうだよな。急に知らない男が相手だなんて。



「優男かどうかは対戦してから決めたらどうだ? 敵がいかつい男とは限らないぞ」



 兄が冷えた声で言う。団員達の前ではこんな感じなんだな。家では長兄と共に家族思いの優しい兄だったから驚いた。



「ほら、お前も突っ立ってないで相手をしろ。そうだな……本気で戦って勝ったなら、帰っていいぞ」



 勝ったら帰っていいのか! それなら……



 相手が木刀を構えてきたので、会釈をし同じように構えた。


「膝を突く、木刀が手から離れる、負けた。と言えば勝負がついたとする。いいな」



「「はい」」



 返事をすると相手の男が先制攻撃を仕掛けてきた。それを軽く受け流す。動きは早いが剣が軽いな。


 ふーん。剣筋は悪くないがリズムが一定だ。次の手が読めてきた。


 そう思い隙があった手首に木刀を叩き込む。すると木刀が地面に落ち、左手首を押さえて痛みを堪える姿が目に映る。



「勝負あり、勝者はジェイ」



 よし、これで帰れる。落ちた木刀を相手に返そうとし、拾った。


「あんた何者なんだ!」



「見ての通り何者でもありませんよ? 単なる優男です」



 自分で言うのもなんだが、そう見えるのだろう?



「ふざけるなっ!」


 若い団員が叫ぶ。



「ふざけているのはお前だろう。鍛錬が足りん! 相手の見た目を見て優男と判断し勝負に負けるだなんてな! 第五隊長とは名だけなのかっ!」



 兄が男にキツめの口調で言った。


「……申し訳ありません」



「この優男が手加減したからそれくらいですんでいるんだぞ、真剣だと手首を斬られていた。見た目だけで判断するならお前は隊長として失格だ!」



「……以後そのようなことのないように気をつけます」



「この優男が──」




 兄よ。もう帰らせて下さい。優男と何度言えば気が済むのですか? その説教に私も付き合うのですか?







 

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