お泊まり2
「すごい」
「うん。これは思った以上だよ」
待ちに待った花が咲きそうになっている。ぱんぱんに膨らんできた蕾が、まるで目覚めたように……
さっき首筋に落ちて来たと思った水はこの花のエキス? だったみたいです。
「甘い香りがしますね」
「うん。上品な香りだ」
白い大輪の花が咲きました。
「綺麗……」
「うん。幻想的だ」
思わず言葉を失うようなそんな気持ちになりました。
植物園の方達も近くに寄り観察をしていますし、使用人達も順番順番に花を見に来ました。
観察する人、スケッチをする人と様々です。周りはこの花の香りに包まれてリラックスしています。
私はジェイ様に肩を抱かれたままで寄り添っています。
「もうすぐ枯れてしまうなんて信じられません……」
「たった数時間の為に何年も何年も花を咲かす為に栄養を蓄えて頑張っているんだよな。この花は生きているという事だね」
「あっ、」
花びらが……
一枚、二枚……とひらひらと落ちて来た。
ジェイ様の指示により植物園の人達がざるに拾い集めた。
「この花びらは食す事が出来るそうだ。どんな味がするんだろうね」
なんで食べようとした人がいるんでしょうか……珍しい花だから食べずにいられなかったとか?
何でもトライして今世に残してくれたという事は有り難いですが、毒があったらどうしたのでしょう……
花びらを一枚手に取って、口に入れてみました。
「ルビナ!!」
ぽかんとした顔や驚いた顔で私を見ていました。
「うん。口の中で優雅な香りがしますね、美味しいと言われれば、ほんのり苦いですね。ジェイ様もどうぞ」
ジェイ様の口の前に花びらを持っていく。
「あーん。してください」
するとジェイ様は躊躇わずに口に花を入れた。ついでに私の指も……
「ジェイさま、」
そっと指を離してくれた。味わうように花びらを堪能するジェイ様。
「口の中に広がる甘い香りだ。確かにほんのりと苦い。毒はなさそうだが……ルビナ、確かめる前に口にしてはいけないよ。驚いて止める事ができなかったじゃないか……」
残り数枚の花びらは植物園の方に渡したようです。
「次はいつ見られるか分かりませんから、つい……」
「わからなくも無い。このまま特殊な液体につけて残しておこうとも考えたんだが、儚い花なのに残しておく。というこちらの勝手な意向のような気がしてやめた」
残しておく事もできたのですね。でも……
「はい、私もそう思います。次にまた見られる日までのお楽しみですね」
「そういう事。貴重な体験をさせてもらった」
すると元気だった枝も萎れていきました。
「次に咲く事があればまた一緒に見ましょうね」
次の約束が出来るというのは嬉しいものですね。その後部屋に戻ろうとジェイ様に部屋の前まで送ってもらいました。
「おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
と言って別れるつもりだったのですが、気がつくとジェイ様の上着の裾を掴んでいて……
「ルビナ?」
「あっ、あれ?」
パッと手を離しました。
「「…………」」
沈黙が重い。と言っても嫌な沈黙ではない。
「誘われている? とか?」
「へ? あ、え?」
変な回答でしたが、もしかしてそうなのかもしれません。
「あ、えっと、その」
「冗談だよ」
ジェイ様はいうけれど、そうだけど、そうではなくて。
「少し冷えたので……一緒に居てくださいっ、あ、添い寝? そう。添い寝して下さい」
驚くジェイ様。
「……ただ、もう少し一緒にいたくて、ダメ? ですか」
「い、いや、ダメじゃ無い。ダメじゃ無いよ……寝るだけだ。添い寝……うん、」
チラッとメイド達と目が合うと、ささっと姿を消した……花を見ていた時の余韻に浸りたいというか……
「私の部屋に来るか? この部屋のベッドより広いから……」
「……はい」
そのまま無言で手を繋いでジェイ様の部屋へ。ジェイ様の私室に入るのは初めてでした。緊張します……
その、新婚になるので家具を揃えていてほぼ、二人の部屋は出来上がっているけれどその部屋は結婚してから使うから……
ジェイ様の部屋は、シンプルで品のある家具がジェイ様そのものといった感じで、私が今使わせてもらっている客室のベッドより広く感じました。
手を繋いでベッドに行き二人で並んで腰掛けました。
「……寝ようか」
「はい」
ただ並んで眠るつもりだったのですが、やはり腕枕で……
「ジェイ様……腕辛く無いですか?」
「うん、ルビナは軽いから」
「顎は、大丈夫ですか?」
「あぁ、さっきの? 忘れていた。大丈夫だよ」
「…………」
無言になってしまいました。だってジェイ様の寝具はジェイ様の香りがしてどきどきするんですもの。
しばらく無言のままでしたが、すーすーと寝息を立てる音が聞こえて来ました。ジェイ様お疲れだったから……
ジェイ様の息にあわせて呼吸していると私もいつの間にか眠りに落ちていました。
ジェイ様ゆっくりとお休み下さいね。




