ランチ
カイール殿との商談が終わり、雑談をしていた。すると時間通りにルビナが店に来た。と連絡を受けた。
ちょうど良い。カイール殿に会わせよう。
『カイール殿、お帰りになる前に私の婚約者に会いませんか? 今着いたようです』
『是非、あの時のお礼を言わせてください』
コンコンコンとノックの音が聞こえたので、すぐさま立ち上がりルビナを迎えた。
「ジェイ様」
今日のルビナは紺色のワンピースを着ていた。まだ暑い時期なので長い髪を編み込んでいて清楚で爽やかだった。
「やぁ、ルビナ会いたかったよ。よく来てくれたね。ランチに行く前に紹介したい方がいるんだ、ちょっと来てくれる?」
「えぇ、勿論です」
部屋の中に入るとカイールがにこりと笑った。
「ルビナ覚えているかな? 旅行先で部屋を譲った事があっただろう?」
「はい。ホテルでの事ですね」
「そう、彼はカイール・アスラン殿。ムパス国の伯爵家の方だよ」
『カイール・アスランと申します』
ルビナに挨拶をするカイール殿。ルビナにもきちんと伝わっていた。
「ムパス国の方でしたのね。わたくしはルビナ・ローゼンと申します」
淑女の礼をするルビナ。カイール殿にも伝わったようだ。ホテルでの出来事に感謝をしているとルビナに伝え、今後取引先となる旨を伝えた。カイール殿はルビナにまた妻を連れてくるからその時は食事をしよう。と言って帰って行った。
「どこで縁があるか分からないものだね。この契約はルビナのおかげだよ、ありがとう」
ルビナがあそこで部屋を譲る。と言わなければ今はないのだから。
「偶然のことですよ。それに旅行を計画してくださったのはジェイ様ですし、お部屋の手配もジェイ様ですよ。私は何もしていません」
「そういうところがルビナの良いところで、愛らしいんだよ。ルビナは私にとって幸運の女神様だよ」
額に音を立てキスを落とした。ルビナが額を押さえ、私を上目遣いで見て来た。
「うっ、これは、いかん」
ルビナの顔が赤いのでつい私も顔が赤くなってしまった……あの時のこと(旅先で一緒に寝た事)を思い出した、しかしここは仕事場で……
コンコンコン……
「ジェイ様、そろそろ行きませんと予約の時間に間に合いませんよ」
侍従が扉をノックする。最近では部屋に二人でいても注意されないし、人払いをするとスッといなくなるもんだから、うっかりしてしまった。
「……今行くよ」
目を瞑り心を落ち着かせる。ルビナの顔も落ち着いて来たようだ。
「行こうか? 近くのレストランを予約したんだ」
「はい」
手を繋ぎ歩き出した。店の裏から出ると日差しが眩しい。
「良い天気、ですね」
「そうだね」
気候の話題とは何気ない会話の中でも一番役立つものだと思った。今日はルビナの好きそうな新鮮な季節の野菜がたっぷり使われているランチのコースを予約した。
「ここのレストランは、植物園の野菜を使っているんだよ。ハーブを使った料理もオススメだよ」
部屋に飾ってある花も納入させてもらっている。取引先も増えたようで、植物園のスタッフも忙しいと喜んでいた。
ゆっくり味わっているとガラスの器が出された。
「このソルベ、すごく爽やかです。お口の中がさっぱりします」
「ミントとオレンジを使っているのか、さっぱりして美味いね」
ルビナが朝食を夫人と食べた。と言う話になった。夫人からの伝言?
【信頼しています】
それ以上は手を出すな? って事かな。バレたか……
「何かあったらジェイ様に責任をとってもらえばいいって言われましたが何のことですかね? 危険なことはしませんよね? 夜のボートは少し怖かったですけど」
何かあったらねぇ……“その時はきちんと誠意を持って責任を取る所存です”といえば良いのか? 信頼しています……重い言葉だな。
「それ他所で言っちゃいけないよ。責任を取るということは、ルビナの事をお嫁さんに貰うという事だから、その点は安心して欲しい」
「あっ!」
ようやく気がついたかい? ルビナももう何も知らぬ子供ではないんだな。
……ってどこで教えられたんだ! この話題はもうやめよう。変な空気になると困る。楽しく食事をしたい。
「あー、あれだ、家具は決まったかい?」
無難な話題……
「は、はい。決まりました。今朝お母様に自分が使うものだから好きなものを選べば良いと言われて、直感で選びました」
悩んでいたもんなぁ。ルビナは物を大事にするタイプだから一つ一つ丁寧に選ぶ。
「珍しいね、直感だなんて」
「はい。どちらにしても好きなタイプの物でしたから。ジェイ様が事前に見てくださっていたから無事に選べました。元々たくさんのデザインがあったのでしょう?」
「口の軽いものがいるのかな?」
家具はルビナに選んでもらうつもりだったがデザイン画が多すぎた為、少し選ばせてもらった。
「そうではありませんよ。デザイン画をたくさん持っていたのを見て、ジェイ様ならきっと私の負担を軽くするためにそうするだろう。と思いました」
「……ルビナの事を信用してないわけではなくて、」
「はい。デザイン画が沢山ありましたから抜粋してくださったんでしょう? だってどれも好きなタイプの物ばかりでしたもの。おかげでスムーズに選ぶ事が出来ました。私だけだったら間に合わなかったと思います」
着々と結婚準備が整って来た。




