朝を迎える
ルビナの寝息が聞こえる。この状況で眠りに落ちるとは……
手を出さない。とは言ったがこんなに近くにいられると気持ちが揺らいでしまう……
安心されても困るんだが……
ルビナが腕の中で寝ていると言うだけで幸せなんだが……仕事のことでも考えていないとどうにかなりそうだ。
いや、ルビナとこうして同じベッドにいるだけでも十分なんだ。
悶々と夜を過ごした。徹夜をするのはよくあることだから、寝たフリをした。
長い夜だった。
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「んっ……」
ゴロンとルビナがこっちを向いた。まだ寝ぼけているのだろう。そのまま優しく頭を撫でた。
するとむにゃむにゃ言いながら“ジェイ様”と言う。なんだ、この可愛い生き物は!
破壊力が……天井を見上げた。
ここで星空でも見られれば気持ちが落ち着くだろうが、どう見てもホテルのベッドの天井で腕の中にルビナがいる。これは現実で……
まずいな……とポツリ言う。
「んっ……」
ヤバい、起こしたか?
サラサラのルビナの髪を弄ぶように触っていた。なんとか目を瞑って少しでも気を逸らそう。
しばらく目を瞑っていた。一時間程だろうか?
「ひゃぁ」
ルビナの驚いた声が聞こえた。どうやら今の状況に驚きを隠せないようだった。
ゆっくり目を開けてルビナの顔を見る。朝だと言うのに目は大きく見開かれていた。
「おはよう、ルビナ」
「じ、ジェイさまっ、」
「どうした? ルビナが一緒に寝ようと言ったんだよ?」
「そうですけど……」
真っ赤な顔で恥ずかしそうに顔を隠した。
「ゆっくり眠れたようだね、顔を洗って朝食にしようか?」
「はい」
ささっと逃げるようにベッドから降りるルビナ。ふむ。ちゃんと男性として見られているようだな……となんとなく安心したジェイだった。
辛かった……寝言で名前を呼ばれた時は特に……ルビナは私がこんな気持ちで夜を明かしたとは知らないだろうね。
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ルビナの行動が若干おかしいが、それも可愛いと思った。一緒に寝ようとルビナに誘われるとは夢にも思わなかった。旅マジックというやつかもしれない。
ゲレンデでスキーをしている姿がカッコよかったのに地上に降りると、あれ? のような……って王都に戻ってがっかりなんて事にはさせないからな!
旅行は帰るまでが旅行だ。
朝食を摂り、朝の散策へと行った。寝不足気味ではあるけれど、朝の空気は気持ちが良い。
「ジェイ様、朝の散策は気持ちがいいですね」
私の前を歩くルビナの歩調はとても軽やかだ。
「そうだね。静かで朝露も何もかもが気持ちが良い」
ルビナは来月から卒業の課題やテストで忙しくなるからしばらくはこうやってのんびり過ごす時間は取れない。学生最後の旅になるだろうな。
散策をしてからまだ人の少ない時間帯だったからボートを借りた。夜に浮かぶ満月は幻想的で美しかったが、朝の湖も光が反射して眩しいくらいに美しい。
ルビナはどっちが好みだろうな?
ボートにも乗ったし、ホテルをチェックアウトし、馬車に乗る。
途中の街で休憩がてらランチを摂り、また馬車に乗るとルビナが小さく欠伸をした。
「眠たいのなら肩を貸すから目を瞑っていいよ」
隣同士に座っていたので、ルビナの肩を抱いた。
「昨日はあまり眠れなくて……」
ん? すやすやと寝息を立てていたような気がする。
「そうなのか?」
「緊張して……ジェイ様がすぐ近くにいたから」
「私もあまり眠れなかった。ルビナが夜中の腕の中にいると思ったら、緊張もしたけど嬉しかったよ」
「私も、一緒の気持ちです」
これはいかん……空気が甘くなってしまったではないか!
「少し目を瞑ろうか? 私もそうするから」
お互い目を瞑っていればこの甘い空気も薄まるであろう。
「はい」
ルビナの肩を抱いたまま、ルビナの頭を私の胸に抱き寄せた。体ごと預けられる形だ。
「ジェイ様の心臓の音が心地よいです」
どくどくと音を立てていた。しばらくするとルビナはすーすーと寝息を立てていた。王都まであと三時間ほど。私も少し目を瞑ろう。
こんこんと扉をノックされる。返事をして扉を開けるとすでに王都に入ってきた。目を瞑るつもりだったのに私も寝ていたのか……
ルビナを屋敷に送って帰る事にした。明日からまた仕事を頑張ろう。色々と忙しくなりそうだ。
夕方にルビナを送っていき、現在は店にいる。レディース部門を新設してから少し店が手狭になってきたな。ルビナに似合いそうだとレディース部門を広げすぎたのかもしれない……




