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ルビナの才能を垣間見る2


「ジェイ様、お待たせしました」


 声をかけられハッとする。どうやらスケッチは終わったようだ。



「もう終わったの?」


「はい。大体の雰囲気は掴めました」


「見せてくれる?」



 そういうと恥ずかしそうにしながらもスケッチブックを渡してきた。絵を見ると何となく色まで想像出来そうな、柔らかいタッチで描かれていた。



「とても上手に描かれているね。他も見て良いかな?」


 了承を得て他のページを捲る。これはマルクに刺繍していたデザイン。バラ園まで。いつ描いていたのだろう。


 パラパラとページを捲る。



「ルビナには絵の才能があるんだね。もちろんこのままでも良いけれど、色をつけると作品になりそうだ」



「ただ描くのが好きなだけです。私は不器用なので一度こうして絵にしないと次の想像がつかないというか……」



 謙遜するルビナだが、自信を持っても良いレベルだ。



「目に留めたものを覚えていて家で描いていたのか……」



 まだまだ知らないことがあるんだな。不器用だと言ったが、人はそれを丁寧と思うだろう。


「人にお見せするほどのものではありませんもの、今回は旅行先だったからです」



 そんなことはない。きっと色をつけたらルビナの持つふんわりとした優しい絵が出来上がる。



「色はつけないの?」


「絵を習った訳ではありませんので、塗り方がよく分からないのです」



 勿体無い! そうだ。



「……習ってみると良いんじゃない?」



「え? 今からですか?」



 ルビナは学生で、最終学年は提出物も多く忙しいという。


 学園を良い成績で卒業するという事は、ルビナ自身に子爵家に婚家先である侯爵家にもこれからの人生においてのステータスとなるから、頑張っているのだろう。



「今は忙しいだろうから、学園を卒業したら習うと良いよ。先生を探しておこうか? スケッチをしている時のルビナはとても良い顔をしていた」



 趣味が増えるのは良い事だ。それを通じて知り合いが出来ると楽しいだろう……付き合いは、ほどほどにして欲しいとも思うけど。


 女性の画家も増えてきているが圧倒的に男の画家が多い。画家は変わり者が多いし……深く関わるのはやめて欲しい。




「良いのですか? 興味はあります」



 旅行先でこんな一面が見られるとは、来て良かった。私から申し出た事だからもちろん答えはYESだ。女性の画家を探そう。




 それから街を散策しながら湖まで来た。



「ボートがあるんですね!」


 ……乗るつもりではいるんだが今ではないんだ。



「乗りたい?」


「はい。でも漕げるかな……」


 え?!




「いや、それは私がするからルビナが漕ぐ必要はないよ」



 ボートに乗るカップルの多い事……あんなに近くに! 衝突事故でも起きたら大変だぞ……係員はいるから大丈夫だろうが、釣りをしている者もいるし泳いでいる者もいる。やはり今ではないな。



「今は混み合っているから、後でボートに乗ろう」


「私ボートに乗ったことがないので楽しみです」



 それなら頑張って漕がなくてはいけないな。湖の近くには森があり散策コースになっている。結構歩いてきたがルビナは大丈夫だろうか?



「森林浴コースといってまだ散策コースがあるけどどうする?」



「行きたいです!」



 ルビナに腕を貸して森林浴コースを歩く。木漏れ日が気持ちよく緑の香りがする。


 リスが木の実を頬張る姿を見てルビナは、目をキラキラと輝かせていた。


「可愛いぃぃ……」



 一周すると“ハンモックのあるカフェ”という名のカフェがあった。ルビナは人気のフロートを頼みハンモックに揺られていた。実に楽しそうだ。



「私ばかり楽しんでいますね。ジェイ様は息抜きになっていますか?」



 手を繋ぎホテルへ帰る道でルビナが言ってきた。



「もちろんだよ。旅行に来て本当に良かったと思う。結婚してもまたこうやって旅に出たいね」



 王都は何でもあるけれど、こうやって素直に景色を楽しみリフレッシュする時間は大事だ。



「……はい、あと一年ですね」



「大事にするよ」


 

「私も、です」



 来て良かった! ルビナの両親には信頼されているが信頼されすぎると手が出せない。それが狙いなんだろうか……


 最近ルビナは美しくなり大人の女性に変わりつつある。中身は相変わらず可愛いので、そのアンバランスさがときに私を狂わせる……ルビナが言った通り、あと一年だと思うと耐えられる……と思う。


 たかが一年だ! この先の人生の方が長いんだ。と言い聞かせる。




 たくさん歩き回ったおかげで、夕食を美味しく摂ることができた。夜に行きたいところがあるから早めの夕食を頼んであった。


 食事は部屋に運んでもらい、夕日を見ながらの食事は良いものだ。



 同じ部屋にしたという事は風呂も同じになる……のだがこのホテルには温泉大浴場がある。女性は大浴場を使うことが少ないので、利用は予約制なんだそうだ。男性はサッと入って出てくるので利用客は結構いるのだそうだ。サウナが充実していて男性客にはサウナが人気だ。



「私は大浴場に行くから、ルビナは浴室を使って」



「……はい」



 ルビナが照れるから私も照れてしまいそそくさと、大浴場に行く事にした。




「ジェイ様、間違いのないようにお気をつけください」



 大浴場に着いてきた侍従に言われた。



「言われなくても、よーーくわかっている!」




 トドメを刺すな! こっちは信頼という重い言葉がのし掛かっている! 絶対に間違いは起こさないからな!








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