植物園
植物園を楽しんだあとは、二人を侯爵家に送って行きました。アーサーさんは遊び疲れたようで馬車の中で眠ってしまいました。
「ルビナお姉ちゃんまたね!」
「マルクさん今日は一緒に出掛けられて楽しかったです。アーサーさんにも伝えてくださいね」
ジェイ様はアーサーさんを抱っこしていて、侯爵家に着くと護衛の方にアーサーさんを頼んでいた。
「アーサーはこのまま寝かせてあげましょう。マルクお利口にしていた?」
お義母様に子供扱いされて少し不貞腐れるマルクさん。
「えぇ、まぁ」
お義母様は笑いながらこっちを見た。
「ルビナさんも子供達の相手疲れたでしょう?」
「とても楽しかったです。マルクさんは逆に気を遣ってくれて一緒に歩いてくださったり、アーサーさんもいい子にしていました」
「そう? 良かったわ。ジュリアンヌさん達ももうすぐで戻る時間ね。あなた達はどうするの?」
時計を見ると夕方です。忙しない時間帯ですからそろそろ帰らないといけませんね。ジェイ様を見た。
「私達は帰ります。兄上達によろしく伝えてください」
「そう? 分かったわ、気をつけて帰りなさいね。今日はお疲れ様」
お義母様とマルクさんに挨拶をしてジェイ様と馬車に乗りました。
「ルビナ、疲れただろう? 家で相手をするのとは違って外だと余計に気を遣うもんだね」
侯爵家にいると安全ですものね。今日のお出掛けは護衛やメイド達がいてもやはりケガをしないかなど気を遣ってしまいました。
元気な男の子達ですもの。それなのにちゃんと言う事を聞いて楽しむことができました。私とお兄様の子供時代とは大違いです。よくかけっこをして転んで泣いていたものです。
「二人とも大人しくしてくださったので心配はいりませんでしたね。あの年頃の割に二人とも大人びていますよね。私の子供の頃とは大違いですもの」
ふふっと笑う。
「ルビナの子供の頃か……想像しただけで可愛いと言うことが分かる。なにをして遊んでいたの?」
「そういえば、お兄様と遊ぶとよく怪我をしていました。かけっこをして転んで、石に躓いて転んで……運動も出来ませんし、方向音痴だし……マルクさんとは大違いですね。ジェイ様の子供の頃は何をしていましたか?」
うーん。と考えるジェイ様。
「マルクは侯爵家の後継として教育されているから、私の子供の頃とも違うな。長兄は教師を沢山つけられて、元々優秀だったけど努力をしていた。二番目の兄は騎士になるために鍛錬をしていて侯爵家の護衛にしごかれていた。そんな兄達を見ていて、恥ずかしくないように勉強を頑張っていたな……でもどこか窮屈で外に出たいという気持ちが大きくなって、外国の文化に触れて……もっと知りたくなって、色んな人と話をしたくて……今があるんだよなぁ。留学に行けるのは気楽な三男だからとも言われていたけれど、兄弟仲は良かったからよく庭で遊んでいた。兄達に感謝しかない」
「ジェイ様は今のマルクさんのようですね。マルクさんは留学できますかね?」
「マルクがそれを望んでいるんだから、出来るよ。マルクに負けていられないから私も頑張るよ。ルビナ応援してくれる?」
「もちろんお側で見ています」
ジェイ様の努力は続くのですね。
「ルビナ……」
甘い雰囲気になってきました! あ、ジェイ様のお顔が近付いて……ってダメですから! ジェイ様の口に手を当てた。
「……まだダメ?」
「…………」
私は顔に出るのでジェイ様と……く、口付けなんてしたら家族にどんな顔をしていいか分かりません。
「頬なら良い?」
こくん。と、頷く。
軽めに頬に触れてくるだけのキスをされました。
「……結婚式の時まで、」
「お預けだね……」
サラリとジェイ様は言いましたけど、結構勇気がいったんですから。キスなんてしてしまったらもっとジェイ様の事を好きになってしまいます。
「ルビナに内緒にしていたんだけど、実はバラ園に色々と手を加えているんだ。結婚式までルビナはお預けだな」
ジェイ様は言いましたが、バラ園は十分素晴らしかったですよね? まだ手を加えるだなんて、ジェイ様は忙しいのにいつ眠っているんでしょうか?
お預けって……もうっ。それにしても……
「私に何か出来ることはありますか? ちゃんと睡眠を取れていますか?」
「ルビナは手伝ってくれているよ。屋敷の帳簿を確認したり家のことも手伝ってくれているし、助かっているよ」
食費や光熱費、使用人の給料。屋敷に関わっている業者のリストを新たに作ったりした。そうすることにより支出がよりわかりやすくなるし、覚えやすいのです。運動は苦手な分計算は得意な方です。
東洋から入ってきた算盤という計算をする道具がとても便利で、学園でも流行っています。最近は執事長と一緒にパチパチと音を立てながら弾いています。
「まだ学生で婚姻前なのに帳簿を見せていただいてありがとうございます。ジェイ様お疲れですか?」
目頭をギュッと摘んでいた。
「目の疲れかな。たまにあるんだ」
それならと!
「ジェイ様どうぞ!」
膝をポンと叩く。
「ん? なに?」
「少し目を瞑ってください。今度の旅行でお休みを取る為に頑張ってくれているのでしょう? 横になってください」
無理やりジェイ様の頭を膝に乗せた。
「重いだろうに……」
笑いながらもジェイ様は私に従ってくれます。
「目を瞑ってください」
膝の上にあるジェイ様の頭を撫でてみた。
「辛かったらすぐに言って」
こういう時でも私に気を遣ってくれる。
「大丈夫ですから、目を瞑っててください」
小さい頃にお母様に歌ってもらった子守唄を歌ってみた。
「良いね……」
そう言ってジェイ様は少しだけ寝息を立てた。
「いつもありがとうございます。大好きですよ」
ジェイ様の頭にキスをした。




