披露パーティー5
「はぁっ。疲れた……」
ジェイがルビナの元に戻ってきて開口一番呟いた。
「お疲れ様でした」
と言ってルビナはジェイが上着を着るのを手伝う。つい顔がニヤけるジェイだが……なぜ、こんなにスムーズにルビナは上着を着せることか出来るのだろう……もしかしてあの男? いや……そんな事聞けない。もういない男に嫉妬なんて見苦しい真似だ。と悶々とした。
「ありがとうございます……こうやって上着を着せてくれるなんて、嬉しいです」
聞けないと言いつつ、遠回しに聞くことになる。
「ふふっ。小さい頃お母様の真似をしてお兄様に着せていたんですよ。役に立ちました」
……聞かなくて良かった。ルーク殿に上着を着せていたのか! それは微笑ましい光景だ。
「ジェイ様はお強いのですね!」
ルビナは眩しい笑顔でジェイを見てくる。
「恥ずかしながら、力では負けてしまいますので、ずるといえばずるですから強いというのは少し違いますね」
決して強くはない。どうやったら相手を足止め出来るか? それくらいだ。
「そんな事はありません!」
真剣な顔で否定してくれた。
「少しはいいところを見せる事が出来たという事で良いでしょうか?」
「はい……かっこ良かったです」
レオに感謝をしなくてはならない。いい歳して友人のアシストがないと付き合えないとか……どうかと思うけど。
その後、アンナの夫が遅れてやってきて、ルビナへの誤解がすっきりと解けた。
「かわいい彼女の為とか言いながら、しっかり儲けるつもりだぞ、この男は」
アンナの夫が揶揄う様にジェイに言う。
「おい、余計な事言うなよ……でも赤字にはしたくない。カッコ悪いじゃないか」
「ルビナ嬢、こいつの事頼んだよ」
「バレエ公演が決まったら、またボックス席を確保しておきますので一緒に行きましょう。今回ついてきてくれた侍女のリリさんもお礼がてら婚約者と観に行けるようにしておきます」
公演はほぼ決まった様なものだ。早くて来年の秋ごろ……? その頃には侍女のリリさんは結婚して、男爵家に入っていると聞いた。旅に出てルビナ嬢のことをたくさん聞く事が出来た。協力者? の様な人だ。
「ジェイ様ありがとうございます。リリは私にとって姉の様な存在で大切な人なのです」
ルビナ嬢の大切な人は大事にしないといけない。男爵家に嫁ぐのだから侍女は辞すると聞いた。
「……考えたのですが、明後日はリリさんと街歩きをしますか? 二人で旅行に来る事はこれからは難しいでしょう、護衛をつけますので安心して出かけられる様にします」
明日は疲れているだろうから、ホテルで休む予定だ。明後日はホテル周辺を散策しても良いかと思っていた。
令嬢が好きそうな店も沢山ある。私といては行きにくいかもしれない。行きたいと言われればもちろんどこでも一緒に行くけれど。
「良いんですか? ジェイ様は……ご友人がいらっしゃいますので暇を持て余すことはありませんね」
なんとなくしゅんとした感じのルビナ。
「暇か……話をしたいと思っていた職人がいるので、その人を訪ねてみます。晩餐は一緒にとりましょう。その時に話を聞かせてください」
「……それなら遠慮なく、リリと出掛けてきますね」
******
パーティーが終わって部屋に戻ってきた。
「ルビナ様、何かそわそわしてどうされたのですか?」
「え? そ、そうか、な? 普通だと思うのだけど」
辿々しい返答ににやり。と笑うリリ。
「良い事がありましたね! お話聞かせてください」
「え? な、なんのこと」
挙動不審になるルビナ。を生暖かい目で見る。帰ってきてから様子がおかしいルビナだけど、幸せそうなオーラが漂う。いつも一緒にいるからよく分かる。
「ジェイ様と何かありましたね? さては!」
「な、リリ、」
顔が赤くなり下を向いて何も言わないルビナ。ルビナが何を言い出すかと待つリリ。
「……あのね」
「はい」
「私、ジェイ様のことが好きみたい」
知ってます。とは言わないリリ。ようやく気がついたみたいですね。
「まぁ。ふふっ。相思相愛ではないですか」
「お父様に言っても良いかしら」
何を? 首を傾げるリリ。
「ジェイ様と将来を約束したいって……ディートとの事があったばかりだから早いかしら? もう少し待って貰った方が良いのかしら?」
「帰ってからすぐに旦那様に報告しましょう! ジェイ様を待たせるなんていけませんよ」
それ以上待たせるとなると他の令嬢に取られてしまうかもしれませんよ!
「そうかな? 帰ってすぐにお父様に言うと驚かないかな?」
なんとなく? いえ、既に分かっていますって!
「ジェイ様とご報告をされればよろしいのですわ。ルビナ様の今のお顔を見たら旦那様も納得されますよ」
「どんな顔をしているのかわからないわよ……」
とぉぉっ――っても可愛らしいです!




