ルビナの両親
明日は少し早めに家を出てディートが登校するのを待とうと思った。家に帰ってきたことを連絡していないし、ディートからもその後連絡がなかった。お母様は“放っておきなさい”と言った。
お父様は無言だったしお父様がこういったときは何かを考えている時なので、きっと何も話してくれないし答えてくれないと思う。
「ルビナ、お世話になったハドソン侯爵の御子息には私からお礼を言っておくよ。ルビナも感謝の気持ちを手紙に書きなさい。期限は明日登校するまでだ。お礼は早い方がいい」
お父様がお礼に行ってくれるそうなので、オーナー様に手紙を書くことにした。
「ルビナ。今日は疲れたでしょうから、ゆっくり休むのよ」
お母様に休むように言われたので挨拶して部屋に下がることにした。
無事に家に帰ってこられて良かったと思うと、急に力が抜けて部屋に入った瞬間ソファに体を沈めた……心細くて怖かった。そう思うと涙が出てきてクッションを抱きしめた。
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「ディート! 許すまじ。まさかデートに行って相手を置いて、他の女と何も言わずに出ていきルビナを置いてけぼりにするなんて信じられないわ! ディートがこんな愚かな男だと思わなかった! ルビナはきっと自分が悪いなんて思っているかもしれませんが、明らかにディートの非だわ!」
憤るルビナの母。
「ルビナがモリソン子爵家に帰ってきたことを連絡しようとしたのを止めたのは君だろう?」
ルビナの父は静かに怒っている。口数が少ない。
「えぇ。なんでうちから“勝手に場を離れてごめんなさい。無事に家にいます”なんて手紙を届けなきゃいけないの? ルビナは連絡もなくいなくなったディートを三時間も外で待っていたのよ? 夕暮れも近づいてきていてどれだけ心細かったかと思うとディートの顔を一発殴ってやりたいわ!」
ルビナの父は怒っている妻を見て落ち着きを取り戻してきた。
「モリソン子爵に手紙を書く。これは抗議ではなくディートの今後と態度を見たいからだ。もし今日の事をディートの口から子爵夫妻に話してルビナに正式に謝罪してくるようなら…………大目に……いや……考える。しかし今回の事を隠すような真似をするならばこちらにも考えがある」
そう言ってルビナの父ローゼン子爵は執務室へと入った。その後家令が二通の手紙を預かり執務室を出た。
一通目はハドソン侯爵家ジェイ宛に朝一番に届けるように。
二通目はモリソン子爵家に今すぐ届けるようにと。
次の日の朝一番にモリソン子爵から謝罪の手紙と、内容に関して了承したという返事が来た。
昼近くにはハドソン侯爵家のジェイから返事が届き夕方に会う約束が出来ジェイの店へと出向いた。
ジェイは好青年といった感じだったし礼を言うと礼など不要です。と首を振った。
「困っていそうなので声をかけました。送って行ったのはうちの女性スタッフですよ。私は声をかけて馬車を提供したまでです。守衛が店の前のベンチで座っているルビナ嬢を見ていて、何度か声をかけていたそうです。中で待っていてはどうかと声もかけたそうですが、外にいるのが新鮮で楽しいと言ったそうです。それを聞き、暗くなる前には帰宅させたいと思い強引に送ってしまいました。これで彼との関係にヒビが入るのではないかとも心配しましたが……それとルビナ嬢の誇りにかけて言いますが、ルビナ嬢は知らない人について行っては家族に怒られると断ってきましたよ」
(ホイホイ甘い言葉について来たと思われては彼女が気の毒だ)
「そうでしたか。本当に感謝しています。最近は物騒な事件も多いですし、娘が事件に巻き込まれたらと思うと気が気ではありません。本来なら娘を連れてきたかったのですが、まずは親である私からご挨拶に伺いました。娘から手紙を預かってきましたので時間のある時でも読んでやってください。今回のことで娘はしばらく外出禁止としましたのでご容赦願います」
今回何かあったら外出禁止と妻が約束をして街歩きを許可したのだ。ルビナはわかりました。と素直に言ったらしい。あの子は私たちが心配していることを分かった上で外出禁止を受け入れたのだろう。
友達と学校の帰りに出かけても良いか? と嬉しそうに許可を求めてきていたがそれもお預けになった。
優しいのはあの子の長所だが、それゆえにディートが調子に乗ると困る。たまには感情をむき出しにしてディートに文句を言ってもいいと思う。
少しの文句くらい笑顔で受け入れるような広い心を持った男と一緒になってほしい。私の妻はたまに感情が爆発することがある。それは誰かを思っての事でその姿を見ていると愛らしいと思う。
「無事に家に着いたのならよかったです。外出禁止が解けたら今度は子爵がルビナ嬢と店に遊びにきてください」
ジェイとの会談が終わり家に帰った。話をしていて感じの良い青年だと思った。