初めてのデート2
「疲れましたか?」
首を左右に振る。なんかこう、胸がキュッとなっていた。
「それでは他の場所に行きましょうか?」
「はい」
「ここから先は足元が悪いので、手を」
そっと差し出された手を恐る恐る差し出す。
「もしかして警戒してますか? とって食いはしませんのでご安心ください。今から行く場所は植物園の入場者にはお見せしないところです」
足元が悪いと言っても整備されていない訳ではないけれど、階段を登らなくてはいけなかったので手を借りれるのは正直ありがたかった。
「こちらです」
「ここはハウスですか?」
ガラス張りの建物で、ここも十分に見学出来そうな感じがします。
「はい。この園には夜になると咲く花などもあったり数十年に一度しか咲かない花もあります。しかし入園時間を設けてありますので夜に咲く花は、スタッフしか見ることが出来ません」
「わぁ、それは残念です」
見てみたかった……そんな話聞くと見たくなってしまうではないですか。
「あぁ、ルビナ嬢は特別ですよ。私と付き合ってくれると特典としてお見せすることが出来ますよ」
「……特典、ですか」
「はい。実はこの園だけではなく私の邸にもありますので、いつでも宿泊可能です。しかしその話はまた今度。せっかくですので楽しい時間を過ごしましょう。そろそろレストランへ向かいましょうか」
宿泊? なんて事を言い出すのかと思いましたが、ジェイ様はどこ吹く風で……
植物園にある貴族向けのレストランへ連れてきてもらった。
季節の野菜を使ったコース料理だった。見たことのない野菜もあって説明を聞きながら楽しく食事することが出来た。
この野菜もこの植物園で栽培されているんですって。野菜からは花も咲くのでその様子を知るのも楽しいと思った。
デザートはイチゴのシャーベット。イチゴの葉や花はよく使われているモチーフなので植物園でも育てているのかと聞いたら、その通りです。と答えが返ってきた。
「もしかして先日いただいた香水の原料はこちらで? 色々と考えて植物園まで?」
「はじめは植物園だけのつもりだったんですけど欲が出てきてしまって……予算も結構使ってしまいましたので、今が頑張り時なんですよ。実家の名前を使っていますので、市民からは良い印象を貰っていますし働いている人たちも市民が多いんですよ。働き口も出来て喜ばれています」
「ジェイ様は凄いですね! 色々考えて行動されています。お忙しいのにたくさん時間をとってしまって申し訳ないです」
「働けるうちに働いて後はのんびり暮らしたいと思っています。それに私には信頼できる部下もいますし任せられるところは任せています。それがモチベーションに繋がっていると思います。働く時は働く。休む時は休むと言った感じで身体も脳も健康でいないといけません。この植物園は皆に健康でいてもらいたいという気持ちで作った。と言えば格好は付くんですが、後付けになってしまいますね」
「え? 素敵ですよ?」
「実は…………」
「はい?」
「自分の為です」
「自分の?」
「はい。庭師が素晴らしかった。話が合った。これは何か形にしたい。癒しのスポットを作りたい。ほらね? 私は我儘で甘えのある三男坊なんですよ。経営するからには黒字にしないと申し訳が立ちませんから、頑張りますよ。だからルビナ嬢ももっと楽にして良いんですよ。我儘を言っても良いんです。貴女には素晴らしい家族と友達がいるではありませんか。あの子息が特別非常識だっただけでルビナ嬢に悪いところはありませんでした。あの子息のせいで全ての男性を拒否するのは残念すぎますからね。私もルビナ嬢に気持ちは伝えましたが、無理強いはしたくありません。しかし頼ってくれる相手が私だと嬉しいと思います。そして私の事も知って貰えれば嬉しいです。なので……良かったらまた誘ってもよろしいですか?」
「……はい」
ジェイさまの我儘なんてみんなを幸せにできる我儘なのに、私とは次元が違います。これは(遠回しに)慰めてくれているんですね。




