対面?1
モリソン子爵家の応接室までは見慣れたメイド達が案内してくれました。
ディートと婚約している時はお茶を淹れてくれたりと良くしてくれていたわね。懐かしい……そう思えるほど過去になりつつあるのかもしれません。
すると応接室のドアを控えめにノックする音が聞こえた。
……誰かしら? ディートならそのままドアを開けてきそうなものです。婚約している時は婚約しているのだから仕方が無いのかな。なんて思っていましたが、マナー違反ですよね。
返事をしようとしたらジェイ様が代わりに返事をして扉の近くへと行く。
「はい、どちら様でしょう」
なんとなくこの場にいる人たちは私も含めディートではないと思ったみたいです。
「セシルです。ルビナ様少しお話よろしいでしょうか?」
チラリとジェイ様が私を見てきた。通していいかどうかと問われている様です。
「ジェイ様、セシルさんはモリソン子爵のご令嬢です、通してくださいませ」
「はい、畏まりました」
侍従としてついてきているので、その設定は崩さないようです。扉を開けるジェイ様。
「ルビナ様、突然失礼致します」
頭を下げるセシルさん。
「いいえ。こちらこそ図々しくお邪魔しておりますわ。セシルさんお久しぶりですね、お元気でしたか?」
目に涙を浮かべながらセシルさんは言った。
「ルビナ様相変わらずお優しいですのね。こんなことになって本当は恥ずかしくて顔見せ出来なくて当然ですのに……うちのゴミがルビナ様にひどい暴言を吐いたり、痴漢行為まで……本当に恥ずべき行為です。ルビナ様がゴミと結ばれなくて本当に良かったです……」
……?
「あの、セシルさん? ゴミとは何のことですか?」
「ゴミはゴミです。取るに足りない男のことです。あんなゴミは、いえ粗大ゴミは人の目に入るところに置いてはおけませんので領地で管理することになりました」
……粗大ゴミ、領地……? 管理?
「もしかしてそのゴミというのは……」
「我が兄、いえ元兄で名前だけは立派なディートリヒと言うクズのゴミ男の事です」
「……セシルさん、せめてもっといい例え方が」
「ございませんわ」
キッパリと答えるセシル。
「そ、そう……それなら……セシルさんも大変でしたわね急に跡継ぎと言われて、生活が変わってくるのではありませんか?」
セシルを心配しての事だった。
「はい。子爵家の後継として恥ずかしくない様に努めてまいります。ルーク様に“今後私たちの世代になった時に遺恨を残すことのない様にしよう”と言っていただけた事を胸に励んでいきます」
……しっかりしすぎているわねセシルさん。セシルさんと話をしていて、自分の甘えている部分に気がついてしまった。
「セシルさん。お会いできて良かったです、ここまできたのに、また言い負けそうになったらどうしようかと思っていたんですが、セシルさんの話を聞いて私も頑張らなきゃと思いました。ありがとうございます」
セシルさんに近寄って手をぎゅっと繋いだ。その手はまだ小さくて、まだ子供なのに強くなろうとしている気持ちが伝わりました。
私も今日ディートと話をする事で変わりたい、強く思った。
「ルビナ様、また手紙を書いてもいいですか? 私はこんなことになって顔を合わせづらいと言いながらも、ルビナ様が大好きなのです」
「勿論です。私もセシルさんとのお手紙のやり取りは楽しかったのですから」
セシルさんとはモリソン子爵家に来た時に庭を散策したりたまにお茶を楽しんでいたのだけど、セシルさんはディートがいると話をしなくなるのです……だから手紙のやりとりをして交流を深めていました。意志の強さは垣間見られましたが私なんかよりもしっかりしていますね。背中を押された様な気分になりました。
「それでは、もうすぐゴミが来ると思いますが何かありましたらすぐに護衛が来る状態にしておきますので……因みにゴミは書類上でも廃嫡となっていますし、籍も抜かれて平民になっています。殴っても蹴ってもお好きにどうぞ」
とだけ言って頭を下げ出ていった。暴力はよくありません……リリってば鉄の扇子はいらないわよ! 出してこないで……!
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「……バカの妹にしておくには勿体無い子なんですね」
ジェイ様がセシルさんの後ろ姿を見て言った。
「セシルさんに背中を押されました。ジェイ様私、絶対に言いたいことを言いますね」
「もちろんです、頑張ってください」
と言ってポンと頭に手を乗せてくれました。それは大きな手でした。




