友達の話ではない
「……あの、本当は友だちの話なんかではなくて……」
バツが悪そうにジェイ様を見る。
「……もしかしてルビナ嬢の話でしたか? それでは私なりの見解をお話ししたいと思うのですがよろしいですか?」
「……はい、お願いします」
もしかして最初からバレていた? そうだとしたらとてつもなく恥ずかしい……両手で顔を隠し、下を向く。穴があったら入りたい。そんな気分でした。
「ルビナ嬢は元婚約者殿ときっちりケジメをつけるべきだと思います」
「え? ケジメ……ですか?」
顔を上げてジェイ様を見たら、冗談を言っている様には見えなかった。ケジメって?
「家同士の話ではありますしルビナ嬢もそれを分かっていてご家族に相談できないのでしょう。ご家族に心配かけたくないと思っているのでは?」
「はい、その通りです」
家族に心配や迷惑をかけられないと思っていたのでそれは的確だった。
「これは言いにくいのですがルビナ嬢はご自分に自信がないのではないですか?」
「……はい、だって私なんて、」
「だって、私なんてと言わないでください。ルビナ嬢は素直で家族からの愛情を受けて真っ直ぐ育ったお嬢さんだと私は思います、ご家族が聞いたら悲しみますよ?」
「……でも、元婚約者の子息に忠誠心がないとか犬以下とか我儘とか言われるような、」
「?! ちょっと待ってください!」
ジェイ様は手を頭に当てて考えているような仕草を見せた。頭が痛いとか?
「? はい」
「元婚約者殿はルビナ嬢、貴女に忠誠心がないと言ったのですか?」
信じられないという顔をするジェイ。
「はい。あの時ジェイ様のお店で置いて行かれて、私が勝手に帰った事を怒っていてその次の日に、」
「そもそも勝手に帰ったのではありませんし……そのバカ、いえ、元婚約者殿は……主君か何かなのかな? それともそれに値する人間だったのか? それに犬以下だなんて……確かに犬は種類によっては飼い主に忠誠心を示す犬種もいると聞きます。しかし愛情を持って一緒に暮らすから、お互いに絆が生まれるからであって、婚約者に……未来の伴侶になる人に言う言葉ではない! 伴侶とは共に歩いて支えあっていく相手なんです。それを犬に例えるなんて……もっと怒っても良いんですよ! 何が解消ですか! 婚約破棄を突きつけてやればよかったんですよ! そんなクズには! 一発、二発殴っても足りないな……闇に葬る方法を、」
今度は顎に手を当てぶつぶつと物騒な言葉が出てきた。
(犬に例えられたのは聞いていたが詳しく聞くと腹立たしい。バカだ……その子息は!)
「ジェイ様! ジェイ様!! 戻ってきてください。お顔が怖いですよ」
ハッとするジェイ……
「す、すみません。あまりにも腹が立ってしまって……つい」
「……いえ、この話を友人にもしたんですが、皆が怒ってくれて……でもジェイ様のおっしゃる通り、私の中でまだケジメがついてないからこうして悩んでいるのかもしれません。言いたいこと、あったはずなんです。ただ言えなくて……家族にディートと会って話をしたい。なんて言っても反対されるだろうし、二人きりで話なんて無理でしょうし、でも怖いという気持ちもあります」
「話をしたい、と言うことで良いですか? それはルビナ嬢が望んでいるのですよね?」
「……はい、出来ることなら」
「分かりました。私が付き添いますので、ルビナ嬢の願いは叶えましょう」
「え? ジェイ様がですか? ジェイ様には関係のないことでご迷惑をお掛けするわけにはいけませんよ」
ぶんぶんと首を振るルビナ。
「無関係ではありません。私は貴女が置き去りにされてしまった時にその場に居たんですよ? あのバカが焦って貴女を迎えにきた時は腹立たしくて貴女に同情しました。何度もダンスを踊っていますし、二人で出掛けもしましたよね? これは既に懇意にしていると言っても過言ではありませんよ」
それは……違うような?
「安心してください。私がルビナ嬢の家とバカの家に話をつけておきます。ですから貴女は何を話したいか、何を言いたいかを考えておいて下さい。これがあのバカと会う最後のチャンスだと思ってください」
……バカ、バカって……ふふふっ
「はい、ジェイ様お願いしますね……言いたい事を纏めてきます。お父様のお許しが出るかは分かりませんが、もし了承を得たのなら……その時はガツンと言ってやります」
「お、良いですね!」
「がんばりますっ!」
珍しくやる気に満ちたルビナだった。
 




