ジェイ
職人達と話が盛り上がってしまい、会場入りが遅くなってしまった!
店に出すレディース用のブローチについて細工が細かくて美しかったのでこだわった部分などを聞いていた。
今夜のパーティーはローゼン子爵と付き合いのある家だったからルビナ嬢も来ているかもしれない! そう思いながら焦って会場に入るがルビナ嬢の姿は見当たらない。
ルビナ嬢の兄ルーク殿の姿があり挨拶をした。ルビナ嬢も来ていてもうすぐ戻ってくるはずだ。と。
なんとなくルビナ嬢の姿を求めて会場を出たら廊下で庭を眺めていた。会場から近いし警備もいるからと言って一人になるのは危険だ。
今年デビューした令嬢を狙って“デビュー狩り”と言われる卑劣な行為をする者もいると聞いた。
主に初々しい令嬢が狙われるらしい。何かあっても泣き寝入りする家も多いことから高位貴族がバックに付いているのかもしれないという噂を耳にした。
傷物になった令嬢の行き先はうんと歳の離れた家の後妻か修道院行き。子でも宿ろうものなら亡き者にされる事もあるとか。
とにかく会場に連れて行こうと思い声を掛けようとした。
『はぁっ……』
ため息を吐いているなんて珍しいな。置いてけぼりにされた時でさえも、弱音を吐いていなかった。
『ルビナ嬢、どうしたのですこんな人気のところで』
人気のないところは危険だとオブラートに包むような言い方をした。
『ジェイ様、こんばんは』
全く気がついてないな……危ないぞ。と言いたいところだけど会ってすぐ注意するのは避けたい。
『こんばんは、素敵な夜ですね。今日のドレスもよくお似合いです』
今日は薄紫のドレスを着ていた。肩と腰のリボンが細さを強調するデザイン。
『ありがとうございます。ジェイ様は今来られたのですか? 会場ではお見かけしませんでしたね』
少しは気にかけてくれているようだ。
『えぇ、今来たところです。ルビナ嬢何か悩んでいるようですが、何かありましたか? 良かったら私が相談相手になりますよ』
学園の事で悩んでいるのだろうか? 家族仲は良好だろうから家族の話ではなさそうだよな?
とりあえずここにいてはルーク殿が心配するだろうと会場に戻りルーク殿の了承を得てテラスへと行った。炭酸水を二つ作ってもらいテラスにあるテーブルに置いた。
炭酸水には葡萄が入っていて、口に入れると爽やかな甘みがあった。
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「何か悩み事でも?」
浮かない顔をしている。
「また男性でも紹介されて困っているとか?」
話をする限りあのローゼン子爵が無理やり婚約をさせるとかはなさそうだけどな。
「……いえ、そうではないのです」
「ご気分がすぐれないとか?」
「……そうかもしれません」
明らかに元気がない。
「それは困りましたね。話をしたくなったらで構いませんが、人に話をすると楽になるかもしれませんよ? 私は秘密を守るタイプです。貴女に嫌われたくありませんから」
葡萄入りの炭酸水を口にするルビナ嬢。そして私を見た。
「……実は友だちの話なんですけど」
「はい」
友だちの話という時は大体自分の話だったりするんだけどね、気がつかないふりをしよう。
そういうところがルビナ嬢の可愛さだと思った。